第64話 推測

 「そ、それなら私が・・・」


 王と話していた俺の左後ろから弱々しい声が聞こえた。

 か細かったから聞き逃しそうだったけど、俺の耳にはちゃんと届いていた。

 俺がそっちの方に振り返ると、遠慮がちに右手を上げている白衣の男性が、自信なさげで不安げであった。


 「お? こんだけ人がいて、あなただけですか?」

 

 俺がそう言うと、その男性は周りの人を確認する。

 誰も手をあげてないことに、戸惑っていた。


 「……あ・・・そうみたいです」

 「そうか。じゃあ、王様! あの人を借りてもいいかな。話が聞きたい!」

 「ヨルガをか。いいぞ。いいぞ。ヨルガ、ルルロア殿の話し相手になりなさい」

 「え。あ、はい。そうします」

 「そんじゃ、あなたが知ってるレミアレスってどんなの?」


 ずっと気になってたから、俺はついつい皆の前で聞いてしまった。


 「レ、レミアレスは・・・いえ。神鳥レミアレスが書かれている文献ですが。あれはたしか1000年前ほどの物があります・・・」

 「1000年前!?」

 「はい。我がテレミア王国は400年の歴史しかありません。しかし、この国の本流であるテレスシア王国には1400年の長い歴史があります。そして、我々は、その本流のテレスシア王国の歴史図書館の本の複製を、あの休戦協定の際に勝ち取ることが出来たので、こちらにも資料が残っている物があります」

 「へえ、そうか。歴史が長い分。俺たちの大陸にはない文献が、こっちの大陸にはあるのか。そうかぁ、歴史図書館ね。ジョルバに行った時に行かなかったもんな・・・行けばよかったな」


 俺たちは、ジョルバ大陸ではあまり冒険者の活動をしてこなかった。

 まだ時期が早かったのもあるが、金が無くて飛空艇でそっちまで行けなかったってのが真相である。

 何せ飛空艇だと反対周りであるからだ。


 「あ、しかし、これは機密文書なので、ジョルバの歴史図書館に行っても、おそらく見せてもらえないと思いますよ」

 「そうなんだ。そうか・・・じゃあ、話はここまででいいや。王様、この後にこの人を借りてもいいかい」

 「ん? ここで話すのではないのか」

 「機密文書を公にしたらダメでしょ。それに俺は、ヨルガさんとサシで話がしたい。王様、ゆっくりできる場所を貸してくれないかい?」

 「・・・・それもそうだな。ヨルガ、お前はこの後で。自分の研究室に、ルルロア殿をお連れしなさい」

 「わ、わかりました。王様」


 ◇


 王様との謁見が終わった直後。

 ヨルガさんと共にこの場から離れようとすると、王様から声をかけられた。

 そちらを振り向くと今までとは違う表情と態度の王である。


 「ルルロア殿、待ってくれ! 後で俺に会ってくれないか?」

 「ん?・・・王に?」

 「ああ、お願いしたいことがあるのだ」


 王は真剣な表情で俺に嘆願してきた。

 だから、その態度に対してだったら、俺だって真剣でなければならない。

 俺は失礼を嫌うのである。


 「そうですか・・・わかりました。しかし、俺はこの城を知りません。王様に会うには、どちらに行けばいいのでしょうか?」

 「うむ。ルルロア殿は、後でタイルに案内してもらってほしい」

 「わかりました。あ! あと。ルルロア殿は堅苦しいので、ルルでいいです。俺はそっちの方が楽なんで。あなたは王様ですしね」

 「そうか。わかった。ルル! 今の件、お願いしたい」

 「はい。必ずお伺いします」


 と言って俺は王と別れた。

 

 ◇


 俺は爺さんとアマルと別れて、ヨルガさんという方の道案内を受けた。

 ご自身が働く職場に通されたのである。


 「ヨルガさんの職場は、城の三階にあるんですね」

 「ええ。そうです。私は占星術師ですから・・・・ここのですね。こちらの秘密の場所に繋がっているので、ここが職場となりました」


 ヨルガさんは部屋にあるひもを引っ張った。

 ガタン!

 と天井が扉のよう開き、梯子が降りてきた。


 「うお。上に行けるんですね」

 「そうです。ここから屋上に行って、私は占星術を使います」

 「へ~。そうなんですね。あ! 話は違いますが、占星術師ってどんなスキルを使うんですか」

 「えっと、そうですね。私は・・・」


 ヨルガさんの占星術師としてのスキルは内政と戦闘の両方があるみたい。


 まず、初期スキルである『占う』

 これは、人や物の未来を予感するだけに終わるらしい。

 人や物の色が見えて。

 青ならこれからラッキーだよ!

 黄色なら今のままの現状維持だ!

 赤なら今後の君は危ないぞ!

 こんな感じで曖昧らしいので、ヨルガさんは人を占うことはないのだそう。

 確信のない未来であるし、漠然としたことを人に告げるのは嫌なんだそう。

 能力を悪用しない優しい人であった。


 次に『天候』というスキルがある。 

 これは、初期ではなく中盤に取得できるらしい。

 最初は一日か二日くらいまでの天候を、5割くらいの確率で当たるだけの実力しかない身につかないらしいが、段々とスキルに慣れてくると徐々に精度と日数が増えていき、ヨルガさんは、一週間先の天候を大体9割くらいの正確さで当てられるようだ。

 この大陸だとこのスキルは重宝するかもしれない。

 風が多いし、それに雨もある大陸だから、天気予報がないと一般人の人たちの洗濯物とかが困るだろう。

 

 そして、占星術師には戦闘スキルもある。

 それが特殊魔法『色替え』だ。

 色の障壁を貼ることで、相手の属性攻撃を軽減することが出来るみたいで、敵の攻撃の強さにもよるが、属性攻撃の5割から8割くらいまでカットする障壁を貼れるらしい。

 これは色でやらねばならないらしく。

 例えば、火魔法なら赤。水魔法なら青。

 と言ったように、属性に対して合った色を合わせることが求められる。


 それでこれの凄い所は、魔法以外にも作用することだ。

 モンスターのブレス攻撃や、モンスターが持つ属性が付与された物理攻撃にも対応できるようなので、そこら辺が神官術との違いとなっている。

 神官術の属性防御魔法は魔法にのみ効果を発揮するので、この違いは大きいかもしれない。

 でも、祝詞神官であればたしか似たような魔法があった気がする。


 俺はクルスの顔を頭に思い浮かべて、祝詞神官の魔法を思い出そうとしたけど、すぐにはパッと思いつかなった。

 俺の頭でもさすがに全職の魔法やスキルを覚えるのは不可能である。


 「それで、話が脱線しましたが。本筋にいきますか?」

 「あ、そうですね。ヨルガさん、お願いします」

 「ええ。こちらこそお願いします。いやぁ、私が今まで調べてきた話をしてもいい人が、私の目の前に現れなんて、夢にも思わなかったので、少し嬉しくて、少し緊張していますが、お話ししましょう」


 ◇


 ヨルガさんは話す前にお茶菓子とお茶を用意してくれた。

 里と似たようなものが出てきた。

 このお菓子がこの国の特徴かもしれない。

 俺は麩菓子を食べて、お茶を飲んだ。


 「レミアレス。その鳥は、世界カイロバテスでは、神鳥と呼ばれています。人々の安寧を願う怪鳥とも呼ばれていたようです」

 「へえ。そうですか。じゃあ嘘じゃないのか・・・」

 「嘘?」

 「ああ、こっちの話です。気にしないで、続けてください」

 「わかりました」


 平和を願う安寧の鳥レミアレス。

 最古の記述で登場したのは3000年前に、レミアレスは登場している。

 大地が穿たれ、壊され、離れていった。

 その瞬間に、レミアレスは人々の命を守るために力を使ったのだそう。

 ジークラッド大陸にいた奇跡の人らと共に協力して、ファイナの洗礼を完成させた。

 と、テレスシア王国の文献に残っているのだそう。


 「マジか・・・本当の事だったのか・・・でも完成させた? 奇跡の人らと? レミさんが」

 「どうしました?」

 「いえ、またこちらの独り言でした。続きを」

 「はい」

 

 かつて、世界は一つの大陸であったと言われている。

 しかし、そこにはからくりがあり、北のジークラッド、南のジーバードと呼ばれる大地があったのだそう。

 これらが分けて考えられていたのは、この二つの間に巨大河川が存在していたから。

 だから、その当時の人々は一つの大陸を二つに呼び分けていたのである。


 北の人間をジークラッド人。南の人間をジーバード人と呼んでいた。

 その人間たちには種類があり。

 亜人種。

 獣人種。

 エルフ。

 ドワーフ。

 人間。

 魔人。

 計、六人種であった。


 現在、我々の四大陸にいる人間は、人間のみで構成されているが、過去にはこのようにたくさんの人種がいたようだ。

 なのに、なぜか今は人間のみ。

 主立った原因は文献にもないのだそうだが、ヨルガさんが言うには3000年前のファイナの洗礼が原因ではないかとされている。

 なので、ジークラッド大陸を守るようにしてあるファイナの洗礼。

 その先にあるジークラッド大陸。

 あそこには我々とは違う人類が、もしかしたらいるのではないか。

 それが、ヨルガさんの最終予想であった。


 「マジかよ。教科書とかに書いてあった。別の人種の話は、おとぎ話じゃないと・・・」

 「ええっと・・・日曜学校のですか?」 

 「はい、そうです」

 「あれは、おとぎ話ですね。子供向けに改良された全滅説を採用してますからね。私はまだ、北の大陸では他の人種が生きているのではないかと予想しています。なぜなら、ファイナの洗礼がまだ発動しているのです。あれは、人間の魔力では維持できないと思うのです」

 「人間の魔力では維持できない?」

 「ええ。例えば、エルフまたは魔人かもしれませんが。これらの人種のいずれかが又は全種が、あれに魔力を供給し続けているのではないかと予想しています」

 「なるほど・・・そうだよな。あのエルジャルクでさえ、モンスターストームを扱っている時は魔力消費が激しそうだったからな。俺たちのような人間数名だけでは、あの規模の魔法は維持できないもんな。でも魔力が豊富な人種ならばできるのかもしれないよな・・・」

 「ええ。まあ、その人種だけでも発動は出来ないと思いますから、あれを維持するために何かしらの仕掛けがあると思うんですがね。それが私ではまだわかりませんね」

 

 と言って、ヨルガさんはせんべいを食べた。

 俺も続いてせんべいを食べようとしたら、胸のポケットからレミさんが出てきた。


 「うお! レミさん。なんで、この服でもポケットにいるのよ」


 俺は思わず驚いて声を出してしまった。

 

 「いや、暇じゃからな。ちょっと出ちゃったのじゃ」

 「は? はぁ」

 「え? 鳥!?」

 

 ヨルガさんも驚く。

 当然だ。手品みたいに突然鳥が出てきたら誰だってビックリするわ。


 「すみませんね……レミさんが驚かしてしまい」

 「へ~。レミさんというんですね。綺麗で可愛い子鳥ですね」


 ヨルガさんは動じていながらもお茶をすすった。

 マイペースな人みたいである。


 「そうじゃ! 余はレミさんじゃ! この眼鏡。余の事を知っておるのじゃな。ちゃんと調べておるのじゃな・・・よく勉強しておるのじゃ。褒めて遣わそうなのじゃ」

 「ん? じゃあ、ヨルガさんの推測・・・・合ってんのか?」

 「だいたい、合ってる! 間違っている部分もあるけどじゃ」

 「マジかよ」


 しまった!?


 俺はついついレミさんと会話してしまったのである。

 ヨルガさんは俺の事をじっと見つめたまま止まってしまったのだった。


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