第6話 【神の子】

「7等、適正はエレメント、雷の主因子」


「6等、適正はマテリアル、水の主因子」


「8等、適正はマテリアル、ステイト。石と温度の主因子」


 その後も、鑑定の儀式は続いた。

 まるで品評会かのように、結果が出るたび哀歓の声があちらこちらから聞こえてきた。


 子供相手にそんな態度…とんでもない性根をしているなとは思うが、それらの声を聞く中でいくつかわかったこともある。


 ひとつは、等級は7等が普通くらいで、6や5といったところがそこそこ良いという評価らしい。今のところ最も高い評価は、たしかクレーモアだかいった子爵の娘で、4等だった。


 等級の基準が何なのかイマイチわからないけれど、子爵の親は大変喜んでいる様子だった。そりゃまぁ、自分の子に才能があるとなれば嬉しいだろうな。


 そこに何か汚い政治的思想がないことを願うばかりだが。


 で、もうひとつは、適正というのはどうやらひとつだけではないらしいということだ。


 魔力の適正というのは今までの結果を聞く限り、

 エレメント系統、マテリアル系統、ステイト系統に大別されるらしい。


 そしてその適正は必ずしもひとつというわけでないようなのだ。


 属性の主因子だかいったものも、二つだったり三つだったりする子もチラホラいた。


 まぁ多いからと言って有利という話でも無さそうだがな。



 しかしながらやはり…こう、みなで集まって鑑定するというのはなかなか悪趣味な気がする。


 自分の才能について大々的に公表されるのは、なかなか精神的に抵抗があるものだろうし、それをあからさまに評価される場に晒されるというのは、子供にとって何か悪い影響があるんじゃないか?


 少なくとも好影響はないはずだ。


 おそらく昔から続く慣習的なものなのだろう。もっと改善していく必要があると思われるが……、まぁそんな意見は、まず飲まれないな。


 時代は前世における中世くらい、体罰とかそういうのはなんでもござれというような価値観だろうし。


 自分の娘がこの立場に立たされていたのなら、問答無用で止めていたものだが。

 生憎今の俺に他人の子供を慮って行動を起こせるほど、気持ちの余裕も意欲もなかった。

 

 

「次…、エリオス」


「ハッ」


 ルーカスに名を呼ばれる。

 俺の番が来たらしい。


 リリアーノが先立ち、俺もそれに続く。

 最後列の席から、祭壇の最前列へ、みなが座る間の通路を歩いていく。


 やはり、とんでもない視線の数だな。


 この大人数の渦中に立たされるなんて、今までの子供達はどれほどのプレッシャーをかけられたことだろう。


 まぁ、俺の場合は伯爵の子ということもあって一層期待されているという部分もあるのだろうが。


「エリオス、安心しろ。何せ、俺たちの息子なんだからな」


「えぇ。賢い貴方なら、きっと神様も微笑んでくださるわ」


 最前までやってくると、司教と共に儀式を執り行っていたルーカスと、リリアーノに励ましの言葉をもらう。


 まあ、自分でも不思議なくらい緊張はしてないけど。


 いくら色々と失望しているからとはいえ、ここまで感情が動かないことがあるだろうかと思うほどだ。


 この5年で感情が死んでないと良いのけれど。


「ありがたきお言葉、感謝致します」


 彼らの言葉に答えながら、祭壇の方へ歩みを進める。


「名主ルーカスの息子よ、これより其方の鑑定の儀を行う」


 まるで、目の前の子羊を刈り取らんとしているかのような目つきの司教と相対する。

 まぁそれだけの威圧感があるというだけで、実際に睨んでいるというわけではない。


「さぁ、この水晶に手をかざしなさい」


 目の前には、今の俺の頭よりデカいというくらいの水晶玉が、デンと置いてある。


 言われるがままに手をかざしてみるが、特に何か感じるというわけではなく、ただ水晶玉と俺のちっさくなった手のひらが比較できるのみ。


 やはり、あの呪文が重要なのか。


「【────────────────────】」


 と思った矢先、司教が詠唱を開始する。


 近くで聞いても、やはり意味はわからない。

 ただ、司教の威圧感も相まって、何かただならぬ気配のようなものを感じられる。



 そういえば、というふうに、ふと思い出す。


 俺が死んだ後、転生する前。

 つまり、あの神に相対したときの記憶。


 言いえない怒りと困惑を感じたということしか、記憶には残っていなかったが…。


 たしかアイツは、こんなことを言ってたっけ。

 融通を効かせてやる、だなんて。



───────フッと、灯りが消える。


 聖堂内の蝋燭やシャンデリアといった、あらゆる灯りが消える。


 まだ昼真っ只中、ステンドグラスから差す光も相まって真っ暗になることなんてないが、明らかに空間の明度が下がる。


 何が起こったと場は騒然……とする前に、次なる衝撃的現象がこの場を襲った。


 

───────ガシャァァァン!!!



 快いとさえ感じるほど強烈な…ガラスか何かが破壊される音。


 そして同時に、太陽が真近に接近したのかと錯覚されるほどの光が、聖堂内を支配した。



(いったい何が起こったっていうんだ…っ!?)


 あまりの眩しさに瞼を強く閉じているため、何が起こったのか全くわからない。


 聞こえる情報の限り、他の者も同じような状況のようだ。

 ザワザワと、喫驚の声がこちらに届く。


「っ、【──────】!!」


 司教の焦りの混じった、しかし意味はわからぬ言葉が聞こえてくる。


 するとどうやら、強烈な閃光は収まったらしい。


 おそるおそる目を開けてみる。まだチカチカと明滅しているが、ようやく落ち着いたとき。


 視界に飛び込んできたのは、巨大なガラス片のようなものが突き刺さった右手だった。


 止めどなく血が流れており、先ほどまで感じられなかったジクジクとした痛みが襲いかかってくる。


「エリィ!?」


 リリアーノの悲鳴じみた叫びが堂内に響く。


 すぐに駆け寄ってきた彼女は、自身の手を俺の傷にかざし、何やらぶつぶつと呟く。


「【───────】」


 すると僅かではあるが、スーッと痛みが引いていく。


 なんだこれ、これが魔法なのか?


「ハンス司教、いったい何がっ!?」


 腰に携えた剣に手を添えながら、ルーカスはこの場の全員が抱く疑問を投げかけた。


 しかし司教も何が何だかという様子。


「お、おそらくは、水晶の限界を超えるほどの強い魔力が流れたことによって、自壊して…しまったのでしょう」


 少しの逡巡のあと、端的に予測を立てる。


 確かに、先ほど俺がかざした水晶は粉々なまでに砕けてしまっている。


 じゃあ、先ほどの光は強すぎるがゆえに、ということか。


 …いや、それって。



「エリオス様は、人の域を超えた魔力をお持ちです……言うなれば、」


「【神の子】なのではないかと」



 ………マジかよ。


 あの神はとんでもない能力を寄越してきたらしい。


 そんでもって…とんでもなく俺を皮肉った称号も添えて。

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