第17話 二年後に思いを馳せて

(お母さんの期待が大きすぎて、好きなようにできなかったのかな? 好きで始めたことが、そんな理由で嫌になったら、悲しい……ね)

「今も喧嘩、続いてるんだ? お兄さんしか来ていないってことは」

 相羽が納得した口調で言う。

「そう。あー、ほんと、行きたかったな。ねえ、どんな感じだったか、聞かせてよ。信一君達が行ったの、どこ?」

「『達』って……僕と涼原さんは、別なんだ。修学旅行が終わってから、転校して来たから」

 相羽の説明に、純子も「そうそう」とうなずく。

「あ、そうだったの。勘違いしてたわ。あ、男の子って、やっぱり、女子のお風呂、覗きに行く?」

「そんなこと、しないよ」

 呆れた風に、相羽は苦笑いを浮かべた。

「えー? だってえ、漫画とかドラマとか、よくあるじゃない」

「……だいぶ、間違ったイメージを持ってる」

「そうなのかな。純子ちゃん、覗かれなかった?」

「あ、当たり前よ」

 少し、顔が赤くなるのを意識した。修学旅行のときではなく、水泳授業での着替えのときを思い出したから。

 ルミナは腕組みをして、首を傾げる。

「うーん……。ということは」

 言いかけのまま立ち上がると、純子の後ろに回った。

「?」

「こんなことも、しないわけ?」

 ルミナは、純子の脇の下から両腕を回し、胸の辺りに抱き付いてきた。

「きゃあぁっ!」

「『やっと大きくなってきたね、純子』っていう風に」

 身体を硬くした純子に、ルミナは囁くように聞いてくる。

「しないしないっ!」

「本当に?」

「しないったら! そういう会話なら、少しはするけど、触らないっ」

 口走ってから、ようやく相羽の存在を思い出した。

 こちらをぼーっと見てる視線に気付き、顔が熱くなる。

「あ、相羽君」

「――どう言えばいいのやら」

 相羽も気まずくなったのか、目をそらす。

「あー、今、信一君、想像したでしょ?」

 からかう調子で言うルミナ。その手は相変わらず、純子に抱き付いたまま。

「想像したって、何を」

 相羽は顔を横に向けたまま、ぶっきらぼうに応じた。

「決まってる。エッチなことを考えた」

「考えてないよ」

「嘘だぁ。純子ちゃん、身体の線がきれいだもんね。こーんな風に」

 唐突に、純子の脇腹の辺りに手を沿わせるルミナ。

「きゃっ。く、くすぐったい。あはは、や、やめてぇ」

 純子が敏感に反応したのを面白がって、ルミナは調子に乗った。

 身をよじった純子はバランスを崩し、横倒しに。それでもルミナは、くすぐりをやめようとしない。

「すっごい、くすぐったがり屋ねえ!」

「あは、はははは! ちょ、ちょっと。や、やめて。い、痛い、笑いすぎて、し、死にそうっ」

 パジャマの裾がめくれ上がったのが分かったが、それどころでない。

「た、助けてーっ、相羽君!」

 純子の声を聞いたためか、相羽は顔を赤くしながらも、口を挟む。

「――斉藤さん、そろそろやめないと、母さん達が」

 その折だった。絶妙のタイミングで、ドアが開いた。

「何かあったの?」

 顔を覗かせたのは相羽の母。

 ルミナの手が、ぴたりと止まる。

「騒ぎが収まったと思ったら、今度は悲鳴が続くから、来てみたんだけど」

 相羽の母は、部屋の中を一目見て、事態を理解したらしい。

 唯一の男である相羽は、ほっとしたように息をついていた。

「はい、何でもありませーん」

 純子の上半身を抱えたままの格好で、ルミナはこともなげに言った。

「騒ぐのもいいけれど、自分達がモデルをやってることを、忘れないでね。それに、いい加減に寝なさい」

「はあい」

 ルミナは元気よく、相羽は疲れたように、そして純子は小さな声でそれぞれ返事した。


 翌日の観光、純子達は相羽の母や英弘に連れられ、本当にお決まりの名所巡りになった。

 天気は晴れだが海が荒れているとかで、観光潜水艇に乗れなかったのは残念だったものの、初めて見る物ばかりで、楽しかった。

 まさに修学旅行気分だった。

 特に、ルミナにとっては、思いひとしおだったろう。

 もちろん純子も。

(相羽君と一緒の修学旅行に行ってたら、こんな感じだったろうなあ。三年生になったとき、楽しみ!)


――『そばにいるだけで 10』おわり

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