ルルロア領主になる
第119話 領主ルルロアの一歩目
ジークラッド大陸の中央。
豊かな草原が一面で広がるのが【ギランドヴァニア大平原】
ここに到着するまでの間の長い道のりの中にあったシャフル平原には、このような草原の大地ではなく、デコボコのつぎはぎのような草むらの平原で土が至る所に見え隠れしていたが、こちらの平原は一面が草でびっしり埋まっている。
だから作物は育てられそうだった。
それと、ずっと感じていた事なのだが、やっぱりジークラッドは若干寒い。
氷の大地がおそらくこの大陸中の平均気温を下げているかもしれない。
ここが気になる点である。
俺が持っている種が上手く育ってくれるのかが不安だからだ。
「どこら辺がいいでしょうかね。俺はこのラスヴァーン山脈の近くがいいかなって思いますね。どう思います」
「そうですね。私もそれがいいかと。山の木をお借りしましょう。建築するにも基礎となる木材がないといけません」
「儂も賛成だ。最初の建築物は木からになるからな。それにラスヴァーンはな。いい点があるぞ」
「ん? どんな点?」
「それはだな」
ラスヴァーン山脈。
大陸中央ギランドヴァニア大平原の右。
大陸東を覆う森林地帯グズバルの左にある山脈地帯である。
険しい茨の山脈のような難しい山々ではなく、比較的大きくはない山が連なっていて、同じ標高が続くので、ギランドヴァニアの西。反対側にあるフーガギード山脈とは違って登山がしやすいらしい。
それとこの特徴に加えて。
「ここは、鉄鉱山がある。秘密のな」
「秘密の?」
「うむ。儂らドワーフ。ドワーフキングのみに伝わるものだ。これは口伝で伝わるからな。秘伝の場所というべきだな。現代なら、儂しか知らんだろう。次の王を指名してないからな。ガハハハ。どうせこの制度も無くなってるだろうからな。ルルもいってみよう」
「へえ。そんな場所があるのか。いいな。ところでどんな鉄があんの? 秘伝のものなんでしょ」
「うむ。魔鉱鉄と呼ばれる物があるのだ。普通の鉄よりも軽く、頑丈でな。あと特殊加工ができる!」
「ふ~ん。そんなのがあるのか。助かるな。武器とか防具とかな。装備が充実するのはでかいな」
「そうだろう。そこは任せろよ。ルル」
「ああ。ユーさんを頼りにするよ」
俺の相談役として二人は、なんでも快く答えてくれる。
二人とも返事が的確で、それにそちらからも俺に指摘してくれるから非常にありがたい。
それは今までにない経験であって、幼馴染のレオンたちは俺の意見が絶対みたいなところがあるから意外にもあいつらは指示待ちが多い。
だから、俺は皆に意見を出すのに、プレッシャーがかかっていたらしい。
今は楽に意見を出すことが出来て、俺はこの生活に慣れ始めたら、こちらの方が友として健全じゃないかと思い始めた。
これが俺の基本の行動としてしっくり来ているのだが。
俺はこう思っていても……。
あれがこうなると・・・・こうなる。
「なによ。あたしを無視してんの! ルル。あたしには何で聞かないのよ」
ほらきた。仲間外れよ。みたいなことを延々と聞かされるのである。
俺は決してナディアを仲間外れにしてるわけではない。
ナディアにも聞いているのだ。
でも答えねえだけなの!
彼女は被害妄想がすげえ。
「俺はナディアにも聞いてんの。でもあんたが答えてくんないだけ!」
「聞いてないもん! あたしに話、聞いてないもん。顔がこっち向いてないもん」
「なんだよ。子供みたいなこと言うなよ。それに俺はあんたにも聞いてるっつってんだろ。被害妄想激しいよ。ナディア!」
「なんですって。あたしもルルの役に立ちたいの!」
「もう役に立ってんだよ。あんたはナディアだろ。一緒にいる。それだけでいいの! エルフの象徴なんだぞ。それだけで皆の安心に繋がるんだよ。特にエルフの人たちにな」
「うん。でも・・・あ、あたしは、ルルの役に立ちたいの」
「へぇ、そうですか」
「なによ。その顔。むかつくわ」
「よしわかった。ならまず。大人しくしてくれ。頭痛くなるから」
「え。大丈夫なの? 具合悪いの?」
いや、あんたのせいで頭が痛くなるんだけど・・・。
これは内緒にしておこう。
俺に親身になってくれてはいるのでね。
親切心は強く出ている女性である。
「はぁ。それじゃあ、役に立ちたいと言ってくれるナディアさん! あなたにお仕事をお願いします」
「え。なになに。何でもやるわ」
「はい。これをどうぞ」
俺は眠っているフィリーを預けた。
彼女を抱っこしたナディアの口が膨らんだ。
「ぷ~~。何よ。子守りじゃない」
「いいの。ナディアの今の仕事はフィリーを守ることでお願いします。母親代わりみたいな感じでね」
「・・・しょうがないわね。眠ってるわね。ぐっすりと」
「ああ。だいぶ寝てんだよな」
フィリーは目覚める時間の方が少なかった。
まあ、起きたとしても、彼女は俺のそばでペタペタくっつくだけであるから、眠ってもらって大人しくしてもらった方が助かる部分もある。
それにしても解放軍のリーダーはこの子をどう思ってるんだろう。
子供だって話だけど。
どうするつもりであんなところに閉じ込めて磔にしていたんだ?
部下がそんなことを勝手にやるってのはないと思うから、たぶんリーダーの許可の元でやってるはずだよな。
親なのにひでえな。
俺に愛情だけをかけてくれた両親とは全然違うな。
親父はうるせえくらいの人だったし・・・。
俺のフィリーに関する疑問は尽きないけど、この子が今は幸せであればいいかなと思うので。
起きている間は愛情を注ごうと思う。
◇
「あと問題は水ですかね。どうしたらいいか。俺も考えがまとまらないですね」
「それは私も思いましたね……どこから取得しましょうか?」
町を作るために良き場所を探るために、俺たちは平原を歩いた。
そばには町の幹部候補のナディア。アンナ。ユースウッド。モルゲン。エルドレアがいる。
「そいつはおらに任せてくんねえかな」
「お! モルゲンさん、なんかいい手があるの」
「おう。おらたちな。実は鍛冶よりも建築とか工事とかの方が得意でな。ため池を作るってのはどうだ。あとは家の上に水を確保するのはどうだろう」
「へえ。そうだったんだ。じゃああいつら不得手の職場で働かせてたのかよ。阿保だな」
「そういうことだな。おらたちを上手く使うなら建物の方がいいぞ」
「よし、そこら辺の事は、モルゲンさんにお任せしますね」
ため池も作れるような場所の候補を探るために、俺たちは移動を続けた。
「ルルよ。山脈のギリギリに居を構えるのは厳しいかもしれないな」
「ん?」
「この高台の方を利用されて攻撃されるとちと厳しいと思うのだ。山脈は見える範囲にとどめておくのがいいかもしれん」
「なるほどね。攻撃を受けやすくなるってことだね」
「そうだ。城壁を構えるにしても、高台になってしまう山脈沿いのために、こちらもさらに高い城壁を用意せんといけなくなるからな」
「ふんふん。じゃあ、ユーさん。もうちょっと西寄りだな」
こうして俺たちは色んな人の意見をまとめて、町を作り始めた。
◇
俺たちが最初に作ったのは、円形の大きな家。
木の板で作ったような簡易な素材で、雨風を凌げればそれでいいとしたものだ。
後にここは、建て直して集会所や会議室になる予定だ。
エルフも、ドワーフも一緒になって雑魚寝する。
軍にいた頃を思い出すような環境だが、懸念していることがある。
それはここは男女が同時に寝泊まりしているという事だ。
ドワーフの屈強な男どもとエルフの見目麗しい女性たち。
まさか。
ここで、おっぱじまっちまうのか。
と、一人焦った俺は馬鹿だった。
何も起きずに皆で仲良く眠っている。
これを疑問に思ったので、ユーさんにこっそり話を聞くと。
妖精族同士は同種じゃないと始まらないらしい。
エルフはエルフ。ドワーフはドワーフなのだそう。
でも別種であれば大丈夫なのだそうだ。
エルフとドワーフでは盛り上がらないのだそうです。
とんだいらぬ情報である。
だけど、なんだか知らないけど、ここで寝る時に、俺の方にエルフの女性たちが偏って来るのはなぜだろうか。
これは俺が別種だから狙われているのか。
ここからの夜は、無茶苦茶緊張する時間を過ごすことになった。
◇
次に俺たちが準備をしたのは、工房。
モルゲンさんは、まずはレンガを作りたいと言っていた。
この地で住むには木の家よりもレンガの家の方がいいらしい。
どうせ建てるなら木の家での一時的なものよりも、しっかりしたものを用意したいとのこと。
それと、家の中に暖炉を配置して、より効率よく温めていきたいと、寒い地域でもあるジーバードを乗り切りたいとのことだ。
それとレンガは地面に埋め込んで道にもできる。
いずれ大きく開拓するつもりであるならば、道は極めて重要だぞとモルゲンさんが言っていた。
俺もそれには大賛成なので、工房建築を優先させたのだ。
建造物関連はドワーフさんたちに任せて、俺は次に重要な事をエルフの皆さんとする。
「いやぁ。やっぱ農業が重要ですよ。エルドレアさん。ご飯は美味しい物を食べた方がいい!」
「そうですね。ルルさん。いちおう、ここは言われたとおりに耕しましたが・・・どうでしょう」
「バッチリっす!」
エルフの皆さんには農業をやってもらおうと、土を耕してもらった。
俺は、ここの土で気付いたことがある。
意外にもいい土であるのだ。
土を手で触ると、しっとりとしてるけど、水はけが良く、作物が育てやすそうな印象を受けたのだ。
俺は元々農家の息子だから、こんな感じで種を持っている。
じゃ~ん。
どうだ。ジャガイモの種イモとか。トマトや人参、キャベツとか。白菜も持ってるし。
あとは唐辛子とかそういう調味料系統のもある。
まあ、とにかく野菜の種類を選べるくらいの一式はある!
「エルドレアさんたち。エルフの皆さんは。農業とかはどうしてたんですか?」
「そうですね。森では自然に取れるものを食べていましたね。木の実とか木苺とか。あとは狩猟ですね」
「やはりそうでしたか。ならここでは作物を育てて収穫をしましょうよ。それといずれは酪農。牛や鶏とかを飼って安定供給を目指していきましょうか」
「はい!」
そして問題は気温だった。
寒い気温では作物にどのような影響を及ぼすのか。
農家の俺でもよくわからなかった。
ジャコウ大陸は、気温だけは比較的安定した水の大陸だったから、よく分からないのである。
◇
しかし、これを克服する方法はナディアが持っていた。
エルフさんたちと種まきをして数日後。
「ねえ。ルル。これどう! 使えるかな」
ナディアはここで暮してからは大人びたように思う。
落ち着きも出てきて、本来持つ彼女の優しさが表情にも出てきていた。
「ん? ナディア。それは?」
「ルルがさ。ここが寒いから温かくしたいなぁって独り言を言ってたから。これを使おうと思って」
ナディアが持ってきたのは、木の棒。
先端に宝石のように輝く石がついていて、赤く光っていた。
「だからナディア。それなんだよ?」
「これは魔晶石よ。火のね」
「魔晶石?」
「うん。これにね。魔力を込めると、込めた分がなくなるまで石が持つ属性の力を使い続けるのよ」
「へぇ。便利な石だな。消耗品か?」
「ううん。違う。魔力が足される度に使えるわ。永久機関」
「マジか。それは想像以上に便利だな」
とても有用なものをナディアが持っていた。
そんな凄そうなもの、どこに持ってたのよと聞いたら、これは大変貴重なものだから、あたしの胸の中に隠していたと言っていた。
全く大胆なところに隠してるわと思った。
「これには火の力があるからね。周りを温めるわ」
「ふ~ん。そうか。だから畑の周りに建てて温度を上げるつもりか」
「うん。これ、上手くいくかな?」
「そうだな。面白そうだからやってみるか。俺たちで小さく実験しようか」
「うん。じゃあ、一緒にやろう」
「ああ。いいぜ。ここら辺で良くないか。ちょうどいい。ここが俺たちの家だし」
「じゃあ、あなたがこっちをね。あたしこっち」
ナディアは地面に棒を刺すと。
左面を俺。右面を自分だと指さした。
「はいはい。どっちでもいいだろ。つうか一面で一緒にやればいいじゃん」
「これはお遊びみたいな物でしょ。だから勝負にしようよ。あたし負けないよ。あたしの方が作物を綺麗に作るんだ」
「ははは。これも勝負事か。ナディアは負けず嫌いだな」
「あなたもでしょ」
「・・ん。よくわかったな」
「こんだけいつも一緒にいれば、分かるわよ」
「そうか・・・でもあんたも絶対負けず嫌いだろ」
「……バレた! へへへ」
と言い合って俺とナディアは大きな家の近くに家庭菜園を始めた。
真ん中にある魔晶石の棒に魔力を装填すると、ほんのりとここらの菜園が温かくなる。
畑は町の一角に大きく作ったのに対して、俺たちはささやかな小さなものを作ったのだった。
◇
それから一週間後。
俺たちは家庭菜園の前に座って発芽した芽を見た。
「ねえねえ。ルル。ほら、もう出てきたよ。芽」
「そうだな。あっちよりも先に出たな」
「うん。やっぱり魔晶石のおかげかな?」
「たぶんな・・・・いやぁ、そうなってくるとさ。もっと早く成長させて野菜を食いてえわ」
「ん?」
「ナディアさ。メシに飽きてこないか。ただ焼いただけの肉を食うってよ」
「別に…ルルが作ったの。おいしいよ」
俺はここ最近狩猟で取った肉しか食べてない。
どうやらこっちの世界の人々は食べ物がずっと同じでもいいらしい。
食に対してハングリーさがないのだ!
「はぁ。あれは作った範囲に入らないな。焚火の前で焼けるのを待つって感じでよ」
「そうなの。それでも美味しいよ。あたしは満足してる」
「そうか。ならこれが出来たら、ちゃんとした料理を作ってやるよ。ナディアに食わせてやる」
「ほんと! あたしが一番最初でもいい?」
「ああ。いいぜ。野菜が出来たらな~~~」
とここでふと思った。
「あ、そういえば、塩がねえ・・・・・そうだ。残りのストックもギリギリだったな。塩がねえのは、やべえな」
俺は衝撃の事実に気付いたのだ。
塩がないのはまずい。
人間が生きるのには水もだが、塩も必要だった。
【カンカンカンカン】
リラックスしていた俺とナディアの近く。
俺たちが三つ目に建てた見張り台。
そこにある鐘が鳴り始めたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます