第118話 これからの予定はまさかの!?

 紙とペンを用意して、そこにアンナさんに地図をかいてもらった。

 彼女のような偵察が上手い人は、総じて地理感覚が鋭い。

 方向感覚も優れているだろうから、俺は彼女に大陸の地図を書いてもらったのだ。


 「ルルロア様、大陸はこのようになってます」

 「なるほど」


 ジークラッド大陸。

 その大きさは地図上ではわからないが配置は分かった。

 大陸の北から逆三角形の形で氷が大地を侵食してる。

 そして、真ん中が大平原で。左右の端が森林地帯。 

 そして真ん中と森林地帯の間にそれぞれ山脈がある

 なので。


 「このど真ん中の大平原。ここが両軍の主な戦場になるはずですね。あとはこちらの右の森林地帯。それと右の森林地帯の脇。ジュズランから南ルートの森沿いが戦える場所ですかね」

 「はい。そうなっております。こちらの平原左右にある山脈地帯は軍での山越えが厳しいので、森林地帯での戦いがよく起きます。ただ何も障害のない平原こそがメインの戦場です。北と南の激戦区となっていますね。それとジュズランとその南にある城塞都市ガイルハイゼンが戦場ですね。今は停戦中なのでどうなっているかはわかりませんが」

 「そうですね・・・」


 俺が悩んでいるとユーさんが来た。


 「何故そんなことを気にするのだ。今更地図か? 旅に出てしまえば関係ないだろ。一つずつ回っていけば、色んなことがわかっていくぞ。ん?」

 「そうなんだけど。ユーさん。俺もそれをすげえ楽しみにしてたんだけどさ」

 「ん? けど??」

 「ユーさん。ユーさんは俺と一緒にいてもいいって言ってくれたじゃない」

 「おう。友だからな」

 「それは嬉しい事だけどさ。さっきの実験でね。俺があんなに皆に迷惑をかけるとは思わなかったんだ」

 「迷惑だと?」

 「ああ。俺があなたたちといることで、俺の評価があなたたちを落とすとは考えなかったのが甘かったわ」

 「なに? どういうことだ??」

 「俺があなたたちのそばにいると、まともに買い物も出来なくなってしまったんだ。これは非常に難しいし厳しい問題だ。俺がいるだけでパーティーを上手く回すことが出来なくなるのはきつい」

 「そんなものはあなたが外にいて、私たちが買い物をすればいいじゃない。ルルが迷惑だなんてあたしは考えないよ。そんなのありえない。私たちにとって大切よ」


 ユーさんと話していた俺、左隣から怒った口調のナディアが会話に入ってきた。


 「ああ。ありがとう。でもな。ナディアがそう思ってくれてもさ。俺がパーティにいるだけで、各地で上手く買い物ができなくなる恐れがあるんだ。いくら君たちが俺を認めてくれようともね」

 「え・・・うん。でも、あなたが気に病むことじゃ」

 「ん? いやいや、俺は別に気にはしてないんだ。俺はちょっとやそっとじゃ諦めねえからな」

 「え?」

 「俺はここから打開策を一つ考えたんだ」


 俺は別に気落ちしていたわけじゃない。

 唯一の打開策を考えていただけである。


 「へ?」「え?」「なぬ!?」


 三人とも驚いていた。

 てっきり俺ががっかりしていたのではないかと思っていたらしい。

 

 「ここから俺の考えを言う前に、俺はここに来て一つやりたいことがあるんだ」

 「なんだ?」

 「俺はね。冒険者クエストの三大クエストの一つ。魔大陸の踏破をしたいと思ってんだ」

 「「「魔大陸の踏破!?」」」


 俺の目標。それはあいつら英雄が、英雄たる偉業を達成すること。

 それにはこの魔大陸に置いて、踏破するための礎をここで作ることが大切だと思っていた。

 そこで、俺は魔大陸を先に下見するために満遍なく各地を回りたいと思っているのである。


 「そのために動きたくとも。肝心の俺が足手まといになる可能性がある。それは各地で物資を手に入れられないという事だ。補給が出来ないという事だ」

 「・・・ん?」

 「俺がここで生活するには、ヒュームという事実がいつまでもついて回る。これは買い物ではおよそ6倍から10倍の値段をふっかけられるんだ。と言うことはすぐに資金が底をつくぞ。その上で色んな所で補給できないからきつい。ならば」

 「「「ならば?」」」


 俺は地図の真ん中に指を指した。


 「俺はここに補給拠点を作りたい」

 「「「へ??」」」

 「どういう事だ。ルルよ。儂にはさっぱり分からん」

 「ユーさん。俺はね。この平原に、街を一つ築きたいのよ」

 「なぬ!?」

 「ここに補給拠点を置けば、各方面に旅をするのが容易になる。東に行こうが、西に行こうが。ここから出立してここに戻り、更に反対側に移動できるだろ。ど真ん中に俺たちが補給できる場所があればさ。どこにでもいけるのよ。旅するために俺は補給拠点を作りたいのよ」

 「それは理想論ですが・・・ここは大平原で。戦場となりやすい場所ですよ」

 「わかってます。だから、俺たちは戦う力を付けながら街を育てるんですよ。解放軍だろうが、連合軍だろうが。両方を跳ねのけるくらいの力を蓄えて、俺たちはここに平等の街を作るんです。元奴隷の人とかも関係なく、ヒュームとかそういう人種も関係ない。真の平等の街です」

 「・・・それは難しいわよ。そんな事できると思うの」

 「ああ。難しいと思う。でも面白そうだろ。それにさ。今の俺たちって奇跡的だろ」

 「「「????」」」


 俺は全員の顔を見た。

 ぐるりと見渡すと俺の顔を見て笑っていた。

 やれないことを言っているなという馬鹿にした笑いじゃなくて。

 これがやれたら楽しそうだと思っている笑いだった。


 「だってさ。ここにいるのは奴隷となった。ドワーフとエルフたち。百年も特別牢にいたユーさん。ナディアを守るために自分を犠牲にしたアンナさん。そのアンナさんを救うためにお金を集め続けたナディア。そんでジーバードからやってきたヒュームの俺。そんで、皆とは勢力の違う解放軍のリーダーの娘のフィリー。こんなバラバラな連中がさ。ここに街を作ったら面白いじゃん。どうだろ。やってみる価値はある気がするんだ。この世界はもっと開かれた世界になるべきだと思うんだよね。ジークラッドってさ。実はこっちの方が閉ざされている気がすると思うんだ。俺、ここに来て思うのは食事だ。ここはあまりにもお粗末なものしか食べてない。もっとおいしい物を皆が食べた方がいい気がする。だから俺が食料関係も激変させて、こっちが有利にもっていくは」

 「有利に持っていくとは?」


 アンナさんが聞いてきた。


 「食べ物で釣るんです。めっちゃうまいもので、連合も解放軍も黙らせるんだ!」

 「なに!?」

 「俺がユーさんたちに食べさせた料理ってかなり簡易なものなのよ。あれじゃ、料理とは言えないレベルのものよ」

 「あれで? 十分美味しかったわよ」

 「そう。そこなのよ。あんたらは食べ物が貧しすぎる。これは俺の仮説から来る考えだけど。その前にこの世界でヒュームって普段どこにいるんだ」

 「あまり見かけないわ。見ても大体は奴隷のようなもの」

 「そうだろ。そこだ。ここの奴らはヒュームを甘く見過ぎている。それは、俺たちジーバードの者はもっと豊かに暮らしているからな。建物はこっちが有利だけど。食べ物は遥かにあっちが有利だ。食材も豊富だしな。でもこっちは三分の一が氷の大地だから、そこら辺も影響してるかもしれない」

 「なるほど。実りの大地がないから、食べ物に無頓着になっていると」

 「そういう事ですアンナさん。ただ、もう一つあって、ヒュームは器用なんです。武器以外を開発する手を考えるのが得意なんですよ。俺たちは飛空艇というものを構築させていますからね」

 「飛空艇???」

 「空を飛ぶ器械です。空飛ぶ船と言った方がいいでしょう」

 「空を飛ぶ船!?」

 「ええ。こういうものを作って一度に人や物を運んだりするためのものを開発してるんですよ。たぶんこちらの世界の人々はこんな柔軟なものの考えに至っていない。三千年経っても戦い続けたから生活を豊かにするよりも戦い続けることを目標に置いているのだと思いますね。だから、俺はここに街を作って、もっと自由な世界に変えたい。そんで俺は旅をしたい。ここを起点に置いて、この大陸を踏破したいんですよ。どうだろ。途方もないことを言っているけど、一緒にやってくれるかな?」


 俺の街を作る理由は、ただ旅をする為。

 世界を良くするのは二の次で、俺がただやりたいことの為のついでである。

 正直に言えば、俺は別に誰に迷惑がかかろうがどうでもいいと思うタイプ。

 でも仲間に迷惑がかかるのが大嫌いなタイプである。

 だから、この計画を立案したがいいが、仲間に多大な負担を強いるだろう。

 俺は強制じゃなく、やってみたいと思ってくれる人と一緒に・・・。

 これをやりたいんだ。

 だから、かなり我儘な目標なのだ。


 「ガハハハ。面白い。これまた面白いな。儂の人生。ここに来て面白いぞ」

 「ええ。たしかに。あたしは賛成。やってみたいわ」


 ユーさんとナディアは笑いながら賛成してくれた。

 だけど。


 「・・・ルルロア様がそこの領主となるのでしょうか」


 アンナさんは真面目な顔で俺を見た。


 「え? そこまでは考えてないですね。そこは誰でもいいです。正直俺がやるのはめんどくさいですね。ナディアは・・・まずいか。ユーさんあたりがいいかな」

 「それは駄目ですね。私はルルロア様が、そこの領主様になるのが適任だと思います。ヒュームの認識を変えるには、ヒュームが領主となるべきです」

 「なるほど・・・その考えもアリか」

 「私はルルロア様が領主となるなら協力します」

 「・・・随分と、アンナさんが参加する条件がきびしいですね。ははは」

 「いえ。これが最大限の譲歩です。私はあなたを領主として崇めたい」


 アンナさんは俺に頭を下げた。


 「崇めるって……わかりました。やりましょう。ただ、あまりその場にいない領主となりますよ。領土が安定したら旅に出ますから」

 「はい。それでいいと思いますよ。いずれは村長や市長と言った人を選べばいいのです。あなたが長である。それが形式であればいいのです」

 「なるほど・・・面白い考えだ。アンナさん、ありがとう。それでいきます。じゃあ、ドワーフさんたちとエルフさんたちもどうでしょう。一緒に作りますか? 街を・・・待てよ。最初は町くらいかな」


 俺は行き場に困っている人たちに聞いてみた。

 彼らも奴隷として長く生活してしまったんだ。

 ここで誰にも邪魔されない生活を送って、自由でいて欲しいってのもある。


 「わ、私たちもそこに住んでもいいので」

 「ええ。エルドレアさんたちがいいって言うならですけど。俺がリーダーみたいになっちゃいますがね。ごめんなさいね。ヒュームだけど」

 「いいえ。関係ありません。我ら、エルフ一同は、あなた様に感謝しておりますから。ヒュームであろうが、我らはあなた様という一人の人間を崇拝いたしております。では」


 俺を見つめてくれていたエルドレアさんは、自分の後ろにいるエルフに目配せすると。

 エルフの全員が跪いた。


 「エルフ一同は、あなた様に忠誠を誓います。よろしくお願いします」

 「「「 よろしくお願いします 」」」


 え!? 

 ちょっとなんだか話が重くない。忠誠って・・・


 「ハハハハ。おらたちもだ。なあ。おめえら!」

 「「「「 おう!! 」」」」

 「おらたちも、ルル。あんたに賭ける。ドワーフ一同もあんたに忠誠を誓う! よろしくだ」

 「「「「 たのもう!! 」」」」

 

 すげえ話が大きくなった。

 

 なんでだ!

 俺の隣には、あんたらの王がいるんだぞ。

 エルフの女王ナディア。

 ドワーフの王ユースウッド。

 両者がいるのに、俺が領主になるのが確定なの。

 それに忠誠を誓うのはどっちかつうとこっちにじゃないの。

 あんたらの王様、目の前にいるんだけど・・・・。

 それにまだ街も作ってねえのに、もうあなたなら出来るでしょ。

 てな感じの期待がこの人たちの眼差しから感じるよ。

 やべ。絶対にこの事業をやり遂げないとな。

 今までで一番難しいクエストかも。

 自分で言っておいて、最高難易度クエストを作るとは・・・我ながらアホだな!!!


 とまあ、俺の心の声は内緒にしておこう!

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