第39話 ユイナside1

その頃、ユイナは二人の後ろを必死に追いかけていた。



「──ギルバート様、アシュリー様!お待ちくださいっ」



高いヒールが慣れないのかヨタヨタと歩きながらユイナは二人を呼び止める。

荒く息を吐き出しながら、アシュリーとギルバートを見ていた。



「お二人のダンスが素敵過ぎて、とっても綺麗で……!感動しましたっ」


「まぁ……ありがとう。けれどユイナ様、まだ挨拶が残っているのでは?」


「そうなんですけど、もう疲れちゃったから……」



ユイナの言葉を聞いたギルバートとアシュリーは目を合わせて微笑んだ。

挨拶を残してユイナはここに出てきてしまったけれど、どうしても二人に聞きたいことがあった。



「あらあら、ウフフ……大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫です!」



アシュリーの本当の言葉の意味を理解することはない。

ユイナは自分の目的を達成するために必死だった。

オースティンとは違い、同じ王子なのにギルバートはとても優しそうだ。


(アシュリー様はいいなぁ……怒られることはないんだろうな)


そんな考えを抑えながらアシュリーを見た。



「私っ、アシュリー様にお友達になって欲しくて!」


「わたくしと、お友達に……?」



アシュリーの指先がピクリと動いたことも気づくことはない。

ユイナは唯一同じ力を持つアシュリーに親近感を抱いていた。

表情を固くするアシュリーに気づくことなく、ユイナは言葉を続けた。



「アシュリー様は私より弱いけど同じ力を持っているんですよね!?」



アシュリーはライトブルーの瞳を大きく見開いた。

しかしすぐにいつも通りの笑顔に戻る。



「……えぇ、そうね」


「最近、気になることがあって」


「どんなことかしら?」


「私の使う魔法の効果が落ちているみたいなんですっ!オースティン様にも色々言われて落ち込んでいて」


「…………」


「アシュリー様は、そんな時どうしていましたか!?私はいつも通りやっているつもりなんですけど、もう自分ではどうしたらいいかわからなくて……」



ユイナはアシュリーに自分の悩みを話したかった。

王宮に閉じ込められてマナーを学んだり、結界を張ったり、治療ばかりさせられることに嫌気がさしていたこと。

やりたくもない厳しい王妃教育を受けさせられることが嫌で自分の部屋に逃げ込んでいること。

そして、オースティンに対しての治療の効果が薄くなり具合が悪そうにしていることも……。


ユイナが必死に話しているとアシュリーの唇が大きく弧を描いていた気がした。

しかしすぐに苦しそうな表情になったことに気のせいだったと思った。

そしてアシュリーは泣きそうになりながらポツリと呟くように口を開いた。



「あぁ……やっぱりそうなってしまったのね」


「えっ……!?」


アシュリーの言葉にユイナの心臓が跳ねた。

アシュリーはこうなることを知っていたというのだろうか。

ユイナは異世界に呼び出されて泣いている自分を励まし続けてくれたオースティンのためにどうすればいいのかをずっと考えていた。

自分の力をこんなにも必要としてくれているのに何故か力が弱まっている。


国を守る結界も弱くなっていると侍女が話していると聞いた。

苦しむオースティンを目の当たりにして、自分のできることをしたい。

もしアシュリーに会うことがあったのなら、正しいやり方を聞きたいと思っていたのだ。

しかしアシュリーの反応はユイナが思っているものとまったく違っていた。



「やっぱり、ってどういうことですか!?アシュリー様は何か知っているんですか!?」


「えぇ、そうね。でも今のユイナ様にはとても言えないわ」



アシュリーはそっと寂しそうに瞼を閉じてから静かに首を横に振った。



「あの……教えてくれませんか!?」


「ダメよ。あなたの幸せを壊してしまうかもしれないもの」


「……!」


「ユイナ様、可哀想に……」



何故アシュリーが先ほどから自分を憐れむのか、その理由を知りたくて仕方なかった。

『可哀想』その言葉が心に蟠りを残していく。



「本当に何も聞いてないのね……言えなくて当然よね」


「どっ、どういうことですか!?」


「わたくしもずっとそうだったもの」



アシュリーの隣にいるギルバートまで悲しげな顔をして、彼女を優しく抱きしめている。

ユイナの心臓はドクドクと激しく音を立てていた。

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