第4話 先輩モデル
「……僕もおんなじだ」
相羽がにこっと笑った。
しばらくして相羽の母が、二人の人を連れて近付いてきた。ショートカットの、少し大人びた雰囲気のある少女と、その子にぴたりと連れ添うように立つ、スマートな若い男性。
「純子ちゃん、紹介するわね。こちら、斉藤ルミナちゃんとそのお兄さんの
「は、初めまして。涼原純子です」
姿勢を正し、しっかりとお辞儀する。
相羽が軽く頭を下げただけなのを見ると、すでに顔見知りなのだろう。
「よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ。ルミナの兄で、マネージャーの斉藤英弘と言います」
意外と丁寧な口調で応じた英弘は、慣れた手つきで名刺を取り出すと、純子に渡してくる。
「そちらは、フリーだそうなので、ご本人に渡しておきますよ」
「どうも……ありがとう……」
何と返事していいのか分からないまま、名刺を受け取り、そこにある文面をしげしげと見つめた。
(FKP……フューチャー キッズ プランニング? これが芸能事務所っていうやつね。初めて見た)
名刺から目線を上げ、改めて斉藤兄妹を見る。
(だいぶ、歳が離れてるみたい……)
と、ルミナと目が合った。
「仲よくやりましょ」
手を差し出してきたので、何かと思っていると、握手を求めているようだ。
急いで純子も右手を出し、握り返した。
「こ、こちらこそ、よろしく――」
「ふうん」
ルミナはじろじろ、純子の顔を見つめた。遠慮が全くない。
「なるほどね。小栗さんが目を留めたのも、分からないことない」
「え?」
純子から戸惑いが去らない内に、ルミナはさっさと手を離してしまった。そして英弘に対して、何やら耳打ちをしている。その最中も、ちらちらと純子の方を見やってきた。
(何よ、もう)
呆気に取られている間にも、相羽の母が言葉を挟む。
「二人とも、一緒に写るんだから、仲よくしてね」
「はーい」
すかさず、元気な返事をするルミナ。続いて、英弘が言う。
「心配いりませんよ、相羽さん。同じ中学一年生だし、話も合うと思います。実際、安心しました。彼女、大人しそうで、いい子のようですから」
手を純子へ向ける英弘。純子は思わず、うつむいた。
「それから、君にもお願いしておくよ、信一君」
「はい?」
窓の向こうを見つめていた様子の相羽は、気のない態度で首から上だけ振り返った。
「いつかみたいに、ルミナの話し相手になってくれると助かるよ」
「はぁ……」
返事の方も気のない相羽。
(やっぱり、昔、会ってるんだ。いつ頃なんだろ?)
相羽を横目で見ながら、そんなことを考える純子。
「あと五分ほどで搭乗開始よ」
「先発隊の状況は、どうなっているんです?」
「一日延びたから、遊べないってぼやいてましたわ」
相羽の母と英弘の会話が始まったが、純子には分かりにくかった。
それが表情に出ていたのか、相羽がそっと説明する。
「大人のモデルさん達が先に行ってて、撮影やってるんだってさ」
「じゃ、小栗さんやカメラマンの人達なんかは、もう向こうにいるのね?」
「そうだよ」
「大人のモデルさんて、前と同じ人かな? また会えたら嬉しい」
「そこまでは聞いてないけれど……どちらにしたって、僕らと入れ替わりだから会えない、多分」
「そうなんだ……」
ちょっと落胆していると、ルミナが話の輪に加わった。相羽と純子の間に、割り込むようにして立つ。
「何なにー? 何の話してんの?」
「別に大した話じゃ……」
「そう? 信一君、久しぶりだね」
ころっと話題を換えるルミナ。
「久しぶりって言うほど、間が空いてたっけ?」
「そうよ。もう二年近いよ。この前の撮影のとき、会えると思ってたのに、まーったく、花粉症なんて格好の悪いことになっちゃってさ。悲しかったよー」
「花粉症は、注意してたって、なるものはなるから仕方ないでしょ」
慰めるつもりなのか、相羽は軽く肩をすくめた。
「それでこの子、信一君のクラスメート?」
いきなり、純子の方を指差すルミナ。話の流れが予測できない。
「そうだよ。今もだけど、二月のときも同じクラスだった」
「そのとき、どうして撮影場所に連れて来たのかしら? ねえ、あなた、撮影に興味あったとか?」
相羽相手に話していたルミナから、不意に質問され、純子は一瞬、びくりとしてしまった。
「え、ええ、興味あったから……」
「ふうん。そのとき信一君、この子一人だけ、連れて来たの? 何で?」
話相手がまた変わる。
「一人だけなもんか。他にも友達がいた」
「そうなんだ? みんな女の子かな」
「違うよ。えっと、男二人に女三人」
「へえ。じゃ、その三人の中で、この子が一番かわいかったんだ?」
相羽に話しかけながら、純子の顔をじっと見つめてくるルミナ。
(な、何を一体……)
純子は目を逸らし、頬を押さえた。
相羽はと言えば、瞬間、目の下辺りを赤くしたようだったが、次には軽いため息をついて、ゆっくり答えた。
「決めたのは、小栗のおじさんだよ」
「あ、そうか。うーん、だいぶ、私とタイプ違うよねえ」
ルミナは両手を腰に当て、小さく首を傾げた。よくよく見ると、胸のサイズはかなりある。
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