第5話 魔力鑑定の儀

 昼になろうかという時。

 俺たちを含めた鑑定を受ける者たちは、大聖堂内部に集まっていた。


 各教会で分割しているというのに、やはりかなりの人間が会している。


 結構な広さのある建物だし、数十列に渡って長い椅子が並んでいるのだが、それでもあまり余裕はないという状況である。


 俺とリリアーノはその中でも最後列に座って、儀式が始まるのを待っていた。


 ちなみに隣にルーカスはいない。

 この儀式を執り行うにあたって、まだ何か打ち合わせのようなものがあるらしい。


 まぁ、この領地を治める伯爵なわけだし仕方もないか。

 正直居ても何を話せばいいかわからなかったし、どちらでもよかった。


 そういえば、先ほどから妙な視線を感じる。

 通りというべきか、視界を少しずらしてやれば、ちらちらとこちらを見る貴族たちが目に映った。


「…変に視線を感じるのですが」


「あまり気にしないで。みんな、あなたのことを少し気になっているというだけよ」


 リリアーノが言い聞かせるようにそう言った。


 彼女なりの気遣いなのだろうが、この視線は少しというもんじゃないことはただの子供でもわかるだろう。見ずともわかる、人を値踏みするような眼だ。


 魔力の才に恵まれる一族の末席は、いかがなものなのか…という。


 子供にそんな視線を向けるなど、個人的にはあまり好かないが、まぁ俺に対してならば、面倒なことにならなければ別になんでもいい。



 そうこうしていると、後ろの扉が大きく開け放たれる。


 煌びやかな一団。

 先頭を歩くのは、白を基調として黄金色の文様が刻まれた服に身を包む男。

 雰囲気から察するに、この聖堂の司教であろう。


 その後ろを、いかにも修道士というような様相の人々や、衛兵と思しき鎧に身を包む者たちが並ぶ。

 そしてその一行の中には、父ルーカスの姿もあった。


 座っていた人々が一斉に立ち上がり、何かが破裂するような音量の拍手が巻き起こる。俺もそれに倣って、ぱちぱちと手をたたく。


 その時、不意にルーカスと視線が合った。

 彼のほほえみに、俺も視線で会釈をする。


「よくぞ、集まってくれた。わが盟友たちよ」


 前方、祭壇のところまでやってくると、ルーカスが大きな声でそう言った。


 先ほどのガサツな父親然とした口調ではない。

 気品と威厳にあふれる、領主の姿がそこにあった。


「今年も、この神聖な儀を迎えられることを嬉しく思う。我らが宝たる子供たちに、主神の加護があらんことを」


 パチパチとまたも拍手が巻き起こる。


 それを軽く手をあげて制するルーカス。


「そして、今回はわが息子のエリオスも儀式に参加する。親としてみなと同じ思いを抱いている次第だ。此度の儀が、つつがなく執り行われることを願う」


 ちらりとまた、視線がこちらを向いたような気がした。

 そんなこと言わなくたっていいのにさ。


 その後も司教やそのほかの人間からも挨拶があったが、特にこれと言って覚えていない。


 そして頃合いになって、修道士のひとりがルーカスに耳打ちした。


「…準備が整った。これより鑑定の儀を始める」


 琴線がピンと張る様に、場に緊張感が増した。


「まずは、モーブル男爵」


「ハッ」


 最前列の方で親子が立ち上がり、祭壇の方へと向かっていく。


 祭壇には何やら分厚い本を開いて抱える司教の姿があり、そしてその後ろには、男性を模した像が立っている。たぶんあれが、この宗教における主神だろう。


 そしておそらくは、


「【────────────────────】」


 密かに憎悪に駆られていると、前方で司教が意味の分からないことを喋り始めた。


 変なうわ言のようにも感じられるが、しかし確かな芯というか大いなる意思のようなものが言葉の節々から伝わってくる。


 ちらりとリリアーノの方を向くと、それに気が付いた彼女がこっそりと耳打ちしてくる。


「今のは魔力をみるための詠唱よ。神様と話すための言語だから、私たちがいつも使う言葉とは違うわ」


 詠唱、か。


 じゃああれは、魔法みたいなものなのだろうか。

 まぁ確かに呪文が普段使う言語と違うというのは納得できるが…神と話すなんてことはできるのだろうか。


 だとしたらトンデモナイ罵詈雑言を浴びせてやりたいところであるが。


 まぁおそらく、そこは宗教特有のスピリチュアルな言い方なだけだろう。

 魔法の歴史は宗教の歴史というくらいには、関係が密接なようだし。


 あれこれ考えていると、前の方でピカリと閃光が走る。

 

 おもわずキュッと目を瞑るが、ほどなくしてその強烈な光は収まる。


「鑑定の結果、6等、適正はエレメント、風の因子を主に持つ」


「6等か、まずまずだな」

「エレメントは扱いが難しいからな。火が主因子ならばよかったのだが」


 どこからか、鑑定結果に対する評価が聞こえてくる。


 何を言っているのか俺にはさっぱりだが…。


「6等というのは、魔力量や質なんかを含めた総合的な評価のことよ。10段階からなっていて、高いほど良い魔力をもっているということね」

 

「…では、エレメントや…、因子というのは?」


「エレメントは主な魔法の系統のことね。風や雷だとか…、形にならない魔法を使うのが適しているってこと。因子はその中でも使える属性のことをいうわね」


 はぁ、まぁ、なるほど。


 結構生々しく評価されるんだな。

 もっと抽象的な感じだと思っていたけれど。


 わりと才能がものを言う感じか?


 

 前方で不安そうに父親を見上げる子供が見える。

 5歳とはいえ、自分の評価をする声がわからないわけがないだろう。

 あまり手放しに喜べない評価ということもあって、不安になったのだろうか。


 隣の父親はそんな息子を撫でてやるが、表情はなんともいえない曖昧なものだった。

 それが子に対する親の感情か?

 心の中で密かに毒吐く。



 ……俺の魔力は、いかがなものなのだろうか。

 

 彼らの様子を見て、先ほどは思わなかった感情が起こる。

 まぁただの興味に過ぎないだろうが。

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