第65話 新たな友人

 「え? 何が『マジかよ』なんでしょうか? 今、私と会話してないですよね?」

 「え・・あ・・まあそうなんですけどね。あああ・・・どうしよう」


 レミさんは自分からは答えを言ってくれないが、こちらが情報を提示した時は答えてくれる。

 だから、この人と有意義な会話をすれば、レミさんは正しい答え合わせをしてくれる気がするからこそ、ここでこの人に事情を説明するかを悩んだ。

 頭を抱えたい気持ちを押さえて会話を続ける。


 「んんん、そうですね。今からの話、他言無用でお願いできますか? 絶対、誰にも言わないって、誓ってくれますかね」

 「え!? ああ。私、話相手が城内にいないので全然大丈夫ですよ。友達も少ないですし。あはははは。って自分で言って、自分で笑って・・・ああ、悲しいや・・」


 悲しみの独り言がセットの答えだった。


 「では、ここから秘密ですよ」

 「はい」

 「この鳥」

 「はい」

 「レミさんって言うんですが」

 「はい」

 「俺がつけたんじゃないんです。こいつが勝手に名乗ったんですよ」

 「は?」

 「実はこいつと俺・・・話せるんです。そんで、こいつの声は俺にしか聞こえないみたいなんですよ」

 「ほえ?」

 「それで知ったこの鳥の正式名が、『レミアレス』なんです」

 「・・・・ふえ!?」


 ヨルガさんはお茶を持ったまま固まった。


 「それで、その証拠がですね。ヨルガさんって、あの子の。剣聖の報告書を読みましたか?」

 「あ、はい。一通りは読みましたね。15階に至るまでの激闘ですよね」

 「ええ。あの中にエルジャルクの報告もしてますが、読みましたか?」

 「はいはい。あのモンスターストームはエルジャルクが起こしていた災害だという話ですね。ジョー大陸の西から風を起こして、東にあるガルズタワーにぶつけるのが、あの深淵竜の仕事ではないかという報告を見ましたよ」


 ヨルガさんは学者さんだから、伝説上のモンスターについての報告書なら見てるかもしれないとの予想がバッチリ当たって、正直俺はほっとした。


 「やはり、こういう事をしっかり把握している人で良かった。それでですね。実はあれに一つ報告してないことがありましてね」

 「え。何をです」

 「実はあの時、俺以外の二人は、塔を登って東側に行っていたんですが、俺はエルジャルクと西側で敵対していたいんですよ」

 「え。まさか・・・戦っていたんですか?」

 「まあ、そう言われればそうなるんですが。戦う前にですね。エルジャルクから話しかけてきて、レミアレスを出せ! こう言って来たんです」

 「レミアレスを出せ!? え、じゃあ・・・エルジャルクには、レミアレスがその場にいるって分かっていたってことですよね」

 「そうなんですよね。そして、俺はその時レミアレスがなんなのかを知らなかったんですけど、俺は咄嗟にこの鳥がレミアレスだと気づいたんです。そこでかばおうと思ったんですが、あのエルジャルク、全然話を聞かない奴でしてね。俺にとんでもない闇魔法を仕掛けてきたんですよ。それで俺が死ぬかもと思った瞬間」

 「瞬間??」


 ヨルガさんは両手で持っていたお茶をテーブルに置いた。


 「レミさんが光魔法で対抗したんです。光円の輪アルベドルクスという魔法でしたね。俺も結構魔法には詳しいはずなんですが、あれは初めて聞いた魔法でして、ヨルガさん。聞いたことありますか?」

 「光円の輪アルベドルクス……ですか。そうですね。どこかで聞いたことがありますね。古代魔法だったかも知れません」

 「…そうですか。それじゃあ、その凄い魔法をこの鳥が扱えるのなら、本物のレミアレスだと考えてもいいですよね?」

 「はい。もしそうなら、そうとしか考えられない」


 ヨルガさんは、あまり動じずにレミさんを見て言った。


 「その魔法が古代魔法だとしたら、そう考えていいと思うのです。古代魔法は今の我々では扱えないですしね。繊細な魔力コントロールとそれを支える魔力量ではなく、魔力放出力がないといけないですからね。もしかしたら大賢者なら行使できるかもしれませんが、現代の大方の魔法使いには使用できませんでしょう。だからその鳥がレミアレスだとしたら、唯一の古代魔法を扱える者となります」

 「そうですか・・・レミアレスって、すげえんだな」


 俺がそう呟くと、テーブルにいるレミさんが踊り出す。


 「そうじゃ、レミさん凄いのじゃ。もっと褒めろじゃ。ほれほれ」

 「・・・・・」

 「なんで、黙るのじゃ。さっきまで褒めておったじゃろうに!!!! ほれほれ」


 と俺を困らせた張本人がうるさいので無視して、ヨルガさんと会話を続ける。


 「で、信じてもらえますかね。俺も信じがたい魔法を見たので、ちょっと混乱してるんですけど」

 「はい。聞かされてなんですが・・・私も半信半疑ですよ。ははは……あ、でもちょっと待ってください。私、資料を取ってきます」

 「はい」

 「おい。ルル・・・なんで余を無視するんじゃ。おい。褒めろて。おい。お~~~い」


 いつまでもうるさいレミさんを俺は無視してヨルガさんを待った。

 

 

 ◇


 分厚い資料を持ってきたヨルガさんは本を開く前に俺に聞いてきた。


 「ルルさん、あなたが見た魔法はどんな形でどんな効果でしたか?」

 「えっとですね。光の輪でしたね。小さな光の円が、レミさんの口から出現して、次第に大きくなっていきました。それで真ん中が空洞でありました。そして、敵の魔法がそこを通過すると攻撃を消滅させる効果がありましたね」

 「わかりました。調べてみます」


 ヨルガさんは古い資料のページを何枚もめくり、手が止まる。


 「これだ、光円の輪アルベドルクス。光の反射魔法だ。あらゆる魔法攻撃を反射する光の鏡であると・・・・」

 「ん? 反射??? ヨルガさん、俺が見た時は、魔法を反射してないですよ」

 「・・・ええ、ちょっと待ってください。追記がありました。ええっと、属性魔法を反射し・・・・ああ、ここだ。闇魔法はこの魔法と相反する力であるために、鏡の中に入って消滅すると書いてます。光の輪の鏡の部分を通過すると魔法を消す。効力はそのようであります」

 「あ! それだ。真ん中を通過して消えましたね」

 「ならばそれは真実。間違いない。ということは本物のレミアレス!?」


 ヨルガさんは本をテーブルに置いて、レミさんの前に顔を出した。


 「おお。この眼鏡・・・よく気付いたのじゃ!!!」


 っておい、気づいたんじゃなくて。確かめたんだろうが!

 何言ってんだこの小鳥! 

 と思ってることはレミさんには内緒にしよう。


 「ヨルガさん。信じてもらえますかね。俺ってこの鳥と普通に会話できるんですよ」

 「この鳥とですか・・・凄いですね」 


 俺は突拍子もないことを言ってるのに、この人全く動じてない。

 マイペースだ!


 「ええ。何故か声が、エルジャルクの声もですが。俺ってなんかおかしいんですかね」

 「・・・そうですね。そんな人、過去に事例がないですね・・・気になりますね。声が聞こえる。ああ、私。徹底的に調べておきましょうか? 文献を手あたり次第漁ります」

 「本当ですか。いやあ、助かります。あなたのような人と知り合いになれて、俺は運が良い」

 「あははは。そうですか。私も今まで調べていたことが役に立つ時がきて楽しいですよ」

 「おお! じゃあ、今後は友人ってことで手紙とか送りますよ」

 「文通いいですね。ここに送ってくれれば、私はいつでも返事を書きますよ」

 「そうですか! ありがとうございます。どうもです。これから頼りにしますね。ヨルガさん!」


 握手を要求するために手を出すと。


 「ええ。こちらこそ。友人としてよろしくお願いします」


 ヨルガさんは手を握り返してくれた。


 俺はこうしてヨルガさんという新たな友人を得た。

 ヨルガさんは早速今から研究に入ると言って、魔大陸のいく方法とファイナの洗礼の詳しい情報を調べ始めてくれた。

 超貴重でめっちゃくちゃマイペースな人と俺は友になれたのだった。

 

 


 ◇


 王都にしばらく滞在した俺と爺さんとアマル。

 俺とアマルは王都が初めてと言っていいので、色々な場所を二人で巡ったりしていたら、俺たちが取った宿屋にブランさんが戻って来た。


 「ふぅ~」

 「疲れてますね。ブランさん」


 俺はブランさんにお茶を手渡した。

 

 「あ、かたじけない。わざわざ、ありがとうございます」

 「いえいえ。ブランさん、やはりルナさんでお疲れですか。あなたのような武人が南の港に行くだけで疲れるわけがないですからね」

 「え・・まあそうですね。あの子と一緒に馬車の停留所に行ったはずだったのに、何を血迷ったのか。何故か西の港行きの馬車に勝手に乗りましてね。それを必死で追いかけて、連れ戻してと・・・まあ、とにかく、王都の近くの停留所なんて、どこどこ行きですよと。丁寧に行き先が書いてあるはずなのに・・・なにも遠回りなんてしなくていいのに、遠回りしました・・・はぁ」

 

 言葉からでも分かる。

 滲み出る苦労が伝わる。


 「大変でしたね・・・うんうん」


 と俺がブランさんを慰めていると、爺さんが部屋に入って来た。


 「ルル殿! ん? ブラン戻って来たか。ちょうどよい。これから王に謁見するぞ」

 「そうだったな。俺って王にもう一回、会うんだったもんな。爺さん。案内頼むわ」

 「うむ。すまんがついて来てくれ。今回は正式なものじゃないから王だけだ」

 「…よし。いくか」


 俺は重い腰を上げて再び爺さんについていったのであった。

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