第67話 いざ新大陸へ

 ゲルグの指南役になって一カ月。

 俺は彼の座学の勉強を後ろから見ていた。

 授業の中身は俺がずっと知りたかった帝王学である。

 為政者としての心構えなどの授業は目から鱗であった。


 「よいですか。王子。民を守るためには・・・時には・・・」

 

 一生懸命ノートに書いて勉強している彼の後ろで俺もメモしていた。

 爺さん先生の授業は、黒板などに字を書かず、コンコンと話すだけの授業なので、必死にメモをしないと爺さんの話に手が追いつかない。

 ちょっと、言葉と言葉の間に間をくれ!

 せめて、一呼吸を置こうぜ爺さん!

 っと思っていることは内緒にしよう。

 

 「以上です。王子。三日後にテストします」

 「わかりました。よろしくお願いします」


 王子は爺さん先生に頭を丁寧に下げて、俺の所に来た。


 「ルル殿! 今日は稽古をしますか?」

 「そうだな……今日は座学にしよう」

 「え? 座学?」 

 「ああ。俺はとりあえず、お前を重戦士として一流にすることにしたわ。んで、そこから王として勉強するといい。兵よりも強い王となれば、舐められるようなことはないだろう」

 「なるほど。武も文も・・・両方頑張れと!」

 「ま、そういう事だな」


 いつも前向きに頑張るゲルグは俺の事を信頼しているらしい。

 俺のスキルや戦い方の座学も成長著しかったので、俺の教えと指導をしっかり受け入れているみたいだ。

 そして、アマルも彼と一緒に座学を受けているのだが・・・。

 こいつ、俺の事をお師匠様とか言ってるくせに、座学になると眠りやがる。


 「zzzzzzzz」


 机に突っ伏して、完全拒否反応を示していた。

 アマルは授業開始五分も経たない内に夢の世界へ旅立った。


 ◇

 

 俺が一通り重戦士のスキル解説などをした後。


 「んで、重要な事を伝える。お前の成長ルートだ」

 「成長ルート?」

 「ああ、お前は重戦士の速度型でいこう」

 「え? 重戦士に速度型があるのですか」

 「いや、そういう名称はない。けど、俺がその道しるべを作っておいた。お前は斧の二刀流という非常に珍しいタイプの戦士だからな。スキル取得は、『二刀流』と『重武器』『重装重量無制限』のスキルを取ろう。防御技術は鍛えるけど、防御のほとんどは重装でカバーしてしまい、攻撃だけに専念して、相手を圧倒する攻撃を身につけよう。んで、攻撃の滑らかさを手に入れるために重武器が必須で。二刀流は、利き手じゃない方の攻撃速度が落ちないという副次効果もあるから、早めに取ろうな」

 「わ、わかりました」

 「よし。あとは、二つの小斧を操っても、斧の一刀流よりも早く動かすことを意識しよう。イメージは大切だ。重戦士なのに、速度で相手を圧倒だ! これがスローガンな!!!」

 「はい! ルル殿!」


 とまあ、素直なゲルグはここから懸命に修行に励んでくれるのだった。


 「あ・・・授業・・・終わったのでしょうか。あれ」

 

 最後に座学が終わると起きるアマル。

 なんとなく、こいつがあのルナさんの甥っ子であることが分かる一か月であった。


 ◇


 それから三カ月後。

 俺は手紙を書くことにした。

 色々な事を同時進行でしている俺はしばらくジャコウに帰ることが出来なくなったので、今までお世話になった人に手紙を書いておいた。

 

 お袋、親父に一通。 

 元気であると簡単に。

 

 それとシエナにも書いた。

 彼女のおかげで俺は前向きになれたからな。

 元気かい? くらいの可愛らしい文章に・・・。

 って思ったけど。

 あの子はもう8歳くらいになっているし、非情に頭のいい子だったし、文章をしっかり読み込むかもしれない。

 だから俺は大人に書くのと同じように書いておいた。

 喜んでくれたら嬉しいな。


 あと、師匠と先生。ルナさんにも書き。

 あいつらにも書いておいた。

 フレデリカの手紙には帝王学の知識をまとめたものを先生と同じ内容で送り。

 クルスとジャックにも二人に有益なスキルを羅列して、頑張れとだけ伝えておいた。


 俺が帰らなくなって一年と少し・・・・。

 すぐ帰るとか言った手前、いまだに帰れずにいるのは何だが申し訳ない気がしてくるんだけど。

 こればかりはしょうがない。


 人生は旅。

 人生は出会いと別れ。

 みたいなもんなんだ・・・・。

 分かってくれ。可愛い生徒たちよ


 ってカッコつけてるけど、ただ流されているだけだよね。

 運命とかじゃないよね。

 俺の人生行き当たりばったりになってるよな。

 今の王様やアマルとの出会いだってそうだけど、人生って運だよな。

 人と人との出会いの運だよな!!!

 ははははははは!!!


 って言い訳をさらりと発動させて、今日も俺は自分自身の鍛錬を積み重ねながら、アマルとゲルグを指導していったのであった。



 ◇


 王にゲルグを頼まれてから八カ月。

 俺は遂に新たな場所に行く。

 新天地ジョルバ大陸だ。



 ジョー大陸の飛空艇離着陸場にて。

 目の前にある飛空艇は、俺が見たことがない形であった。


 「これは見たことないな。なんだこれ? 流線形じゃなくて、筒状?」

 「ああ。ルルはこれが空を跳んでいる所を見たことが無いのか。この飛空艇は俺たちのものなのだよ」


 王は気軽に声をかけてくれた。


 「へえ、シャルテ号とヴィセンテ号しか知らなかった」

 「そうか。これはテレミア王国の飛空艇 アーゲント号だ」

 「おお。初代王の名ですね」

 「そうだ。王がご存命の頃にはなかったが。それから二百年後に作られた。世界に今ある五機の飛空艇の一つであるぞ」

 「・・・・五機だって?」


 この世界にある飛空艇は二機だとばかり思っていたので、俺は普通に驚いた。

  

 「うむ。五機の内訳は、俺たちのアーゲント号。世界を回るヴィセンテ号とシャルテ号。テレスシア王国のアスタルト号。そして、冒険者ギルドが持つボヤージュ号だ」

 「へえ。冒険者ギルドにも飛空艇なんてあったのか」

 「うむ。あそこは連絡手段に使うようだぞ。手紙とかクエストの管理とかをするために、飛び回っているな」

 「そうだったんすか」

 「だからギルドのは小型である。人を大量に運び出すものではない。俺たちのアーゲント号は中型機で、アスタルト号も同じくだな。王族のみを運び出すから大きくする必要がないのだ」

 「なるほど……少し小さめですもんね」


 俺は飛空艇アーゲント号を見上げた。

 確かにツーサイズ位小さく感じる。


 「では、乗ろう! ジョルバを目指すとしようか。皆の者!」

 「「「はっ。王様」」」


 皆が最敬礼している中。

 俺は。


 「アマル! 気合い入れろよ」

 

 隣にいるアマルに声をかけた。


 「ううううう。お師匠! どうしましょう。高いんですよね。空は・・・」

 「まあな。空だもんな。高いよ。だって空だもん」


 と突き放すように答えてやった。


 ◇


 飛空艇アーゲント号のメインルームには、操縦桿を握る人や、マジックタンクの方たちがずらりと並んでいた。

 そしてこの部屋は外が丸見えで240度ほどのガラス張りの部屋だった。


 「外が見えるな……凄いな」


 俺は王族たちが座るアーゲント号の前方の特等席に、座らせてもらった。

 普通の兵士たちはアーゲント号の胴体部分の客席のような固い席にいる。

 ちなみに俺の後ろにいるのは興奮気味のゲルグであり、彼は目を輝かせていた。


 「おお~~。初めて乗りました。ルル殿。私、初めて乗りました!!!」


 しかし、俺の隣にいる男は。


 「どうしましょう。空が見えるんですよね。高いんですよね」


 めっちゃ怖がっていたのである。

 アマルは青ざめていた。


 「はぁ。度胸ねえな。ゲルグを見習えよ。今にも立ち上がりそうなくらいに元気一杯だぞ。座ってろって言われてるのにな。はははは」

 「えええ。ゲルグ王子は高い所が得意なんですよ」

 「そうか。お前は苦手か」

 「苦手というか。落ちたからというか」

 「・・・ああ、あの時落ちたもんな。でも俺が助けたじゃないか」

 「はい。非常に助かってますが……怖かったもので」

 「そうか……いつか克服できるといいな・・・お! 飛ぶらしいぞ」


 俺は目の前にいるマジックタンクの方たちの魔力が全開になったのを見た。

 マジックタンクが三人。

 通常の飛空艇は五人が魔力を回して飛ぶ。

 一回のフライトで十人がこまめに交代して進むが、王族御用達のアーゲント号はそれよりも小さいために、三人で十分なんだそう。

 でも俺の計算では、この人たち……ジョルバに着いた時にはヘロヘロじゃないか。

 そう思ったのである。

 

 「三秒後出発します! 三、二、一・・・・アーゲント号発進!」


 艦長が合図を出すと、普通の飛空艇よりも速く船体が浮き上がり飛び立った。


 「まじか! 速ええ」

 

 俺にはこの速度が通常の飛空艇の二倍に感じる。

 それくらい風を切り裂いて進んでいるように感じた。


 「おお。空ですね。雲ですね」


 ゲルグは外を見て楽しそうであった。


 「ううう。下に海が・・・高い・・・」

 「はぁ。もう下を見るなって。黙って目を瞑って、アマルは寝てろって」

 「え・・どうやって怖いんですけど・・・」


 情けない剣聖であると思ったが、俺は肝心な事を忘れていた。

 こいつはまだ13の子供だった。


 「よし、それじゃあ、アマル。ゲルグ。授業をしてやろう・・・今行くジョルバ大陸。そこは何の大陸と呼ばれている」

 「火の大陸です」


 ゲルグは自信満々で即答してくれた。


 「正解だ。ゲルグは勉強してるな。それじゃあ、ジョルバ大陸の災害は知ってるか」

 「え? 分かりません。そこを勉強してませんでした」

 「そうか。じゃあ覚えておけ。ジョルバ大陸の災害はモンスタークエイクだ。大陸にある山の約二分の一が火山であるジョルバ大陸は、巨大な地震が起きたと同時に火山が噴火して、辺りにモンスターが出現するんだ。マグマの中にいた火属性のモンスターどもが一斉に辺りにばら撒かれる迷惑極まりない災害であるんだぞ。ただし、この災害は滅多に起きない。大体、80年から150年くらいの周期だから、人間でいえば爺さん婆さんの代の人間にしか被害が分からんな」

 「わかりました。大切な事ですね……覚えておきます」

 「ああ、そうしておけ・・・ってやっぱな」


 俺の予想通り、ゲルグはしっかり授業を聞いてくれて、当然アマルは・・・。


 「zzzzzzz」

 

 寝た。

 綺麗に寝てくれたのである。

 俺の鮮やかな寝かしつけにより、アマルはアーゲント号が無事にジョルバ大陸に着くまで眠ってくれたのであった。

 俺に感謝しろよ。居眠り剣聖!!!


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