第35話 オースティンside9


オースティンは親しい令息たちから、よく婚約者の愚痴を聞かされていた。

それは婚約者が今のユイナのような行動を取って困らせるというものだ。

けれどオースティンは毎回それを他人事のように聞いていた。


今思えばアシュリーはそんな煩わしい令嬢たちのようにオースティンを困らせるような行動を取ったことも我儘を言ったことも一度もない。

もしユイナのような反応が普通なのだとして、アシュリーが異常に我慢強かったのだとしたら……。


(ありえない、ありえないっ!俺が間違えたなど絶対に認めない……!)


アシュリーと関係を修復しようとしても、ギルバートと結婚してもう手の届かない場所にいる。

そのことがオースティンの中の不安を更に煽り立てていく。


今まで当たり前のように隣にはアシュリーがいた。

何も文句を言わずに、ただ尽くすアシュリーが当然のように国を守っていたのだ。

そんな彼女を塵のように捨て自分から手を放した。

そして自分の意思でユイナを選んだのだ。


(だから何だと言うんだ……っ!)


オースティンは自分の間違いを認めたくなかった。

何とか打開策を練らなければならないと考える。

あと数日で婚約披露パーティーだ。

途中で発作が起こらないように日付を合わせてパーティーの前日にユイナに治療を頼むつもりだった。


アシュリーとギルバートにも招待状を送っていた。

あの時はまだ何もかもがうまくいっていて、幸せを見せつけられる余裕があった。

だが今はどうすればいいかわからない。

自分のプライドのために今は婚約パーティーを成功させなければならないと思った。


(……絶対にパーティーは成功させてみせる!)




* * *



婚約パーティー当日。



「わぁ、素敵……!こんなドレスを着られるなんて、まるで物語の世界に入り込んだみたい」


「ユイナ、いつもは可愛らしいけれど今日はとても綺麗だよ」


「オースティン様、嬉しい……!ありがとうございます」


「………」



オースティンは朝からげんなりとしていた。

パーティー打ち合わせや手順を説明しに来たはずなのに、ドレスの髪飾りはどちらがいいか、アクセサリーはこんな感じでいいのか……そんなことばかりで頭が痛くなってしまう。


結局、ユイナはあれから何も習得しないままパーティーの日を迎えた。

問題は山積みのまま、更に新しい問題が積み重なっていく。

ユイナに結界を張ってもらわなければサルバリー王国がどうなるかわからない。

弱まってはいるが張らないよりはマシだった。

ユイナはまだそのことは知らない。

周囲も強くは言えずにユイナに対して生温かい対応が続いていた。


(まずはこのパーティーを成功させる。そこから問題を解決していこう)


まず王妃教育より先にユイナの力をどうにかしなければならない。

苦渋の選択ではあるがユイナを召喚した際に連絡を取った魔法師を呼び寄せるために連絡を取るしかないと決断に至る。

これでまた大金を払わなければならないと思うと憂鬱だった。


そしてまだ詳細は決まっていないがユイナ以外の他の令嬢を側妃として迎え入れる案が出ていた。

重要な公務に今のユイナを同行させることは絶対に不可能だからだ。


(アシュリーの時はこんな些細な問題で躓くことはなかったのに……!)


アシュリーは幼い頃に王妃教育はすべて終えていた。

それに重要な公務にはアシュリーと共に参加していたが、特に何も問題が起きずに終わるため気を揉んだことは一度もなかった。

また新しい令嬢を迎えるにあたって、時間も手間も掛かるが致し方ない。

ユイナにやる気がなく、口出しできない以上、そうしていくしかないとの判断だった。

それをユイナに伝えれば間違いなく反発するため、このことは秘密裏に進められていた。


ユイナの世界では例え王族のような立場であっても、結婚すれば伴侶は一人しか迎えてはいけないそうだ。

愛人を囲うことも側妃を迎えることも、全て不貞行為になり罰まで与えられてしまうらしい。


つまりこちらの世界の当たり前がユイナにとっては当たり前ではない。

そして自分の世界のルールをオースティンに押しつけてくる。

オースティンはユイナに合わせる羽目になる。


(何故、我々が向こうのルールに縛られなければならないのだ。ここはサルバリー王国だぞ!?)


しかし公務をこなすためには、パートナーが必要なのだ。

だからこそ今度は王家に歯向かってくることのない良識ある令嬢を選ぶべきだと思っていた。


エルネット公爵のような面倒な相手を引き込まないためにも相手の令嬢を選ぶのを慎重に動いていた。

それは宰相や母がうまくやってくれることだろう。


(まぁいい……今はパーティーを成功させることだけを考えよう)


嬉しそうにローズピンクのドレスを着て鏡の前でクルクルと回るユイナを見ていると溜息しか出てこない。

このオーダードレスを決めるのにも何時間掛かったことか。

今はユイナへの気持ちが伴わないため、すべてが苦痛に感じていた。


やっとユイナの髪飾りとアクセサリーが決まったため会場に向かって歩き出す。

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