第5話 誕生日は卒アルで
白沼から、相羽と立島について質問攻めにされたその日、純子は家に帰るなり、卒業アルバムを引っ張り出した。
「あ――五月二十八日だったのね」
相羽の誕生日を知って、ふんふんとうなずいた。ふと気になって、指折り数えてみる。
(あと三週間足らずだわ……関係ないけど。去年は、転校してくる前に誕生日を迎えていた訳ね)
「立島君は、と」
声に出してその名を探す。八月八日生まれとなっていた。
(夏休み中なのね。ふふ、かわいそうと言えばかわいそう)
それらの日付をノートの切れ端にメモ書きし、アルバムを仕舞う。それから、純子は改めて疑問に思った。
(あんなに知りたがるってことは、白沼さん、相羽君か立島君をいいと思って、親しくなりたがってるんだろうなあ、やっぱり。立島君はともかく、相羽君がどうしてもてるのやら……。ま、少しは外見がよくて、優しくて、気を遣ってくれて、責任感があって)
心中で列挙しながら、段々、妙な感覚にとらわれていく純子。
(あれ? いいところばかりになるじゃない! 悪いところ……えっと)
簡単には思い付かない。
(キスは間違いだったし、着替えを覗いたのも違う。意地悪なことをたまに言うけど、気になるほどじゃない。男のくせに料理する……別にいいじゃない。おかしいな、こんなはずじゃ。もてても不思議じゃなくなる。うーん、いつか郁江が言ってたみたいに、私に見る目がなかったってことになるのかしら、これって)
思い出して、苦笑い。
(その相羽君を全く意識しない内に、親しく話せるようになったんだから、私だって大したものだわ。あはは、身長や体重は知らないけど)
また白沼の顔が脳裏に浮かんだ。
(二人の内どちらを選ぶのかな、白沼さん。どっちにしたって、白沼さん、美人だし、積極的みたいだから、彼女から言われたら断らないね、きっと。立島君は前田さんが好きみたいだから、相羽君の方が可能性ある。相羽君が白沼さんと付き合い出したとしたら、郁江達、どんな反応するかしら……)
不安になってきた。
(うわあ。白沼さんのこと、郁江や久仁香に言った方がいいの? そうするには公平に、郁江達のことも白沼さんに伝えて……ああっ、こんがらがりそう。――何で私が、相羽君のおかげでこんなに苦心しなきゃなんないのよ。絶対、おかしいわ!)
と、そこまで悩んで、ふと立ち返る。
白沼が立島と相羽のどちらに絞ってくるか、まだ分からないのだ。前田には悪いが、悩むには早すぎたと気付き、純子は今日何度目かの苦笑いを口元にたたえた。
(今年ぐらい、形のあるプレゼントにしよう)
純子はそう思っていた。
(中学生になったんだし、何たって、自分で稼いだお金があるんだもの。こういうときに使わなくちゃ)
出かける前、母に言って、預けていたお金――モデルのバイト代を渡してもらった。
その際、母から「何を買うつもり?」と尋ねられたが、適当に笑ってごまかしておく。
(言えないもん。母の日のプレゼントを買いに行くんだから)
そうなのだ。明日の日曜は、母の日。
純子の場合、去年までは、カーネーション一輪と家のお手伝いをするぐらいに留まっていたが、今年はちょっと変えてやろうと目論んでいる。
(何がいいかなあ)
とりあえず、最寄りの大型店に行ってみると、盛んにセールをやっていた。昼食後のちょうどいい時間帯だからか、なかなかの混雑ぶりで、ゆっくり歩いていられない。
「あ――すみません」
早速ぶつかってしまった。
と、顔を見れば、富井、井口、町田の三人だった。
「あれー、純ちゃんだ。偶然」
「みんな。やっぱり、母の日の?」
「そうそう。中間試験まで一週間ちょっとしかないでしょ。お手伝いしてる暇なんてないもんね。せめて、何かプレゼントしようと思ってさ」
「試験だなんて、やなこと思い出しちゃうじゃない。ねえ、もう買った?」
「私は買ったけれど」
町田が言って、他の二人を指差す。
「連れが迷っているから、付き合わされてるの」
「買ったって、何を? 見せて」
「いいよ。ほら、これ」
町田が紙袋から除かせたのは、手袋みたいな形をした厚手の布製の物。緑と赤が鮮やか。
「何これ?」
「鍋掴み。うちの母親、無精して手拭いなんかで掴もうとするから、よく火傷するのよね。前から買えばって言ってるのに、全然聞かないんだから」
「なるほどねー」
ちゃんと役立つ物を買ってるんだと、感心してうなずく純子。
「純は? まだみたいだけど、何か考えてる?」
「え、う、うん。いや、別に」
言い淀んでしまう。
漠然とではあるが、ネックレスのような物を思い描いていたからだ。
(たまにお金があると、高い物を買わなくちゃいけない気がしちゃって、だめだわ。値段に関係なく、喜んでもらえる物を)
改めて頭を悩ませる純子だった。
「あっ、あれ、かわいい!」
井口と富井が揃って指差す方向には、アクセサリー類の回転ラックがある。
「かわいいって、あんた達、自分が着けるんじゃないんだから」
呆れ顔の町田に、井口が振り返って反発。
「いいじゃないのー。お母さんには、ずーっと若くしといてほしいもんね」
「ふむ。そういう考え方もあるわね」
声に出して感心した風の町田の隣で、純子も感心していた。
(そっか。実際に役立つ物に限らなくてもいいな。うーん、範囲が広すぎるよ)
「あっちのもいい!」
「どれどれ? あ、ほんと」
富井と井口もまた、いつまでも迷っていた。
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