そばにいるだけで エピソード10
第1話 社会科見学スタート
科学博物館兼フラワーセンターに着いても、天気の鬱陶しさは変わりなかった。朝からどんより、雲がたれ込めている。
「こんな季節に花の見学なんてねえ」
町田がかったるそうに言った。
「いくら屋根があると言ったって、陰々滅々って感じ」
町田が見上げたのにつられて、純子も天井に顔を向ける。ガラスかプラスチックだろうか、透明な丸天井を通して空が見えた。灰色の曇り空。
「やることないから、学校も仕方なしに組んだんじゃないかしら」
後ろを行く前田は、それでもちゃんと両脇の花々に目をやっている様子だ。温室のような建物がいくつかあって、中は花や植物で埋め尽くされている。その間を縫うように設けられた順路に従い、見て回る。当然、自由に行動できるわけもなく、クラス単位で動く窮屈なもの。
このように、最初は面倒だなと感じていた者が大部分だったが、日本では滅多に見られない珍しい花や植物のコーナーになると、俄然、興味が湧いてきた。茎も葉もない巨大な花、枕のような実をつける木、大きな葉を持つ蓮、そして食虫植物等々。花の匂い――この場合は「臭い」――の強烈さにはしゃいだり、葉に子供が乗っても大丈夫とあるのを見て、小柄な子に乗ってみたらとけしかけたりと、賑やかになってきた。
そこそこ盛り上がったところで、資料館に入った。ここはさすがに自由行動。相当広く、三クラス百余名がいても余裕があるほど。
「資料館って、ゲームセンターみたい」
その通りで、あちこちにゲーム機めいた箱が設置してある。
「子供の興味を引こうと、色々考えてるんだ。大変だわ」
町田が分かったようなことを言って、うなずいている。
「おばさんめいたこと言って、自分は子供じゃないみたい。早く老けるわよ」
「じゃ、ぼけないように、クイズでもやりますか。ただだし」
町田が指差したのは、こういった博物館によくある知識クイズの機械らしい。どうやら三択問題のよう。
町田がスタートボタンを押すと、画面に文字が表示された。
「『ジャンルは?』だって」
「えっと、宇宙、動植物、科学の三つね。折角、フラワーセンターを見てきたんだから、動植物でいいんじゃない?」
と、前田。
「動物問題が分からない」
「いいって。試験じゃないんだから」
前田は手早く二番ボタンを押した。動植物の分野が選択される。
「二十五問が出題されて、全問正解なら記念にメダルがもらえる、と。えっと、一問目は……次の中で最も重たい生物はどれか。一.アフリカゾウ 二.シロナガスクジラ 三.ティラノサウルス――だって」
「時間制限あるわよ。早く押さないと」
画面の片隅では、デジタル表示の数字が秒数を刻んでいる。
「恐竜に詳しい純、頼んだっ」
「えっ、まあ、多少は。でも、重たいのはクジラ」
「信用したっと」
残り時間がきわどいところで、町田が二番を押した。
画面が明るくなり、「正解」と大きく文字が被さった。
「まずは一問」
と、町田と前田はうれしそう。純子はと言えば、自分の知識が役に立ったのか関係なかったのか微妙なところで、複雑。
「さすが。あ、次が出たわ……次の植物の内、青酸という毒物を含んでいる物はどれ? 一.ヒマワリ 二.ウツボカズラ 三.ユーカリ」
「知ってる。ユーカリよ」
前田が手早く三を押す。見事正解。
「何で知ってるの?」
「さっき、フラワーセンターの方にあったの。若いユーカリの木には毒性があるって」
前田の説明の間にも、出題は続く。
「第三問。えら呼吸するカニが陸に上がっても平気でいられるのは、どんな仕組みになっているのだろうか。一.肺呼吸もできる 二.水を持ち歩く 三.我慢している――三は問題外として、やっぱり一番?」
「分からないけど、多分そうよね」
「二だよ」
不意に、相羽の声が後方からした。
振り返ったまま、純子達三人が驚いてボタンを押せないでいると、相羽は手を伸ばし、二のボタンをぽんと叩いた。
「な?」
画面に正解と示され、得意そうに言う相羽。見れば彼一人ではなく、勝馬と唐沢、そして立島もいた。
「こんなことまで、知ってるの?」
画面と相羽とを交互に見ながら、純子は聞き返した。が、相羽は答えず、画面をすいっと指し示した。
「ほら、次が出た」
やや慌て気味に、画面に視線を固定。
問題は、ハチドリが一秒間におよそ何回羽ばたくかというもの。選択肢は十回以上、五十回以上、百回以上の三つ。分からずに首を傾げていると、
「俺も口出ししていい?」
と、立島が言ったので、どうぞどうぞと教えを請う。
「三番と思わせておいて、二番なんだなこれが」
正解は確かに二番だった。
それからはもう、純子達女子三人に、相羽ら四人も加わった、「三人寄れば文殊の知恵」ならぬ「七人寄れば文殊の知恵」の様相を呈した。
次の中で実在しない魚はどれ? 一.ヤツメウナギ 二.ヨツメウオ 三.ミツメアンコウ――正解は三番。
バイオリンムシという昆虫がいるが、その名の由来は? 一.バイオリンのような形をしている 二.バイオリンの音色のような声で鳴く 三.バイオリンの材料になる――正解は一番。
七人集まった成果か、こんな調子で正解し続け、見事にパーフェクトを達成した。
「あ、紙が出て来たぜ」
唐沢が言ったように、機械のやや低い位置にある横長の口から、つるつるした紙がレシートのように出てくる。この用紙が全問正解した証になっていて、資料館を出るときに係の者に示せば、メダルがもらえるらしい。
「もらえるの、一枚だけだってさ。どうやって分けるんだよ?」
がっかりしたような唐沢の口調に、笑いが起こった。
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