第5話 探索者がやって来た!

 チュートリアル4を終えた俺は、一度休憩を挟むことにした。


 目が覚めていきなり自宅がダンジョンになったかと思えば、脳内に謎の声が聞こえてきて、しかも俺は【自宅警備員ダンジョン・マスター】になった。


 探索者が来るまでの時間はそう多くない。

 ダンジョンの難易度を上げるためになるべく早くチュートリアルをクリアしようといろいろとやってきたわけだが……。


 思えば、朝飯すら食っていないじゃないか。


 まあ朝飯を抜かすなんてことは日常茶飯事になりつつある昨今なのだが、俺は朝食よりも遥かに重要なことを忘れていた。


「危ない危ない。うっかりログインし忘れるところだったぜ」


 俺は今10個のソシャゲを掛け持ちしている。

 当然だが、一日たりともログインを忘れたことはない。


 俺はスマホを手に取り……そしてふと気が付いた。


「そーだ。父さんと母さんに電話しとくか。ちゃんと無事だってことを伝えれば探索者がくることも無いんじゃね?」


 こんな簡単なことに気が付かなかっただなんて、我ながら頭が悪すぎるぜ。


 俺は電話のマークをタップして、母さんに電話を掛けた。


 母さんはすぐヒステリックになるし、本当なら父さんに電話したかったんだが、連絡先の欄を探しても番号が見当たらなかった。たぶん入れ忘れたか、それか自分で消してしまったのだろう。


 俺はスマホを耳に当て、しばらく待ってみた。

 しかしなぜか電話がつながらない。


「ん? おかしいな」


 俺はもう一度スマホの画面に視線を落とす。

 そしてそこで、自分がどれだけ危機的状況に置かれているのかを把握した。


「なっ、なにーーーっ!?? け、圏外だとっ!?」


 ――マスター。ダンジョンの中では携帯機器の類は使用することはできません。現状、外部と連絡を取れる手段は限られています。例えば侵入してきた探索者に手紙を渡す……などといった方法です。


「携帯が、使えない……。お前、なんで一番大事な情報を今の今まで黙ってたんだよ?」


 ――申し訳ありません、マスター。そこまで重要度の高い情報だと認識していませんでした。


「うう、ひでえよ。これじゃあ俺の連続ログイン記録が途切れちまう……。もうすぐで1000日に届くってゲームもあったのに」


 ――心中お察しいたします、マスター。しかし、携帯機器を使用可能にするためにはまだまだ時間がかかるでしょう。


「う、うぅぅ。俺の連続ログインが……」


 ちくしょう、なんたってこんなことになっちまったんだよ。俺はなーんも悪いことしてないってのに、こんな仕打ちあんまりじゃねーか。


 ていうかダンジョン化現象ってなんなんだよ。

 いきなり自宅がダンジョンになるだあ?

 いくらなんでも理不尽すぎるだろ!


 ――マスター。お気持ちは察するにあまりあります。しかし、落ち込んでいても、携帯機器が使用できるようにはなりません。いまマスターがすべきことは、チュートリアルを進め、探索者来襲に備えることです。……探索者にダメージを与え、ダンジョンのレベルを上げる。そうすれば、いずれは電波を通わせることもできるようになるのです。


「えっ、そうなの?」


 ――今すぐにとはいきません。ですが、マスターが諦めさえしなければ、必ず望みは叶えることができます。なぜならここはダンジョンで、マスターはダンジョン・マスターなのですから。具体的には、モンスターのレベルを上げ、存在進化を促します。そうすることでモンスターは知性が上がり、仕事をできるようになるのです。


「そういえば、どこに移動させるもどんな仕事をさせるも自由って話だったな」


 ――そのとおりです。ですが、存在進化を促すためにはモンスターのレベルを上げなければなりません。


「そして、モンスターのレベルも俺のレベルもダンジョンのレベルより高くなることはない、か。くそ、連続ログインが途切れるのは悔しいけど、いつまでもウジウジしちゃいられねーな!」


 俺は適当なカップ麺で腹ごしらえを済ませると、次のチュートリアルに取り掛かるべくステータス画面を開いた。


 次の瞬間。

 

 俺は何もしてないのに、新しいウィンドウが出現した。


 そしてそこにはこう書かれていた。

 侵入者を発見しました、と。


「侵入者……まさか、もう探索者が来たのか!?」


 ――マスター。まずは落ち着きましょう。いま表示されたのはSFE画面というものです。


「SFE? なんだよそれ!?」


 ――マスター。SFEとは、Searchサーチ forフォー enemiesエネミーを意味します。つまり、そのウィンドウは索敵画面なのです。


「索敵……。もしかして、探索者が侵入すると自動的にこうやって知らせてくれるのか?」


 ――マスター、そのとおりです。これもマスターが会得した【自宅警備員ダンジョン・マスター】スキルの力の一端なのです。


 索敵画面に目を向けると、そこには四人の男女が映されていた。


 盾を持った筋肉質な男が最前線を歩き、その後ろには杖を持った女が二人いる。そして一番後ろには、片手剣を持った優男が歩いていた。


「4人パーティか」


 ――マスター。ここからはチュートリアル10の内容になります。いきなり6つも飛ばすことになりますが、心の準備はよろしいですか?


「よろしいもなにも、侵入されたからにはやるしかないだろ! とはいえ探索者パーティとの戦い方なんて分かんねえし、ちゃんと俺が勝てるように指示出してくれよな」


 ――もちろんです。マスターを導くのが私の役目ですから。


「よし、それじゃチュートリアル10開始だ!」


 思ったより早くにやってきてビビったけど、考えようによってはちょうどいいかもしれないな。

 

 この四人にはダンジョンの経験値になってもらうことにしよう。

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