私を脅かすオレンジ

 この時期、道端にオレンジの花が咲いている。ナガミヒナゲシという。

 私はこの花を見るたび、あ、今日もレジ袋を忘れたなと思うのである。

 ご存知の方もいるかもしれないが、ナガミヒナゲシは雑草である。そして生態系に影響を与える可能性がある植物なのだ。詳しくは調べてみてほしい。

 私がこの花を見かけるたびにレジ袋の存在を思い出すのは、ナガミヒナゲシが恐ろしく見えているからである。摘み取りたくてしょうがない。それは正義感ではなく、むしろ自己防衛本能なのだと思っている。

 ナガミヒナゲシは強い繁殖力を持つ。そして在来の植物が生える場所を奪い、自分の陣地をどんどん拡げていく。恐ろしい生存戦略を持った植物なのである。私は人並みに自然を愛している人間だと思っている。だからこそ在来の植物が明日も生きられるようにその花を摘み取ってやりたいと思うのだ。

 だが、私はもっと違うことをそのオレンジの花に抱いていたのではないか、と思い始めている。

 ナガミヒナゲシは外来植物である。本来日本にはなかった植物である。それが今、道端や公園にどんどん増えている。この時期はそのオレンジの花に、「ああ、春が来たのか」などと思う人も多くいるだろう。

 しかし騙されてはいけない。彼らは恐ろしい植物である。

 少しずつ私たちの風景の当たり前になっている外来植物に恐怖を抱いた。可憐な見た目の裏で徐々に他の生命を脅かしている存在。自分が咲くために他の命を枯らし、圧倒的な繁殖力で確実に分布を拡げる。とても恐ろしいではないか。

 このナガミヒナゲシを前に、私は在来植物の気持ちになる。前まではなかったものがいきなり、しかも一気に分布を拡げる。そしてそれがスタンダードになっていく。幼い頃に憧れた世界が、思いもしなかった色になっていくような、そんな感じだ。

 そしてそれに誰も気づかない。

 道端で咲くナガミヒナゲシのことを知っている人がどのくらいいるだろう。あるいは、その特性を知っている人がどの程度いるのか。かわいい花だと言って摘み取らない。そして違うかわいい花が次の年には姿を消す。いつの間にか一面オレンジ色の花が埋め尽くす。

 いつの間にか、同じ人間が増えていく。弱者や少数派をどんどん端に追いやり枯らし、乗っ取っていく。そんな気がして私はこの花を見ると防衛本能が働くのだ。私は決して多数派ではないし、強くもない。必死に立っていないとあっという間に強い者に飲み込まれてしまう気がしてならない。飲み込まれかけていることに気づくことは大事なことなのかもしれない。気づかないままでいると、あっという間に枯らされる。

 知らない人から見ればふわふわと花びらが風に揺れる可憐な花。知る人が見れば在来植物を追いやる厄介者。摘み取るためには袋が必要だ。下手に触れれば手がかぶれる危険性があるという。ことごとく強い植物である。だから私はこの花を見るたびにレジ袋を持ってくるべきだったと思うのだ。まあ毎度忘れるのだが。

 とはいえ彼らも咲く場所が日本という場所に咲いていることで厄介者扱いされているのだから、可哀想ともいえる。視点を変えれば何が正義かわからないものである。また次回。

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