1人目
「いやぁ着いた着いた。いつ見てもここから見える景色はいいんだよね」
ちょうど時間割で言う昼休みくらいに到着した蛍誓は、特に授業を受ける気もなく校舎の屋上で風を感じている。本来は職員から鍵を借りなければ立ち入ることの出来ないところだが、そんなのは彼のような不思議な存在にかかれば多少の細工でなんとかなってしまうのだ。
「そしてだ……おそらくはじめましてだと思うけど、君はどうしたのかな?」
振り向いた蛍誓の瞳には、開放された屋上の入口に佇む女子学生がひとり映っていた。
「あの、ここで願いを叶えてくれるって、聞いたんです、けど……」
今回のまじないはどうやらそういう感じになってるらしい。
「うん。そうですよ」
とにこやかに微笑めば、相手は安心したような顔で言葉を続けた。
「私、どうしても今度のテストの総合点で学年1位を取らなくちゃいけないんです!なんとかしてくれませんか!」
「いいとも。」
蛍誓は懐に手を入れて、ちょっぴり使用感のある製図用シャーペンを取りだした。そしてそのまま女子学生の目の前まで歩き、彼女の手を取りシャーペンを握らせる。
「これで毎日勉強するといい。すると君の脳と一緒にこのペンが学んで成長していくよ。あとはテスト本番で使うだけ、そうすれば君が思い出せない公式も証明も全部代わりに書いてくれます。どうでしょう?」
さすがにゼロから知識を引き出せるようなものは渡せないからね、これくらいで勘弁してほしい。
「……わかりました。」
満足いただけたようだ。幸先が良くて何より。
「じゃあ、お代だけど、シャーペンと消しゴムを1つずつでいかがでしょう。学校には文房具が必要ってことをすっかり忘れてましたので」
女子学生は怪訝な顔をしながら筆箱を取り出し、シャーペンと消しゴムを差し出した。
「えっと、これ……使いかけでも大丈夫ですかね……?」
「もちろん。君に幸があることを祈っているよ」
文房具一式を受け取る。これで授業があっても安心だ。本当はノートも欲しかったけど、それは別の人から貰うとしよう。
女子学生が去っていくのを確認した蛍誓は再び錆びたフェンスに寄りかかり階下を見る。手前から順番にちょっとした花壇、野外の運動場、その先がすぐ崖、そして海という遠慮なしの構成。これ野球とかテニスの球絶対海に落ちてるでしょ、どうしてるんだろう。建てた奴の気が知れないが、そのおかげで僕の目は楽しめているから結果的にありがたい限りだ。予鈴が鳴ったのでそろそろ授業も始まるのだろう。適当に床の土埃を払って横になる。今日はこのままだらだらするとしよう。
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