第102話 人間の種族が違う

 悲鳴の主は案外近くにいた。

 男性らしい身なりの三人が、女性らしい人を取り囲んでいた。


 俺がなぜ、この人たちの性別で『らしい』なんて曖昧な表現をしたかというと。


 俺の目の前にいる人たちの姿が俺とは違うのだ。

 明らかに俺とは別種の人だ!

 

 「いや、誰??? あれは人でいいのか? レミさん、わかる?」

 「おお。おお。懐かしいのじゃ。あれはエルフの女子に……亜人一人に獣人二人じゃな」

 「マジか。あれが……別種の人。すげえ。レミさん、なんかワクワクするな!」

 「そうじゃろ。そうじゃろ。来てよかったじゃろ?」

 「うんうん。俺って今。冒険してるよな!」


 と、二人で会話した。



 ◇


 地面に片手をついて倒れているエルフの女性が、横目でこちらを見て叫ぶ。

 「きゃあああ、助けて~~~」

 続けて鳥の羽を背中に持つ人が女性を脅す。

 「ぐへへへへ。どうだ。やっちまうぞ」

 体が赤い鱗に覆われている人も続く。

 「金を払え」

 頭に猫耳があって、爪が鋭い人も続いた。

 「体でも払ってもいいぞ」

 女性はこっちに顔を向けた。

 「きゃあああああああ、そこの人~~~。助けて~~~~~」


 ◇


 俺とレミさんの話は続いている。


 「ねえ、レミさん。ここの事情って分かる?」

 「何のじゃ?」

 「種族関係の話さ・・・相関図みたいな話よ?」

 「う~む。大体は分かるが・・・余がいたのは三千年前じゃからな」

 「三千年前でもいいよ。レミさんの時代の話でもいいんだ!」

 「情勢は違うかもしれないのじゃぞ」

 「いいよいいよ。レミさんが知るかぎりの情報でいいからさ」


 レミさんは俺の肩に乗って、目線を合わせてくれた。


 「そうじゃな。まず、当時のカイロバテスはじゃな。人族、魔人族、獣人族、亜人族、妖精族の五種がいたのじゃ。それら五種の人間は五種族戦争と呼ばれるものを戦っておったのじゃ。あれは、あまりにも長き戦いじゃったの・・・・まあ、それはいいとしてじゃ。その戦争の間に、天変地異が起きたのじゃが。その時に五種族戦争を勝ちきれないと悟った一番弱い人族が最後の望みをかけて南に逃げたのじゃ。その時に、余もちぃとばかり協力したじゃ」

 「ほうほう。レミさん。今回は核心部分を話してくれるね」

 「まあ、ここまで連れてきてくれたのじゃ。ちょっとサービスじゃ」

 「サンキュ」



 ◇


 「きゃああ。きゃああ。た、助けて~~~」

 「ぐへへへへ。どうだ。やっちまうぞ」

 「金を払え」

 「体でもいいぞ」

 「きゃあああああああ、そこの人~~~。助けて~~~~~」


 ◇


 話は続く。


 「それでじゃな。こやつらの特徴を伝えておこう。今見えるあの女子。エルフの特徴は、妖精族であることじゃ。魔力コントロールに優れていて。エルフの種類によってはレンジャースタイルに特化している者もいるのじゃぞ」

 「レンジャースタイル?」

 「うむ。実はルルたちの世界はじゃな。魔力が弱いのじゃ。それは何故か、分かるかじゃ?」

 「魔力が弱い? 放出力がないとかか? それとも量?」

 「うむ。両方あっているのじゃ。そちたちはな。普段から魔力を使用しない戦闘をしているから、魔力が弱いのじゃ」

 「ん、魔力を使用していない……俺たちは魔法を使っているぞ? それが魔力の使用じゃないのか?」

 「うむ。ルルは、マジックタンクとかいう職種の者がなぜ莫大な魔力を持っているか分かるかじゃ?」


 あの大きな飛空艇を動かせるマジックタンクの魔力はとてつもない量であるのは間違いない。

 普通に戦いに応用できれば、強者となれる職業だろう。

 しかし残念ながら彼らには魔法を行使するスキルがない。

 魔力が強くても魔法がないのは、俺の無職のようなスタイルでもある気がする。


 「そりゃあ、あの職業のスキルから来るバフがあるからな。どんどん育っていくだろ?」

 「そうじゃが。実はあの者たちは常に飛空艇を動かすために魔力を放出しているからこそ、成長しておるのじゃぞ」

 「んんん???」

 「スキルの影響はあると思うのじゃが、魔力とは使用量に応じて才覚を発揮するものじゃ」

 「ほうほう。なんとなく分かったぞ。こっちの人たちは、魔力を大量に使用することが多いから成長しているということだな」

 「そうじゃ。そんでじゃな。こっちの大陸の人間は、武器に魔力を流し込むことが出来るのじゃ。切れ味などを変化させることが出来るのじゃよ」

 「ほうほう。なるほどねぇ。魔法戦士みたいな感じかな」

 「うむ。そういう感じで扱う者もおるのじゃけども。基本こちらの人間は、武器を強化、防具を強化するのに魔力を使用して数段上の力を得るのじゃよ。でもそちたち。ジーバードの人間たちは、武器防具強化の概念は、スキルによって強化しておるじゃろ。だから南の人間たちは、魔力を使用することを考えておらんのじゃよな。だから魔力が育ちにくいのじゃな」

 「ほうほう。ならこっちの人たちの方が魔力コントロールとかが一枚上手なのか・・・そうか、勉強になるわ。なんだよ。レミさん知識を持ってんじゃん。もっと早く教えてくれればさ。役に立たないなんて言わなかったのに。なんか悪かったな。言い過ぎたわ」

 「ハハハハハ。もっと褒めてくれじゃ!」


 ◇


 「きゃあああああああ、た、助けて~~~」

 「ぐへへへへ。ど、どうだ。や、やややっちまうぞ」

 「…か、金を払え」

 「・・・・お、お前の体でもいいぞ」

 「きゃあああああああ、そ・・・そこの人~~~。た、助けて~~~~~」


 ◇


 話は続く。


 「それでじゃな。本題じゃな」

 「うんうん」

 「エルフは当時。ハイエルフとダークエルフ、それとウッドエルフがいたのじゃ。各々の特徴はじゃな。ハイエルフは王道の光が得意じゃ。ダークエルフは闇が得意。ウッドエルフはレンジャースタイルで弓などの武器を得意としている種族じゃな。今もそれらがその通りかは知らんじゃがな」

 「へえ。そうか。大まかな種族の中にも、細かく種類があるんだな・・・マジで勉強になるぜ。レミさん、ありがとね」

 「うむうむ。ルルは、こちらの世界では覚えることがたくさん出てくると思うじゃ。これからもな。分からない事は余に聞いておいた方がいいのじゃぞ」

 「そうだな・・これからはレミさんを頼りの軸にするか」

 「そうじゃそうじゃ。余を頼りなさいなのじゃ。ナハハハ」


 ◇

 

 「きゃ、きゃあ、助けて」

 「ぐへ。どうだ」

 「・・・か・・・・・金を払え」

 「・・もう・・いいぞ」

 「きゃあ、そこの人助けてよ。ちょっと、あんたいい加減、私を助けなさいよ」


 男性三人に囲まれている金髪の女性がこちらを向いたまま立ちあがった。

 女性から見て俺が遠くにいるから、あまりよく見えていないのだろう。

 前傾姿勢でしかめっ面でこっちを見ている。



 ◇

 

 俺が女性を助けないのはなぜか。

 そう、こいつら、絶対にグルである。

 なんせ、この男どもは、さっさと女性を襲えばいいのに、いつまで経ってもこちらをチラチラ見ている。

 一人、鱗の体を持っているおっさんがぐへへへと笑い続けているのが気持ち悪い。

 こっち向いて笑う前に、彼女をさっさと襲えって。

 そしたら、俺がぶちのめしてやるからよ。

 っと考えていた。


 「はぁ。んで、あんたら、何してんの。森の中で、何? 襲われる芝居?」

 「違うわよ。あんた、あたしを助けにきなさいよ。あたしみたいな、か弱い可憐な女の子をね。助けない男なんていないのよ。いい加減こっち来て助けなさいよ」


 俺は彼女らに向かってゆっくり歩く。

 鷹の目の使用をやめて、裸眼でも四人の顔を確認した。


 「いや、あんた。か弱くないね。俺の目があんたの魔力を測定できないって言ってる」

 「は?」

 「俺の鑑定眼で、あんたのことを測定できないなら、あんたの魔力は英雄職以上だ。んな奴が弱いわけがないぜ。エルフのお嬢さん」

 「・・・あ、あんた、その姿……はぁ、ヒュームじゃない。ああ、お金になんないわ。こいつを捕まえるのはやめよ。やめ。あんたたち、撤収よ」


 女性は片手をあげて止め止めと手を振った。


 「なんで? ヒュームは金にならんの?・・・・つうか、ヒュームってなんだ???」

 「は? ヒュームを知らない。あんたまさか。もしかしてジークラッドの住民じゃない!?」 

 「ああ、そうだぞ。俺はここの住民じゃないな。あっちの世界の人間だからな・・・これからはこっちでよろしくだろうけどさ!」

 「そう。それじゃあ。あなたは珍しい人で決まりね。あたしの金になりなさい。やりなさいよ、あんたたち」


 エルフの女性は、美しい翡翠色の瞳を俺に向けて、男三人に指示を出した。

 


 

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