ケーキから逃亡ののち挙動不審で訴えられる
その辺を奇声をあげながら走り回りたい気分だ。
そのまま陸の果てまで行ってこの先はもう行けないな、と思って海を眺めたい気分だ。それはさぞ気分がいいのだろうな。何せ失うものも行く場所もないのだから、きっとその場で寝そべって腹の底から笑えるような気がする。人生の本当の意味を知ることができるような……。
さて。
私は今、とても悩んでいる。詳しいことは黙っておくが、ケーキが三つあると思ってほいい。
その三つのケーキはなるべく食べなければならない。そして種類がどれも違う。チョコレートケーキ、フルーツタルト、カップケーキだ。その三つのうち、ひとつだけを食べてくれと脅されている。そして私は今、とても悩んでいるのだ。ケーキで例えたが、甘いものが嫌いな人は丼で想像してみてほしい。天丼、牛丼、カツ丼。まあなんでもいい。
どのケーキも胃もたれしている私には少し重い。けれどせっかくケーキがそこにあるのだから、食べたいとも思う自分がいる。だから食べることには前向きだ。しかし、その三つのケーキはどれも美味そうで一種類に絞るのはなかなか難しい。しかし胃もたれしているので、やはり三つも食べることはできない。
どれか一つしか食べることはできない。私はじっくり考えることにした。
まずはチョコレートケーキ。私はチョコレートが好きだ。だからチョコレートケーキもかなり好きだ。見た目も華やかなチョコレートケーキは私の理想に合致する。しかし、少し重いのが難点だ。何度も言うが私は胃もたれを起こしている。今の私にチョコレートという甘さは少し重く、それがのちに吐き気に繋がってしまう気がする。
次にフルーツタルト。私はタルトが好きだ。あの固さが時折無性に欲しくなる。上に乗っているフルーツも私は好きだ。だからフルーツタルトは人気が高いのだと思う。なかなかお目にかかれないのも見どころである。ああ、美味しそうだと思うのだが、固いタルト生地は今の私には噛み砕けるかどうか疑問だ。
最後はカップケーキ。他の二つと比べるとちんまりとしてはいるが、その美味しさは三つの中で一番身近でよく知っている。サイズ感も胃もたれしている私にはちょうどいいくらいだ。だが、せっかくケーキを食べられる機会なのにいつでも食べられるカップケーキを選んでいいのか、と思ってしまう。どうせケーキを食べられるなら、普段はあまりお目にかかれない他のケーキを選んだ方がいいのではないのか、と思って手を伸ばせない。
こうして三つのケーキを前に私は悩んでいる。それぞれの利点が私を惑わせ、優柔不断にさせていく。どうしよう、どうしようと悩んでいるうちに他の人に取られてしまうことはわかっているのに、いつまでもうだうだとケーキを眺めてばかりいる。
そうして悩みすぎた私は奇声をあげながら世界の果てへ向かった……。陸の果ては世界の果てではないのに、そこを果てだと勘違いした哀れな私は何もかもを失って笑う。陳腐だが嫌いではない結末だななどと考えてしまう。ハッピーエンドは好きだが、最後に何もないラストというのも嫌いじゃないのだ。一種の爽快感がある。
あーどうしよう。三つのケーキが私を襲う。むしろケーキ側が私を選んでくれないだろうか。じゃないと本当にその辺を奇声を発しながら走り回ってしまいそうだ。
とにかくこれから頭を整理するために歩いてこようと思う。また次回。
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