いきさつ

 学校を卒業したと言った。それで無職である。もし読者がいるのならばこう思っただろう。

『就活は?』

 と。

 簡潔に答えよう。

「やりはした。だが、皆と同じようにはできなかった」

 就職活動というのを経験した。多少ではあるが、一時は四月からどこかの企業に属し働き社会に馴染むという目的を持って努力をしたのは事実である。正社員になることが悪いことなわけがない。だから頑張るべきなのだと、そう思っていた。心からそう思っていた。無職になんてなってはいけないと思っていた。四月からの生活を楽しみにも待っていたわけである。

 そんな自分がなぜ無職になっているのか。

 答えは簡単である。

 途中で就活を諦めたからだ。

 ああ、文字にするだけでも情けなさで地面に埋まりそうだ。もっと強い意志があればそんなことにはならなかったのかもしれないのに。

 情けないと思いながら話を進める。

 まずは、就活を諦めた理由を話そう。

 壁があったのだ。それを私は越えられなかった。破ることも壊すこともできず、逃げてしまった。

 リクルートスーツが苦手だった。いや、嫌いだった。あの黒すぎるスーツ。墨汁で染めたみたいな黒いスーツが大嫌いだったのである。色が嫌いだったわけじゃない。黒は好きだ。私はリクルートスーツの概念が嫌いだ。

 あの真っ黒なスーツは就活生ということを証明してしまう。就活生は企業に選ばれるため東奔西走している。どう足掻いても『選ばれる側』の人間、その証明。それが自分にとっては息苦しくてしょうがなかった。

 そもそもなぜフレッシュな人間に真っ黒なスーツなのだろう。もう少しトーンが明るくてもいいんじゃないかと思わないでもない。全員同じ格好というのも気になる。人柄や人物を見るのに、どうして統制しなければならないのか。同じ見た目になる必要は本当にあるのか。

 ああでもこんなことを言えば何年も大人をやっている人からは甘ったれたことを言っているからお前はそんなだと言われるのだろう。そんなことはわかっているのだ。自分が一番よくわかっている。そんなことばかり考えていたから無職になったのだというのは痛いほど知っている。それは今日の終わりにちゃんと考える。夜寝る前に死ぬほど後悔するから、今だけ声を聞いてくれないか。この苦しさを今だけ知ってくれないか。

 こうして私はリクルートスーツを受け入れられなかった。辛かった。誰もが当たり前にできることが私にはできなかったのだから。だが、私も歩み寄ろうとしたことを誰かに覚えていてほしいのだ。結果を見れば情けないけれども、戦おうとはしたのだ。

 現実を許容するキャパシティが埋まってきた。続きはまた次回。

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