第63話 占星術師のヨルガ
占星術師のヨルガ。
テレミア王国の王宮で、学者として仕事をしている傍らで、王都周辺のお天気予報を出す人物。
普段から本に囲まれている生活をして、仕事場でも囲まれている。
その憂さ晴らしをするかのように、毎週日曜の午前七時に、王城の屋上で外を見ながら、一週間の天候を調べるのである。
その正確性は驚異の87パーセント。
高確率で天気を当てる不思議なジョブを持っている男性だ。
ちなみにこのジョブは特殊職である。
彼はこの日、他の将軍や内政官と共に侍の里の謁見の場面に加わった。
普段であれば、御前会議にすら参列することはない。
大臣や軍部のものでもないので、重要場面でのお呼ばれがない職種の人間であることは確かなのだ。
なのになぜか今回は王様が直々に『城で働く者の全てが集まるのだ!』としたために、ヨルガも参加することになった。
だから、ヨルガは久しぶりに参加した謁見の場に緊張していた。
王がいる玉座を中心として考えると、ヨルガがいたのは、王から見て、右側の家臣団の二列目の末席である。
その席の意味合いは、それほど重要ではない仕事のお天気占いをしているから・・・ではなくヨルガが学者であるために、研究を頑張っている人であるから、他の煩わしいことに巻き込まれないようにしてあげるためである。
実は、この列には格と言うか序列のようなものが並びに反映されているのである。
だから、王なりの配慮がなされている配置であるのだ。
(はぁ。私に謁見なんて関係ないのに・・・なぜこのような場面に。それに……私以外の閑職の方もいますね。ここにいるのは、本当に全員かもしれません。これから何が起こるのでしょうか)
キョロキョロしているヨルガは明らかに怪しい。
しかし、皆も落ち着かない様子なので、彼だけが浮足立っているわけではなかった。
「それで、今度来る男は剣聖の師なんだな」
「そのようでございます。剣聖アマルを育てたらしいですよ」
王の隣にいる右大臣マスカラが王に答えた。
王は、その『剣聖の師』と呼ばれる男に興味があったようだった。
◇
玉座の間の扉が開いた。
「侍の里サクラノの長――タイル殿。剣聖――アマル殿。そしてルルロアが入られます」
「…ん?」
最後に入ってきた男には殿がついていなかった。
呼び出しておいてかなり無礼な扱いだ。
私はそこに引っかかった。
挑発的行為をけしかけるなんて王にしては珍しい。
だから、珍しく行動には珍しい事を。
私は自分のスキルを発動させてみた。
スキル『
私のこのスキルは占星術師のスキルの一つ。
相手のオーラを読みとり、その人物がどのような人であるかを勘で読み解くという自分でも理屈を説明しにくい不可思議なスキル。
学者であるのに、勘がものをいうスキルを身に着けるとは我ながら……変わってますね。
私が見たのは最初のお爺さん。
タイル殿は普通のオーラであった。
何も特筆することはなかったので、普通の御仁であると推測した。
そして次は剣聖。
アマル君は、まだ子供であるのに、目が潰れるかと思う程に眩い光を解き放っていた。
黄色と白が混じった光で、体から大きくはみ出すオーラが常に出続けていた。
あれは、まだまだ成長するであろう大器だ。
そして最後の人物を見た瞬間。
私は思わず。
「あ!? え!!! なんでしょう!?!」
声を出してしまった。
そばにいる大臣や兵士たちが私の事を一斉に見た。
黙れよ、お前・・・。
言ってはいないが皆はこんな顔であった。
私の驚きの原因。
それは彼にオーラがなかったことだ。
無色。
未来を読めない。
成長の余地が分からない。
今がピークなのか。
それともまだまだ無限に成長するからこそ色が無いのか。
人生で初めて、私はオーラのない人を発見したのである。
これは!
と私の目は釘付けになり、俄然彼に興味が湧いてきた。
◇
話し合いは学者にはどうでもいい事であった。
アマル君の試練クリアの報告と里の今後の報告であった。
だが、事件はここから起きた。
「それで、そこの男が、俺の師匠をぶちのめした・・・って聞いたんだけどよ」
突如として、王は荒々しく男に聞いた。
先程とはうって変わって態度が横柄であった。
昔の血が騒いでいる。
そんな感じだった。
「そうっすね。ぶちのめした、って言えばぶちのめしましたね。んで、俺の今回のお呼ばれは、何の意味があったんすか。さっきから俺にだけ冷たいんすけど」
男もまた、不躾な物言いで、態度も凄く無礼な感じに変わった。
王に対してありえないほどフレンドリーである。
「貴様、王に無礼な態度で」
兵士長アザナスが怒り出した。
「そうすよね。俺も思います! でも俺は王とか興味ないすからね。俺は相手に合わせて、こちらの態度を変える変人すからね。あんたらも俺に無礼であれば、俺もあんたらに無礼だぜ。そこんところよろしく!」
なんともまあ堂々としていて、中身も凄まじい宣言であった。
王の前。
王宮の中。
これらの条件下で、何も悪びれずに言い切ったのだ。
私は退屈だと思っていた謁見が楽しくなってきた。
「んで、そこの兵士さんたちは俺を斬ろうと思ってるのかな。俺・・・今は無手だけど。あんたらよりも100倍は強いから、斬りかかっても無駄だよん」
挑発付きの言い方。面白い。
私の目は彼だけを追う。
「貴様!!!!」
アザナスが前に出ようとすると、王が制止した。
「待て! こやつ、面白い。俺が斬る。桜花流 満開」
王自らが動いた。
玉座の間から一瞬で不敵な男の前まで行き、一刀両断の攻撃を仕掛けた。
「いや、あんたが来るんかい!!!」
と男は笑いながらそう言い、王の剣を指で挟んだ。
両手での白羽取りじゃなく、右の人差し指と中指で王の攻撃を防いだのだ。
「こん中で王様が一番強いんか? 他のもかかって来るか?」
王の剣を受け止めながら、男は周りの人間にそう言った。
「わ、我らの王の一太刀を・・・」
「し、信じられん」「どういうことだ」
王は剣を引いて、玉座に戻った。
「うむ。タイルに聞いた通りだ。素晴らしい腕前であるのだな。タイルよ! 信じるぞ。お前の言う通りだ」
「そうでしょう。しかし今の歓迎の仕方をするなら、事前にワシにも言ってくだされ。こちらのルル殿はもっと暴れても仕方のない男なのですぞ。今回は力を押さえてくれたからよかったものを。王は怪我どころでは済まないのですぞ」
「うむ。そうだろう。俺の剣を止めた時に、俺もそう感じたわ。この男は強すぎる」
王は止められたのに笑顔であった。
新たな強者を歓迎していた。
「この国が剣聖を保有することになり、俺的にはあなたに感謝している。深く感謝を示そう」
王は頭を下げた。
それに家臣たちはどよめいた。
王が謝るようなしぐさをするなど初めて見たからだ。
「保有だと!・・・アマルは物のように扱われるのか!」
あれだけ侮辱されていても怒っていなかった男が、剣聖の扱いについて聞かされた瞬間、怒りを露わにしたような気がした。
顎を触っている手は落ち着いているが、その近くの頬がピクッと動いていた。
「…ん? いや、そうじゃない。言い方が悪かった。保有と言ってもただの身元を受け持つくらいの感覚だ。あちらの国にいるか、こちらの国にいるか。我ら両国はその確認を取りたいだけなのだ。剣聖と閃光はそういう役職なのだよ」
「ふ~ん。それならいっか。俺はさ。アマルには、無理をさせたくないんだよ。この子にはまだ5年くらいは普通に過ごさせてあげたいからな。だってまだ13だ。成人じゃないんだぜ。ここからの成長はじっくりゆっくりだ。体を剣聖になれさせてやりたいからな。時間が必要なんだ」
「それは俺も思う。俺の子と同じくらいの子に、無茶はさせたくないからな」
「そうか・・・ならよかったぜ。王様が常識人でよ」
「そうか。俺は常識人か」
「「ははははは」」
二人で笑った。
なんでこの男は王と対等に会話しているのだろう。
この場にいる家臣たちはそう思っているし、私も思っている。
「ここから本題だ。お前、俺の部下にならんか。親衛隊に入らないか?」
「ならん、入らん」
「即答だな。本当にならんか? 面白いのにな」
「ならん!」
「なんで?」
「つまらなそう」
「え? え??」
王は意外な返答に二度も『え?』と言った。
「ここにいたら冒険できないだろ」
「・・・金は出るぞ。冒険者よりもな」
「金はいい。そりゃ俺も贅沢はしたいけど、それよりも俺は楽しい冒険がしたいんだ。俺がここにいれば、その冒険ができないから断る! それに俺は、王宮の雑事にかまけるよりも困ってる人のクエストを受けたい。色んな人の願いを叶えてあげたいのさ」
「クククク。お前は面白いわ。ここの奴らであれば親衛隊に入るのは夢であるのにな」
「まあね。俺は根っからの冒険者なのよ」
「そうか・・・わかった。では褒美を別なものにしよう」
「褒美????」
男は首を傾げた。
褒美をもらうようなことはしていない。
そんな風に見えた。
「ああ、剣聖を生み出した褒美だ。何が欲しい」
「・・・生み出した褒美??? いやいらんわ」
「は?」
「俺はあんたから褒美をもらうためにアマルを育てたんじゃない。俺がアマルを育てた一番の理由は、俺にとっての姉だと思っている。大切なルナさんが、俺の師であるグンナーさんの元に帰って来てほしかっただけだ! そんで彼女がさっき帰ったから、俺の達成報酬はすでにもらってる。それにおまけに彼女の笑顔付きだったんで、俺にとってこれ以上の褒美はないんだ。だから俺の褒美はもう受け取ってんのよ。この仕事に満足してんの! だから王様からわざわざ褒美なんていらんよ。俺は、あんたのために仕事してないもん。褒美っちゅうものは、その人の為に働いた時にもらうのよ」
王の前で王の為に仕事をしてないから褒美はいらない。
この世で、そう言いきれる男は他にいるのだろうか。
「クククク。やはり面白い。これほど面白い男はいないぞ・・・んん。では、聞き方を変えよう! 何か困ったこととか、お願い事とかはあるか。褒美じゃなくていい。何かしたいこととか、聞きたい事はないのか。こちらから手伝ってやろう」
「お願い事・・・聞きたい事・・・手伝いか。そうか」
男は、褒美はいらないが、それなら何かないかと探していた。
顎にかけた手が離れる。
「そうだな……じゃあ、この中でエルジャルクを知ってる奴いるか? それとレミアレス。これを知ってる人いるかな? 今、俺は調べたいことがあってさ。もし知らなかったら、この国の図書館とか見せてもらえないかな。ジョー大陸の図書館には来たことなかったからさ。ちょうどいいかなって思ったわ。ははは」
他の者たちは、彼から発せられた言葉に疑問符を抱いてばかりであった。
だが、私はこの言葉に驚いたのである・・・・。
三大クエストにある『エルジャルク』はいいとして、『レミアレス』
世界でごく一部の人しか知らない名をなぜこの若者は知っているのだろうかと。
私は驚愕した顔を隠そうとしたけど、表情に出ていたと思う。
これが私の運命が変わる出会いだった。
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