第15話 眠りに就く前に
頬に人差し指を当てて、かわい子ぶる。長くモデルをやっているだけあって、そんなポーズも様になってしまうから、得だ。
「僕は、えっと、双子座だったかな。よく覚えてないけれど。五月二十八日」
「双子座で合ってる」
ルミナは即座に言い切った。どうやら星占いが好きらしい。
「誕生日、この間だったのね。純子ちゃんは?」
「十月三日の天秤座よ」
「なーる。バランス精神に溢れてるもんね、純子ちゃん」
「な、何よ、それ? じゃあ、双子座は二重人格で、乙女座は心優しいってところかしら」
純子だって、誕生星座による性格判断ぐらい、少しは知ってる。
「当たってるもんね、私の場合。信一君はどう?」
得意そうに胸を張るルミナ。
問われた相羽は、真剣な表情になって考え込んだ。
「うーん、分からん。二重人格のつもりは全然ないけどさ、完全に裏表がないかと言われたら、そうじゃないだろうし」
「やあね、何を真面目に答えてるのよ」
「ほんとほんと。軽い気持ちで、言ってくれなきゃ」
相次いで言って、純子達は相羽の背を叩く。
もちろん、ふざけて軽く叩いただけだが、当人は大げさに反応して見せた。
「いってー。分からないなあ。女子って、占いを信じてるんじゃないの?」
「全部は信じないよね」
「うん、都合のいい部分だけ、信じてもいいかなってとこ」
二人の見解に、相羽はますます分からなくなったようで、首を傾げる。
「謎だなぁ」
「そんなこと、もういいから。好きな星座って、当然、自分の星座?」
ルミナの話は、ころころ変わるから、着いていくのもなかなか大変だ。
純子は自分が考える間、聞き返すことにした。
「そう言うからには、ルミナちゃんは、乙女座が?」
「ええ。イメージがきれいだし。でもまあ、他に知ってる星座が少ないからっていう理由が、大きいのよね。純子ちゃんは、知りすぎてて迷うんじゃないの」
「当たってるかも。そう……南十字星、好きなんだけれど、今まで見られなかったから憧れてたってだけかもしれないし。結局、天秤座か、南の魚座かな」
「南の魚座? 魚座じゃなくて?」
「うん。秋の星空で、一等星を持っているただ一つの星座だから、かな。フォーマルハウトっていう」
「はあ、全然分からないわ。信一君が好きなのは何座?」
「オリオン座。ありきたりかもしれないけど」
ぽつりと答える相羽。
(オリオン座ということは、あのときあげた消しゴムのイラスト、ぴったりだったのね。よかった……)
そんなことを思い、純子は何だか嬉しくなった。
「涼原さん、趣味が広いね」
「は?」
いきなり言われて、相羽の顔を見る。
「化石と星。目を向ける方向で言えば、全く逆」
「いいじゃない、それでも。好きなんだから」
きつい調子で言い返した純子。その気勢を削ぐ形で、ルミナが声を上げた。
「化石? 恐竜なんかの、あれでしょ。変わってるー」
「どうせ、変わった趣味ですよぉだ」
また言われたと思いつつ、純子は肩をすくめた。
ペースを狂わせられるのは、いつも相羽が原因。と、純子は思っていたが、この夜の発端は、ルミナだった。
夜十時半を過ぎた頃。疲れてるでしょうし、もう眠った方がいいわと相羽の母に促され、素直に従う、ただそれだけで終わるはずだったのが。
「三人で、一緒に寝よっ」
ルミナが言い出したのである。
相羽の母にとっても意想外の展開なのであろう、右手を頬に、左手をその右肘に当てる格好をし、困り顔だ。
「ルミナちゃん、寂しいの? だったら、英弘お兄さんに頼んで」
「違いまーす。寂しくなんかないもん。だけど、こういうチャンスって、滅多にないから、一緒の部屋で眠ってもいいでしょ。楽しいよ、きっと」
「三人ねえ……」
相羽の母は、息子へと焦点を合わせた様子。それに気付かないのか、ルミナは踊るような身振り手振りで続ける。
「部屋は、ここを使わせてよ、おばさん。いいでしょう? 広さ充分!」
こことは、さっきまでトランプゲームやら手品やらで盛り上がっていた部屋。
はしゃぎ気味の彼女は、純子のそばまで来て、手を強く引いて同意を求める。
「ね、純子ちゃんも、その方がいいわよね。修学旅行みたいで」
「え、えっと」
頭の中では、かなり混乱している純子。
(ルミナちゃんとだけなら何でもないけど、相羽君も? 冗談で言ってる……ようには見えない)
勘弁して、という気持ちである。
「斉藤さんは、かまわないんでしょうか」
相羽の母が、英弘に耳打ちするように聞いた。
「ええ、こちらとしては、何の心配も」
純子の願いとは裏腹に、英弘は異を唱えなかった。
(何故ーっ? かわいい妹さんが、男の子と一緒の部屋で寝るのに?)
どんより、純子の気分は重たくなったきた。
その間にも、ルミナが高い声で言う。
「何も心配いりませんよー。信一君、変なこと、しないわよね?」
「ばっ、ば……」
急に振られた相羽は、さすがに一瞬絶句したが、すぐさま言葉を継いだ。
「冗談なしっ。するわけないだろ。だいたい、女二人に男一人じゃ、僕が負けるに決まってる」
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