第30話 オースティンside4
「反発を抑えるためには致し方ない」
「言い訳を繰り返しても、いつかはこうなってしまっていた」
「それが少し早まってしまっただけのことだ」
そう言って父と母は納得していたが、やはり不安は大きくなるばかりだ。
ユイナの力を必要以上に広めないように手を回さなければならないのではないか。
もしこのままでいけばどうなってしまうのか安易に想像できる。
オースティンの必死の訴えも受け入られることはない。
それにアシュリーとは違い、異世界から来たユイナは何をするにも注目の的で、異界の聖女の名は下町にも広がりを見せていると聞いた。
それにユイナは「私の力が役に立つのならがんばりますから」と言って、大人数の治療に意欲を見せている。
(……クソッ)
ユイナにはゆっくり休むように伝えて部屋に戻らせた。
オースティンはすぐにエルネット公爵邸に通っていたループ伯爵の元へと向かった。
そしてアシュリーの治療を受けた時と何か違いがあるのかを聞くためだ。
「アシュリーの時と何か違うか?」
「ユイナ様の治療の方が効果が大きいように感じます」
「そうか……!」
「これでまた眠れるようになります。助かりました」
「……最近、エルネット公爵の様子はどうだ?」
背後から父がやって来て、顔を歪めながらループ伯爵に問いかける。
ループ伯爵は商業を営んでおり、エルネット公爵邸へ週に一度、生活用品や食品を届けている。
しかしループ伯爵は体を固くして口籠ってしまった。
王家に黙って、エルネット公爵邸の元に治療に通っていたことを咎められると思ったのだろう。
「今から話すことを咎めるつもりはない。正直に話せ」
「は、はい……!アシュリー様がペイスリーブ王国のギルバート殿下の元に嫁がれてからは誰もエルネット公爵邸に向かう者はおりません」
「……」
「始めは……前金と言って、たくさんの方々から金をもらっていたのですが、アシュリー様が屋敷を離れて治療が受けられないことがわかるとすぐに返金しろと言われていたようです」
「やはり、そうか。エルネット公爵とアシュリーは王家に黙って治療を行っていたのだな」
「……はい」
オースティンの中でまたエルネット公爵への軽蔑の気持ちが増していく。
このまま落ちぶれていけばいい……そう思っているとループ伯爵はポツリと呟くように言った。
「アシュリー様がいなくなってからはエルネット公爵家に通っていた者は皆、苦しんでいます」
「なんと……!そんなに大人数の治療をさせていたのか?報告は受けていないぞっ」
「それが……大人数どころではありません」
ループ伯爵は悲し気に目を伏せて首を横に振る。
「ど、どういうことだ!?」
「アシュリー様は……エルネット公爵たちから解放されて幸せだったのかもしれません。治療を受けていた私が言うのもアレですが、アシュリー様が可哀想で見ていられませんでしたから」
「あの女が可哀想だと?何故だ、説明しろッ?」
オースティンの勢いにループ伯爵は困惑しているのか眉を寄せた。
「ア、アシュリー様はエルネット公爵と夫人に言われるがまま部屋に閉じ込められて、ずっと治療をされていたのです。外出もさせてもらえず幼い頃からずっと……」
「は……?」
「私も初期の頃からずっとエルネット公爵邸に通っていた一人です。公爵たちはアシュリー様に〝王家や国のために〟〝これは人助けだから〟と治療をさせていました。小さなアシュリー様は何も知らないまま次々訪れる人々に優しく声を掛けておられました」
「……」
「大金が手に入ると分かった途端、エルネット公爵はどんどん治療費を吊り上げて治療する人数を増やしていきました。エルネット公爵と公爵夫人の振る舞いは派手になり、アシュリー様の顔色はどんどん悪くなるばかりで……」
「……何だと!?」
「我々は何も言うことができませんでした。もしエルネット公爵に少しでも意見すればアシュリー様の治療が受けられなくなってしまいますから」
「……!」
「私は隠れて砂糖菓子やぬいぐるみ、本を渡すくらいしか出来ずに……それでもアシュリー様はとても喜んでくださいました」
エルネット公爵は王家に対しても〝我々に意見をすれば治療を行わない〟と、見えない圧を常に放っていた。
治療が受けられなければ命に関わる。
エルネット公爵たちの言うことに従わざるを得ないというわけだ。
あれだけエルネット公爵が色々な貴族たちに横暴な態度を取っても許される理由が理解できるような気がした。
「アシュリー様の兄であるロイス様がアシュリー様を庇うからペイスリーブ王国の王立学園に飛ばされてしまったのです。それからはもう目も当てられませんでした。アシュリー様は休む間もなく朝から晩までずっと治療されていましたから」
「……!?」
「外出は結界を張る時だけ……噂によればアシュリー様は逃げるように嫁がれたそうですよ」
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