第29話 オースティンside3


確かにアシュリーは作られたような完璧な美しさで背筋がゾッとする。

端正過ぎて温かみを感じないアシュリーはオースティンが婚約者でなければ様々な令息に言い寄られていたことだろう。



「あの時、アシュリー様に申し訳ないことをしちゃったなって、ずっと気になっていたんです。でも今は隣国の王子様と結婚したんですよね?」


「……っ」


「幸せそうでよかった」



ユイナはそう言って安心したように笑った。



「オースティン様、どうかしましたか?」


「あぁ……そう、だな」


「……?」


「ユイナ、そろそろ行こうか。まだまだ案内したい場所があるんだ」


「はい!」



肖像画に夢中のユイナの背を押した。

そしてすぐにアシュリーの肖像画を外させた。

天使のように微笑むアシュリーの笑顔が頭から離れなかった。


アシュリーと婚約破棄をしてユイナと婚約してから二か月半の月日が経過しようとしていた。

朝起きると胸元に違和感を感じた。

それは幼い頃に苦しんだ病と似た症状だと思った。


(……気のせいか?)


小さな痛みと息苦しさを感じて胸元を押さえる。

二週間前にも風邪かと思い、一応ユイナから治療を受けたばかりだった。


異世界の聖女であるユイナの力はアシュリーよりも上だ。

異世界人の力は一時的だという迷信もあるが、それは嘘だと思っていた。

一時的になら、もう効果がなくなったっておかしくはない。

実際、噂を聞きつけた他国の要人たちが聖女の召喚方法を教えて欲しいと手紙を寄越した。

しかし異世界から人を呼び出すには膨大な金が必要だった。

だがエルネット公爵家に金を渡すくらいならコレでいい。

それが両親が選んだ答えだった。


ユイナは異世界人だから特別なのかもしれないが、一瞬で結界を張り、病もすぐに治してみせた。

ユイナに治療を受けた時から、今まで一度も経験したことのない体の軽さを感じた。

父も異世界の聖女の噂を聞いたことがあったのかアシュリーが体調を崩した時にユイナに結界を張らせていた。

そしてなんの問題もなく過ごせたのを確認してからアシュリーとの婚約を破棄をした。

絶対に大丈夫だと確信を得てから、アシュリーを追い出したはずなのに。


(ユイナの力ならば絶対に大丈夫なはずだ。こんなことは杞憂に過ぎない……)


気のせいだと言い聞かせても『まさか』『もしかして』そんな考えが過ぎるたびに恐怖が襲った。


周囲に相談したとしても「考えすぎだ」「ユイナ様はこちらの世界に来たばかりで疲れているのでは?」と、言われるだけで、誰にも相手にされることはない。


(ユイナは慣れない世界で懸命にがんばっている。少し休ませて、こちらの世界に慣れていけば効果は元に戻るはずだ……)


そう考えていても、心配になって居ても立っても居られなくなり父や母に相談してみたが、やはり「考え過ぎじゃないのか」と一蹴されてしまう。

しかし不安を隠しきれないでいると、持病のある大臣を呼び出してユイナの力を試すこととなった。


やはり上の立場になればなるほどに「ユイナの恩恵を我々にも」という声が無視できなくなる。

丁度いい機会だからと、ユイナが自分以外にも力を試す場を設けた。


そして昔からエルネット公爵邸に通って持病の治療をアシュリーから受けていたと言っている者たちに協力を求めた。

王家に黙って治療を受けていたこともあり、ユイナの治療を受けられるとしても誰も手を上げなかった。


しかし昔から片足を引き摺っているループ伯爵が名乗り出た。

ループ伯爵は、最近歩くときに杖を必要とするようになった。

足の病気が重くなり痛みがひどくなりはじめて、不安で夜も眠れないのだと罰覚悟で王家の呼び出しに応えたのだった。

ループ伯爵を呼んだ目的は、アシュリーとユイナの治療の効果を比べるためだ。


(もしアシュリーに治療を受けていたループ伯爵が、アシュリーよりもユイナの力の方が上だと答えるならば、もう疑わなくてもいいだろう……)


オースティンは固唾を飲んで治療の様子を見守っていた。

ユイナはいつものように、目を閉じてから手を握り力を込める。

すると手から温かみのある光が漏れ出した。

ここである違いに初めて気づくことになる。

それは治療をする時に漏れている光の色だった。


(まさか……いや、気のせいか?)


アシュリーはいつも真っ白だった。

けれどユイナは温かみのある薄黄色だった。

それは本当に僅かな違いで、今まで色などに注目したことがなかったため気づかなかったようだ。


(色が違っても、効果は同じ……何も問題ない)


治療が終わったのか、ユイナは目を開けて笑顔を浮かべる。



「……終わりました。どうでしょうか?」


「おぉ、体が軽い」


「私もです!痛みが少し引いたような気がします」



大臣はユイナを褒め称えた後に満足気に去っていった。

「また頼むよ」そんな言葉を残して……。

ユイナの力を独占したい王家にとっては誤算ではあるが、このままでは貴族たちから反発は避けられない。

それにアシュリーがいない今、命が掛かっているためか皆が必死に王家に訴えかけてくる。

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