早く来い来い地球大型アップデート
先日耳にした会話である。
「次の現場ここかよーって」
「それは最悪」
三人ほどの仕事仲間だろう、移動中に喋っていた。
「親ガチャじゃなくて現場ガチャ失敗したー」
一人がそう言った。私はなるほどなあと思った。現場ガチャ、面白い言葉だなと思ったのである。確かに自分の力ではどうにもならないから、ガチャという表現は適用されるのだろう。
しかし私がもっと惹かれた言葉は次のものであった。
「親ガチャ子ガチャがあれば現場ガチャもあるのよ」
お、と思った。子ガチャ、は私の人生で初めて聞いた。そしてまたもやなるほど、と思ったわけである。
子は親を選べない、とは昔から言われてきたもので、そこから親ガチャなんて言葉が多く囁かれるようになったのかなと思うのだが、それは子供に限った話ではないのだと気づいた。親もまた子供を選べない。そんなことはずっと前からあったことなのに、私は今更になって気づかされた。
息子か娘かだって人によってはガチャ結果になる。どうしても男の子が欲しい人もいれば女の子が欲しい人もいる。それは現代に限った話ではなく、昔から語られ続けてきた話だ。跡取りの件で散々揉めたみたいな話はフィクションでも多く語られる。健やかに生まれただけでは満足できない。そもそも健康な状態で生まれてくることすら不確定要素でもある。無事に生まれ育っても自分の望むような道を辿るとは限らない。何がガチャの失敗の理由となるのかは人それぞれだ。やっぱり親だって子供を選べないのだ。
では、もし今後の科学技術の進歩によって自分の望み通りの子供を持つことができるような世界が来たとしたなら。
倫理観の話は置いておくとして、一定の幸せをもたらすことは間違い無いだろう。自分のコンプレックスを持たない子供を望む人はいる、男女のどちらかをどうしても欲しがる人はいる。これはどうしようもない事実である。矛盾や残酷さがあるように思えても、そう思う人は確かにいる。そんな彼らに理想の世界が来たなら、やっぱり彼らにとっては幸せだと思う。正しく導けば子供だって幸せになれるのだろうし。
ただ、それじゃあつまらないよなあとは思う。この世界にあることのほとんどは偶然の産物で、人生というのは上手くいかないことばかりなのだし、思い通りになったことはこれまでの人生を振り返ってもなかなかない。仮にうまくいっていれば私は今頃億万長者になって日本の総理大臣になり自分が過ごしやすい国に変えている。そこまで大袈裟なことはなくとも、今頃社会に適応して働いて劣等感を抱えずに生きているに違いない。
だが、それは果たされなかったのだ。不確定要素だ。私は人生というガチャに失敗したのか。今の時点では確かに負けた、死んだ、終わったと思うことばかりだ。だが、この先もしかしたら何かの手違いで私が一人勝ちする瞬間が来るかもしれない。いや、あまり調子に乗ってはいけない。一人勝ちはせずとも生きていたことが認められるような瞬間が訪れるかもしれない。それは今の私の荷物があったからだったなら、それは失敗だと言えるだろうか。自分のアイテムのレートは常に変化し続けているだけなら、今使えない価値がないからといって手放すのは惜しいのかもしれない。ゴミだと思ってしまうのは早いのかもしれない。そんな希望があってもいいのじゃないか。
だからあんまり親ガチャ子ガチャとか言っちゃいけないと思う。相手は人間なのだから、安易に評価するようなことを言ってはならない。現場ガチャ、クラスガチャは言ってもいい気がするけれど、家族はダメだ。どうしても言いたくなったら他の言葉を探した方がいい。上品に気高く突き放す言葉をとことん勉強するのだ。熱中している間にそういうことはどうでも良くなる。そうして自分に集中する時間を作って、自分の刃を磨いていけばいつしか手を離せる瞬間が来ると思う。まあ子供だった人間の意見だから、全ての人には当てはまらないのだろうけれど。
今私は無職で生きることに絶望する日もあるし、時折心から血が出て枕を濡らす日だって珍しくはない。だけどそんな私の毎日を記した言葉に反応してくれたってだけで悪くないって少しは思える。だから人生ガチャ失敗したとはまだ言いたくない。いつか地球や日本の大型アップデートで私が有利になる日だってなくはないかもしれない。可能性はゼロじゃない。また次回。
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