蛍誓、学校に行く
鯛谷木
序
ひと夏のあれやこれやが沈んでないかと湖畔のリゾート地を訪れてみたはいいものの、なぜだか坊主続きで商売のやる気も起きず、ダラダラ居座っていた蛍誓(ケイセイ)は日の出と共に思い立つ。
「そうだ、学校へ行こう」
実は、蛍誓は以前からたびたび無断で学校に潜り込んでいた。興味本位の時もあるが、だいたいは増えすぎた商売道具を売りさばくために。荷物を減らすためには人の多いところへ行くに限る、それも欲のある元気な人間の多いところへ……と言った感じで、生徒の振りをして気ままに学校で過ごすのだ。これがなかなかちょっとした旅行のようで、楽しくてやめられない。曰く付きの道具が必要な、チャンネルの合う人間が己の元にたどり着くよう仕掛けを施しておけば入れ食いだし。まぁとにかくそこら辺は置いといて、彼はしばらく学校に通うことにしたのだ。行き先は私立ヴィーセース学園。ヨーロッパかぶれの金持ちが道楽ついでに建てたロマンチックな(古めかしいとも言う)海辺の全寮制高校である。
「川を下ればすぐのはずだし、そうと決まればさっそく着替えちゃおっと」
見た目年齢は高校生に調整。服装は着崩した学校指定の緑のブレザー。目が隠れる長さの前髪は適当に中央あたりで分けて、右目には医療用眼帯を。身なりを中二っぽい格好に整えた後、蛍誓はそこら辺に停めておいた小さな船を漕ぎ出した。なんでそういうキャラ作りをするかって?雰囲気を大事にしたいタイプなんだよ、僕は。
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