第16話 まさかの同部屋

 冗談なしと言いながら、冗談混じりの相羽に、ルミナや英弘ばかりか、母親までくすっと笑った。

 一人、純子だけが、ますます気を滅入らせていく。

(ちょっと! もう、私も数に入れてるわけ? 勝手な……)

 しかし、今や私は遠慮しますと言えない状況に陥っていた。

 何故って、ここで純子が断れば、相羽とルミナが二人きりになりかねない。

(だめー! それだけは絶対にだめっ)

 心の中で叫びながら、握り拳を二つ作る純子。

(だって……もしそんなことして、郁江達が知ってしまったら、落ち込むわ、うん。だから、仕方ないのよ。全く、もう)

 心を決めたとき、ちょうど相羽の母が聞いてきた。

「純子ちゃんは、どう? 嫌だったら、はっきり言ってくれていいのよ」

 返事は、声に出すときも変わらなかった。



 相羽を真ん中にして、右に純子、左にルミナ。

 仲よく並ぶ布団の間は、互いの手を伸ばせば、触れ合うほどの距離。

 もっとも、寝なさいと言われて大人しく寝るはずがない。

「枕投げ、したい」

 突然のリクエストに、相羽も純子もぽかんとして、顔を見合わせてから、ルミナに目を向けた。

「だって、したことないんだもーん」

「え? 本物の修学旅行のときは?」

 布団の上にぺたりと座り込んだ姿勢で、純子は聞いた。

 ルミナも似たような姿勢で、枕を抱え込んでいる。

「行ってないもん」

「あ、ごめん」

 意外な答えに、純子は慌てた。でも、ルミナは首を振る。

「いいのよ。自分の都合でね、五年生のときの林間学校も、六年生の修学旅行も行けなかった」

「ふ、ふうん」

 理由を聞いていいものかどうか、迷う。

「枕投げ、したいところだけど、三つじゃ少なすぎるよな」

 相羽が言った。

 ルミナは、興味深そうに質問をしてくる。

「ねえ、二人とも、学校行事の旅行で、枕投げした? どんな感じだった?」

「どうって言われても……」

 何とか説明しようと、言葉を探す純子。

 と、隣の相羽が、いきなり行動に出た。

「男子の場合――こんな感じ!」

 自分の枕を手にすると、ルミナめがけて放ったのだ。

 不意をつかれたルミナは、頭で枕を受け、少しよろける。

「や、やったわねっ。この」

 早速、両手で抱きしめていた枕を相羽に投げつける。

 ところが相羽は充分予期していたらしくて……。

「――っ」

 呆然と見守っていた純子は、突然飛んで来た枕をよけられなかった。

 一瞬だけ顔に張り付いた枕が、ずるずると落ちていく。

「……相羽君。よけるんなら、よけると言ってよ、ね!」

 身を低くしたままの相羽に、純子は自分の枕を、思い切り投げつけた。そう、ドッジボールの要領で。

 「開戦」から、約五分が経過……。

 掛け布団三枚、敷布二枚の下に相羽が埋まり、終結を見た。

「助けてくれー」

 くぐもった声で、情けなくも助けを求める相羽を、純子とルミナは笑いながら救出にかかる。

 山と詰まれた寝具を取り除き、奥底から現れた相羽の両腕を引っ張ってやる。

「あ、ありがとう、息が詰まるかと」

 安心する相羽を挟んで、見つからぬように目配せした純子とルミナ。

「――せーのっ」

 息もぴったりに、反動を付けて投げ出してから、手を放してやった。

 かわいそうに、相羽は布団の山に再び突っ込まされてしまった。

「……おい」

 いい加減にしてくれと、その目が語っている。

「うふふ、ごめんなさあい」

「悪気はないのよー、信一クン」

 純子達が笑顔で謝ると、相羽はあきらめたように肩で息をした。

「でも……ま、いいか。枕投げって、たった三人でも、こんなに盛り上がるんだって分かったから」

「枕投げと言うより、布団投げね」

 純子が言うと、またひとしきり、笑いが起こる。

「枕投げの雰囲気、伝わった?」

 相羽がルミナに聞いた。

「うんっ。あぁ、面白かった。……私さあ、小学校の頃、劇団に入ってて」

 話が飛んだように感じて、純子達は口をつぐんだ。

「お母さんが期待かけちゃって、学校よりも演劇に力を入れる有り様。だから、修学旅行も行けなくなって……行きたかったんだけど。それが原因で、大喧嘩。劇団、やめちゃった」

 ルミナの言葉に、純子ははっとする。最初に会ったときの第一印象を修正した。

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