北の大陸 新たな仲間
第101話 魔大陸に流れ落ちる星 ルルロア
ジークラッド大陸の東。
森林地帯にある遺跡都市『パスティーノ』
過去にこの都市を支配していたのは、エルフの王であった。
今は解放軍の四天王『クヴァロ』が管轄する都市の一つとなっている。
解放軍に属していた者たちがこの都市では栄誉市民となっていて、彼らは胸に解放の象徴『
普通の市民の中には様々な種族がいるが、ここではエルフやドワーフが多くいて、地位が低い。
以前にここを支配していたエルフの王が解放軍に負けたことが、この都市の元々の民の地位を低くしてしまった要因だ。
これは戦いの大元の第三次南北魔大戦において、連合軍が解放軍に事実上敗れた結果であった。
事実上と言われているのは、表向きは停戦となったからである。
◇
俺は美しい青空を舞う鳥のように両手両足を広げて空中にいる。
「ぐおおおおおおおおおおおおお。死ぬウウウウウウウウウウウウウウウ」
新しい世界の扉を開いた俺は、産声……いや、奇声を上げ続けた。
今の俺は、落下の風を全身で受け止めている真っ最中である。
この身が感じる風。
・・・こいつは間違いない。
死の風だ。
こんな勢いで地面に着地したら、俺の体はこの世にないです。
跡形も無く、木っ端みじんとなるでしょう。
・・・なんて嫌な天気予報をしている場合ではない。
想像したらめちゃくちゃ怖くなったぞ。
「頑張れじゃ。頑張れじゃ!!」
俺の頭の上で踊るレミさん。
あなたの薄紫の体はこちらでも薄紫でしょうか!
あなたの顔を見る余裕もないのですよ。
それよりもだが、やかましいったらありゃしない。
レミさんは、こちらに来てもやかましいのは一緒だった。
「クソ! ムカつくわ! 誰のせいでこうなってると思ってんのよ! あんたはさ」
「は? 余のせいじゃないのじゃ! あの時の余は、ルルが光に変わってから表に出たのじゃぞ」
「ああ。そうでしたね。ああ、そうですよね。でもよぉ。あんたのせいじゃないことはわかってるけどね。正直ムカつくのよ。なんも考えていない頭空っぽの応援がさ。頭の上で繰り広げられちゃあね。めっちゃムカつくし、めっちゃうるさいわ!」
「ムムム、せっかく余が応援しとるのに・・・なんて奴じゃ。このこの」
ポコポコ頭を殴ってくるレミさんを無視して、俺は色んな思考を張り巡らせる。
持ちうるスキルを駆使してもこの自由落下は止められない。
むしろ加速していく俺の体に恐怖するしかなかった!!
「ああ、思考加速がままならねえ。死の恐怖で、スキルが上手く発動してないのか…どうしよう」
「ルルじゃ、あっこに降りるのはどうじゃ」
俺の肩に降りてきたレミさんが小さな羽で指さす。
「あっこ??? ああ、あそこの森ね」
俺は、猛烈な風を感じながら大陸の東端にある森林地帯を見た。
レミさんが指し示したのは、深緑の濃い木々に囲まれている場所の一際目立つ大きな木だった。
「そうか。あのでけえ木にぶつかりながら、速度を落として地面に落ちろってことか」
「そうじゃ。余と一緒!」
「ああ。そうだな。あの時のレミさんは、木に引っかかって逆さ吊りで間抜けだったな・・・・って、俺は無理。この勢いであそこに落ちたら、俺の体・・・飛び散るぞ! 色んなもんが飛び散る!!! あの木の周辺が地獄絵図になるぞ」
「むむ。じゃあ、どうするのじゃ」
「空中・・・空中・・・」
俺が空中で使用できるスキルを羅列していく。
あれだこれだと検索し続けて、今の状況に合うスキルはこれしかなった。
「足場だ!」
しかしこのスキルは落下に対応するスキルじゃない。
あれは、空を駆け登るためのスキルだ。
「ああ。でも。応用できるよな。ホッさんが言っていたのはイメージ。ならば、足場を究極に柔らかくして、そこに俺の体をぶつけて落下速度を落とす・・・・なら、その足場のイメージは・・・・」
イメージはふわふわクッション!
出来る限り足場を柔らかくして俺は空から落ちることを決めた。
「足場!」
目の前にイメージした足場を出す。
それとぶつかる俺は・・・
「ぐあは・・・まだかてえのか・・くそ、こんなのにぶつかりまくったら、すぐに死んじまうわ」
凄まじい衝撃に腹を痛める。
クッションをもう少し大きくて柔らかい物を作らなくてはならないようだ。
だが、俺の落下速度は少々遅くなった気がする。
「こ、これは速度を下げるのには成功してるよな。ならもっと柔らかく・・・」
俺は連続で同じ行為を繰り返した。
「足場!」
「ごわ」
「足場!」
「ぐへ」
「足場!」
「ご!」
「足場!」
「どべ」
こいつは全身青痣確定だ。
肩も腰も膝もあらゆる箇所が足場とごっつんこだ!
でも、確実に落下速度は変わった。
死の風には感じない。
「もういっちょだ。レミさん。あの大きな木にぶつかんぞ」
「おうなのじゃ!!! やってみろじゃ!!!」
「おっしゃ。いくぜええええええ。どべ! ぐお! が! どわ! イテテテテ」
最初、顔面が木の枝にぶつかり目を回した。
そこから、あちこち大きな木の枝にぶつかりながら落下していく。
木からの落ちるだけでも衝撃は凄まじく、目の前が真っ暗になった。
「お、おれ・・・い、生きてんのか・・・・」
「生きてるじゃ!」
レミさんの声が聞こえたからこの世にはいるようだ。
「おお。マジか。あの高さから・・・助かったの・・・か」
レミさんはまだ俺の頭の上で楽しそうに踊っている。
ちょっとムカつきながら俺は、自分の傷を確認する。
「体は・・・まあまあか。結構傷を負ってるけど、ギリギリ生きてんな。ラッキーだわ。レミさん、俺の体見てよ。ほら。ははははは。っつ。いてえ。会話よりも応急手当が先だな」
「そうじゃ。痛そうじゃ。急げじゃ! 急げじゃ!」
うるさいレミさんをほっといて、俺は傷に包帯を巻いて体力と傷の回復を優先した。
応急手当のスキルでだいぶ回復させることが出来た俺は、落ち着いて辺りを見る。
俺とレミさん。
二人で立った場所は、大きな木の下。
その木の下から見える遠くの景色も木だけである。
ここは薄暗い森の中だった。
「木だな」
「木じゃな」
「木しかないな」
「木しかないのじゃ」
「ここ、どこよ?」
「どこじゃろな」
「あんたさっき、聖なる泉の時は説明してくれたよね? ここは、なんていう場所なの?」
「知らんのじゃ! あそこ以外、余は地図を覚えるのが苦手なのじゃ」
エッヘンみたいなポーズを決めてきた。
無性に腹立つ。
「マジかよ。何この人、全然役に立たねえじゃん。俺、ジークラッドの情報何もないんだよ。あんたが頼りじゃんか。何も知らねえって。マジで役に立たねえな。あんた本当に神鳥なのかよ!」
「役に立たないとはなんじゃ! ルルは余の知識がないと生きられないのじゃ。余がいないと寂しいじゃろが!」
「全然寂しかないわ! それより、あんたにさ。ここの知識がねえのがおかしいんだよ。ここにいたことあるくせに、地図くらい頭に入れておけよな。それじゃ、ただの喋るだけの頭空っぽのアホ鳥じぇねぇか・・・それに朝からうるさい鳥だしよ。ただの目覚ましアホ鳥で確定だぜ」
「おおお!!!! 言うてくれるのじゃ。そんなこと言うともう二度と起こさないのじゃぞ」
「ああ、それで結構だ。むしろ助かる。毎朝起こされてたまったもんじゃないからな。アホ鳥!!」
「なんじゃと、このオタンコナス坊主!!」
「あああ」「あああ」
鳥と俺の不毛な睨み合いは続く。
しかし、俺を端目から見たら変な奴確定なのである。
鳥と喧嘩して、そいつとにらみ合いを続けている奴なんて、この世界中どこ探しても俺だけだろう。
なんて考えていると。
「きゃあああああああああああああああああ」
女性の悲鳴が聞こえた。
――あとがき――
長らくおまたせしました。
ここからがルルロアの大冒険の始まりでございます。
ルルロアの待ち受ける運命は果たして・・・。
これからの彼の冒険の記録をご覧ください。
もし気に入って頂けましたら、感想を・・・いえ、フォローだけでもして頂けると嬉しい限りです。
この作品が応援されている証が見えるとやる気パワーアップ!!!
なんて贅沢を言いましたが、ぜひよろしくお願いします!
この作品を続けてもいいんだ。
そんな勇気が湧いてきますので!
◇
ここから読まれる方もいらっしゃるかもしれないので、主人公とレミさんを少しだけ解説しておきます。
『ルルロア』
世界の南、ジーバード大陸出身。
無職の冒険者である彼のランクは、準特級冒険者で、超一流の冒険者である。
幼馴染たちが英雄職という最高ランクのジョブを持っているので、自分は彼らよりも弱いと幼い頃から思っている。
だが、実力だけで言えば彼らと遜色ないほどの強さを持っている。
自己評価低めの男である。
大胆不敵の変人気質な男。
商人以外に値段交渉で負けたくない。負けず嫌いでもある。
ダブルタレントというジーバードでは非常に珍しい人間である。
『レミさん』
かつて世界に名を馳せた神鳥レミアレス。
その力を失った姿をしている薄紫の小鳥。
世界の根幹に関わった経緯があるが、それを簡単には教えてくれないミステリアスな部分がある。
余。そち。じゃ!
が口癖の明るいアホ鳥である。
あと、ルルロアを毎朝起こすのが日課である。
ちなみに他の人にはレミさんの声はピーピー泣いているように聞こえる。
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