転生した先で悪党になりました。〜自由が欲しいだけなのに国や仲間が許してくれません〜

朝渕翼

第1話

「おい!藤堂!お前はいつになったら契約を取るんだ!!」



「…はい。申し訳ありません。」



「全く…。他の奴らはきっちり契約を取ってるってのにお前ときたら…」



そう俺に対して長く説教をしているこの薄毛デブは営業課長であり、俺の上司だ。


コイツはいわゆるバブル世代とも呼ばれる人間で、俺より少しは優秀なのかもしれないが社内での振る舞いを見る限りとてもじゃないが上司の器ではない。



「おい、聞いてるのか?ボサっとしてねぇでさっさと外回り行ってこい!!」



そう怒鳴られ俺は逃げるように会社を出た。



「そうはいってもどうしろって言うんだよ…。」



俺が入った会社はどうやらブラックだったらしく、土日出社は当たり前。寝る暇もなく働き続けた俺の体はいつの間にかガタが来ており、視界がぼやけて見える。



「あれ……なんで、床が……?」


自分の体が倒れている事すら認識する間もなく呟いた間抜けな台詞が俺の最後の言葉となった。





暗闇に沈んだ意識の中、俺は自分の体が先端から崩れ落ちていくような錯覚に陥った。



「嫌だ…!死にたくない!こんな死に方認めないぞ!俺はまだ生きたい!!」



足掻く。無駄な事だとしても関係ない。生を授かって早30年。全て誰かのレールに従ってきた。自分の道は自分で決めたいと思った事もあるが、何一つ通らない意見に絶望した俺は親の言うまま地元の会社へ入った。



「(その結果がこれなんて……俺は認めないぞ…。もし次があるなら……。)」



最早何一つ動かせずに崩れた身体を見ながら俺は次を願う。


暗くなる視界を最後に俺の意識は途絶えた。



「おんぎゃああああ!!!!」



「元気な男の子ですよ〜!」



どうやら俺には次があるらしい。





「おーい!ジーク!また畑に水をやってくれ〜!」



「分かったよ父さん。」



俺は木の影で読んでいた本を閉じて畑へと向かう。この世界には魔法という概念があり、俺にはその才能があった。その事に気がついた俺はこの言葉も通用しない世界で必死に努力をした。


……時間が飛び過ぎだって?赤ちゃんがおぎゃおぎゃ泣いて乳吸ってる姿なんて見たくないだろ?



「第一節=水玉【シングルスペル=ウォーターボール】」



畑の前に立った俺は右手に魔力を込めて呪文を放つ。


この世界の魔法にはルールがあるらしく、魔法の難易度によって最初のスペル部分が変化する。これは大気中に漂う魔素を集める為に必要なプロセスで、第一…第二と増やす事で込められる魔力量が変化するが、集めるには才能が必要らしい。


また、後半部分の言葉には集めた魔素の方向性を決めるもので、俺が使っているこの魔法は水玉を出現させる魔法だ。



「いやぁ…いつ見ても立派なもんだなぁ。流石俺の息子だわ!はっはっは!その調子で頼むぜジーク!」



「はいはい…ったく調子いいんだから。」



仕事をこなすと分かりやすく調子良く去っていく父の姿を見て俺は木陰に戻って本を開く。



「おーい!ジーク!遊ぼうぜ〜!!!」



「はぁ…どうやら今日は本を読むのを諦めるしかなさそうだ。」



近付く三つの影を見た俺は再び本を閉じてこの世界で出来た友達の元へと向かう。



「おいジーク!俺と剣で戦え!!」



俺に剣で挑んできた赤髪を刈り上げた目つきの悪い男はダン。元々ガキ大将のようなポジションに居た男だが、絡まれてしまった時に大人気なく喧嘩で勝ってしまった俺に常々喧嘩を売りつける熱苦しい奴だ。



「もう……。相変わらずダンは熱苦しいですね。」



そんなダンに冷や水浴びせるような言葉を放った学者風の男はシャール。俺が魔法の存在を知る事になったきっかけであり、優れた魔法の使い手だ。



「そういうシャールはいつも難しい話ばっかしてて何言ってるか分かんねぇんだよ!」



「ちょ、ちょっと落ち着こうよ2人とも!」



そんな言い合う2人を止めようとするが上手くいかずに涙目になって慌てるだけの装置になった桃色のショートボブが特徴的な小柄なコイツはノア。一目見た時は可愛い女の子かと勘違いしたがコイツは立派な男だ。



「おいおい、そう騒ぐなってお前ら。よし…ダン、やろうじゃないか剣はあるんだろ?」



「分かってるじゃねぇか!ほらっ!」



こういう時はダンをさっさと打ちのめした方が良いことは分かってる。過去に放っておいた事があるが、俺が楽しみにしていた本を隠された挙句それを理由に再び挑まれた。そんな事もあって俺はダンの木刀を受け取る。



「全く…ジークもダンと変わらないじゃないですか……」



「ど、どうしよう!と、止めなきゃかな?」



他2人が何やら言っているが、目の前で闘気を漲らせているダンの構えを前にして他を気にする余裕は俺に無かった。



「それじゃあ行くぞ!!ジークゥ!」



こちらへ猛スピードで上段の構えで走るダンに対し俺は中段で迎え撃つ。



「ダリャッシャア!!」



気合を込めながらこちらへ滅多打ちする上からの暴力を一つずつ俺は受けていくが、少しずつ流せずに後ろへ俺は押されていく。



「こ、これダンが勝っちゃうんじゃないの?」



「さぁ?勝負は最後まで分からないものでは?」



そう。勝負は最後まで分からない。俺はダンが木刀を振り上げトドメの一撃を決めようとした瞬間に横へ逸れた。



「おおっとーーっ!?」



勢いに任せた一撃は見事にスカして地面に刺さった。そうして隙だらけの首元へ木刀を添えた。



「……はい。俺の勝ち。」



「くっそ〜!今回も負けちまった!!」



「全く…ダンはいつも同じ攻め方で芸がありませんね…。」



「んだとォ?テメェ!お前も俺と戦え!!」



「はいはい、お前ら俺に用があったんじゃねえの?」



相変わらず仲の悪い2人の窘めつつ本題について聞くとノアが一言。



「そ、そうなの!なんか村の外れに山賊のアジトが出来たらしいの!!!」



今日は忙しい日になりそうな予感がした。

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転生した先で悪党になりました。〜自由が欲しいだけなのに国や仲間が許してくれません〜 朝渕翼 @ASABUTI

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