第31話 オースティンside5
オースティンは初めてエルネット公爵家の事情を聞いた。
確かにアシュリーの兄、ロイスは六年前からペイスリーブ王国の王立学園に通っている。
だがその理由がエルネット公爵たちがアシュリーとロイスを引き剥がすためだったらしい。
ギルバートとロイスが学園での知り合いならば、アシュリーが嫁いだことも辻褄が合うのではないか。
「エルネット公爵はアシュリー様を返せとペイスリーブ王家に訴えかけていたようです」
オースティンはエルネット公爵の勝手すぎる行動に開いた口が塞がらなかった。
(エルネット公爵は何を考えているんだ……!一歩間違えばサルバリー王国はどうなる!?)
これは両親に報告しなければと思っていると、ループ伯爵は話を続けた。
「どうやらペイスリーブ王家から一生遊んで暮らせるほどの手切れ金をもらって手を引いたようです……その代わりエルネット公爵と夫人はロイス様とアシュリー様の権利をすべて手放しました」
「………なん、だと?」
「私はアシュリー様の幸せを願うばかりです……!」
ループ伯爵の話を聞いて衝撃を受けていた。
まさかアシュリーがエルネット公爵邸でそんな扱いを受けているとは思いもしなかった。
(アシュリーは外に出たくても出られなかった?そんなこと……本当にありえるのか?)
しかしエルネット公爵と夫人、あの二人ならばやりかねない。
時折、オースティンの前で見せる困ったような笑顔を思い出す。
(どういうことだ!?王家から大金をもらい遊んで暮らしていたのではないのか?だからアシュリーはいつも笑顔でいられたんじゃ……)
今までアシュリーが王家から貰った金で優雅に暮らし、オースティンたちを嘲笑いながら結界を張りに来ているとそう思っていた。
しかしアシュリーはオースティンが想像もしていなかった境遇にいたようだ。
(部屋に閉じ込められて朝から晩まで治療させられ続けていただと!?まるで……奴隷じゃないか!)
確かにアシュリーをパーティーや夜会、お茶会などで見かけたことは一度もなかった。
自分もアシュリーを誘ったこともないため、気づきもしなかった。
(自分の意思で部屋に閉じこもっていたわけではないというのか?)
アシュリーはいつの間にかエルネット公爵同様、憎むべき相手になっていた。
執事に呼びに行かせた父も母もループ伯爵の話を信じられないという顔をしながら聞いていた。
話し終えたループ伯爵は丁寧にお辞儀をして、足を引き摺りながら去って行った。
「……父上」
「もう過ぎたことだ。忘れろ、オースティン」
「ですが……」
「それよりもこれでユイナの力がアシュリーより上だということが判明したな。ハハッ!これからは安心できるじゃないか……なぁ、オースティン」
「…………はい」
アシュリーのことを知ったとしても、ペイスリーブ王国にいるのだからどうすることもできない。
確かに今回のことはユイナの力を証明するには十分だった。
ユイナは二人を治療して、一人はアシュリーよりも効果が上だと意見を述べた。
「心配することはないさ!ユイナがこの国に来てくれてからすべてがうまくくいっている」
「……」
「オースティン、少し考えすぎだ。ゆっくり休んだ方がいい」
この一件から更に二ヶ月程経った時。
パーティーでギルバートに会う機会があった。
しかしその日、オースティンは体調が悪くて咳が止まらなかった。
オースティンはそれでも会合に参加した。
国同士を繋ぐ大切な会合に顔を出さないわけにはいかないからだ。
しかし無理が祟ったのか冷や汗が滲む。
会合が終わった後、ギルバートが胡散臭い笑みを浮かべながらこちらにやってくる。
ギルバートの隣にはアシュリーの姿はない。
そのことにホッとするような、彼女の顔を見たかったような複雑な心境だった。
(アシュリーは来ていないのか)
そんなオースティンの考えを見透かしているかのようにギルバートは笑みを浮かべてこちらを見ている。
反論する間もなく、ギルバートにはアシュリーとの結婚を祝う声で溢れていた。
「ギルバート、婚約者もいなかった君が先に結婚するなんて驚いたよ」
「ああ、今はとても幸せなんだ」
「サルバリー王国の元聖女なんだろう?オースティンの元婚約者だと聞いたが」
「……っ」
核心に触れた話題にオースティンはうまく言葉を返すこともできずに口篭る。
しかしギルバートは爽やかな笑みを浮かべていた。
「実は彼女の兄が僕と同じ学園に通っていて、話を聞くうちにどんどんと彼女に惹かれていった。それに以前、パーティーで腕を痛めていたところをアシュリーに救われたことがあったんだ」
ギルバートは平然とアシュリーとの思い出を語っていた。
意外なギルバートとアシュリーとの接点を初めて知ったのだ。
(まだ俺の婚約者だったくせに……!なんなんだっ)
オースティンの腑は煮え繰り返りそうになっていた。
「確かにオースティンの元婚約者だが、彼女は本当に素晴らしい女性なんだ。美しくて聡明で慈悲深い。彼女と結婚できて僕は幸せだよ」
周囲にいる王子たちはギルバートを茶化すようにヒューと口笛を吹いた。
オースティンは息苦しさに胸を押さえたくなった。
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