第66話 新たな弟子のような者
王の自室に呼び出された俺たち。
王は爺さんたちを差し置いて俺に話しかけてきた。
「すまんな。ルル。俺の呼びだしを受け入れてくれて、助かるわ」
「いえいえ。お気になさらずに。王様・・・何用で?」
王の態度は以前とは明らかに違う。
言葉はラフであったが、頭は下げてくるし、立ち振る舞いにも丁寧な印象を受けた。
あの時は俺がどういう人間であるのかを試す意味合いがあったように思う。
「ふふふ。早速用件か。無駄を嫌う男だな」
「まあ、そうですね。わざわざ俺みたいな奴を呼び出すなんて何か用があるんですよね」
「まあな。では。座ってくれ」
俺たちは王の部屋の椅子に座り、会話は続く。
「要件からいくと・・・二つ」
「二つ?」
「ああ、ルルに頼みたいことがある。いいか?」
「んんん。内容と条件次第ですかね。とりあえず聞きましょう」
「よし。まず一つ目。俺の息子を鍛えてくれないか? そちらの剣聖アマルと共に」
「・・・・ん? どういうことですか?」
「俺の息子のゲルグを育ててほしいのだ。数カ月の短い期間でもいい。ルルの指導は素晴らしいと聞いてな。あの子を多少なりとも強くしてほしいのだ」
王は、普通の父親の顔になった。
子供に良い教育を、こんな感じの印象を受ける。
「・・・はあ。いや、アマルと共にとは、どういうことでしょうか?」
「うむ。アマルとゲルグ。この二人を共に成長させてテレミア王国の基盤を固めようかと思ってな。二人が協力し合う環境であれば、この国も安泰だろ」
「まあ、たしかに。未来の王と剣聖が共にいればそうでしょうけど。そこにアマルの意思がないからな・・・どうすんのアマル?」
「え。拙者ですか。お師匠様」
「いや。お師匠様って・・・」
「今後はこれでいこうかと」
「マジかよ・・・まあ、それはいいや。んで、アマルはそれでいいのか。この国に仕えるみたいになるようだぞ」
「そうですね・・・拙者は・・・・今はお師匠様の修行が出来ればいいと思ってます。それにそのゲルグという方を見たことがないので、何とも言いようがありません」
「なるほど。非情に冷静だ。アマル……本当に成長したな」
「お師匠様にお褒め預かり、ありがたき幸せであります」
アマルは本当に冷静な男である。
剣聖って幼くても凄いのね。
こう思ったことは内緒にしよう。
「ごほん。それでな」
王の話には続きがあった。
そう言えば二つあると言っていたのだ。
「俺の息子の件は本命じゃない。実はこっちが本命である」
「本命?」
「ああ。本命は、来年に開かれる武闘大会に出てくれないか」
「武闘大会!?」
「うむ。来年、テレスシア王国で開かれる両国国交正常化記念150年での武闘大会が開かれるのだ。これは5年に一度開かれるのだが、今回は150年記念大会になっててな。気合いが入ってるんだ。そこで二人に出てもらいたくてな。こっちも複数名出るが、こちらの兵士で勝てるかどうか……まあ、あっちは騎士団が三騎士団もいるし。こっちで強いのは、侍の里の人間だからな。それで里の者は基本出せないから、剣聖だけでも出したくてな」
「アマルを・・・子供ですよ」
「そう。子供部門があるのだ。そこに出したい」
王は大人ではなく同年代の子と戦うから安心しろと言わんばかりだった。
「そうか。子供部門か…でも、やばいなぁ。アマルが子供部門か」
俺はイメージを膨らませた。
子供部門でアマルが戦う。絶対に実力の差がエグイ。
アマルはむしろ大人と戦ってもいいくらいなんだ。
やばいな。相手の方がさ。
かなり加減しないと怪我だけじゃ済まないと思うんだ。
下手したら死んじゃうかも。
「その、ぶっちぎりでアマルが強いですよ・・・いいんですか?」
「うむ。よい。こちらとしては。未来の戦力はとても素晴らしいのだと。向こうにアピールできればいいのだ。戦争も抑止できよう」
「なるほどね」
俺は納得した。
剣聖の実力で戦争を回避する。
二国間が戦争するわけじゃないが、これはいい抑止力かも知れない。
「で、なんで俺も出ないといけないんです?」
「それは、国の戦士たちでは向こうの騎士団に勝てないと思うのだ。だから、アマルの師として出てくれれば、向こうの一人勝ちにはならんだろうと思ってな。要するに1位から3位までの表彰台を向こうに独占されるとしたら、こちらとしては面子がな」
「なるほど。んじゃ。俺がもしその仕事を引き受けるとしたら、いくらです? 俺を雇うつもりなんでしょ。今回は」
「うむ。よく気付いたな」
「そりゃ、王様が交渉の顔をしてますもん。すぐに気づきますって」
王の会話の流れと態度が商人と会話しているようだったから、俺は気付けたのである。
「100万でどうだ」
「100万か……」
俺は正直、この任務の報酬金額が、いくらが妥当なのか分からなかった。
俺はとりあえず値が吊り上がるのかと思い、意味深に言って、疑問形にしてみた。
「そうか。150は」
「150ですね。まあ・・・まあ」
50万も上がったよ。
内心ビックリしてるのは隠してます。
「う。なら200でどうだ。しかも、半分前払い」
「200ですか……」
マジで、前払いで100万だってよ。
大盤振る舞いじゃね!
すぐにでも返答したいところだが、なんとなく答えを渋る。
「むむむ。それ以上か!」
「いえ、それでいいです。じゃあ、一つお願いがあります」
「お! 次は値段じゃなく条件か」
「ええ。じゃあ、願いとして。あちらの国に行った時に図書館に入る許可を取るのに協力してくれませんか? ヨルガさんと一緒にです」
「お! 珍しい条件だな・・・いいだろう。やろう。ヨルガにも命令しておく」
「ありがとうございます。では、その契約内容でお願いします」
「おう。ではさっそく明日から息子を」
「ああ、はい。ではアマルと共にそちらに向かいます」
「助かる! ルルは勝手に城に入っても良いとのお触れを皆に出しておくので、好きな時に城に来てほしい」
「わかりました。では明日、お伺いします」
俺はこうして、この国の最高権力の場所に顔パスで入れる立場になったらしい。
無職なのに・・・。
ここにいる兵士さんよりも明らかに役職的には下っ端ですよ。
なんて思ってることは内緒にしよう。
◇
翌日。
「わ。私がゲルグといいます。よ、よろしくお願いします。ルル殿」
王子様はもの凄く控えめな男の子であった。
目が左右に動きながら、時折俺を見て、俺と目が合うと、またすぐに横に動く。
恥ずかしがり屋だ!!!
と直感で分かった。
「うん! よろしく王子!」
「え・・あの~~、ゲ、ゲルグでいいです」
「そうか。じゃあ、ゲルグ。今日から修行するぞ。アマルと同じメニューはきついだろうし。実力が分からんから、まず軽く実力を測るわ。ほんじゃ、俺に打ち込んで来い。アマルはその場で素振りな」
「はい、お師匠様」
アマルは頭を下げてすぐに素振りを始めた。
ゲルグは斧持ちであった。
両手に片手斧を持った二刀流である。
「ほう。面白いな」
「い、いきます」
数分後。
「ゲルグ、お前意外と動けるんだな」
「はあはあ。当たらない・・・・つ、強い・・・」
膝をついたゲルグは息を整えていた。
「いや、俺に攻撃を当てるのは無理よ。お前いくつだ?」
「わ、私は16です」
「そうか。大人ではあるんだな。職業は?」
「・・・・重戦士です」
「おお! いい職業だな」
「…いえ、支配者系統の職種じゃなかったんです。私は、王には向かないのではないかと」
「ん? そんなことないだろ。なんだって頑張れば王になれるんだぞ。別に職種何てどうでもいいんだ」
「え?」
「いいか。ジョブはあくまでも天啓で得た職業だ。例えジョブが、なりたい職業に向かなくても、人は努力すれば何かになれるんだ。だからお前が重戦士だろうが、お前は王になれるんだよ」
「そ、そうなんでしょうか・・・」
「ああ、そうだ。俺を見ろ。俺なんて無職だぞ。無職なのにここの城に勝手に入ってるし、お前の指南役をやってんだぞ。あはははは。ありえんだろ! ははははは」
「・・・そ。そう考えるとそうですね・・・たしかに・・・はははは」
「ああ。だから諦めんな。王に必須のものをこれから勉強していこうぜ。スキルが無くともその所作は身に着けることは出来るんだ。お前は素直そうだし、きっと良い王になるよ」
「はい。頑張ります」
ゲルグはとても素直であった。
こりゃ、アマルよりは楽だなと思って修行を続けていることは、一番弟子であるアマルには内緒にしておこう。
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