第52話 空想の生物じゃない
朝の日差しが部屋に入る前。
「おはようじゃ! さ! 起きろじゃ!」
「え? まだ朝早いって、薄暗いじゃん」
「起きる時間じゃ!」
「いやだから、ってまだレミさんいたの。夢じゃなかったの!?」
「現実じゃ!」
俺は、枕元にいるレミさんに驚いた。
そして、まだこの小鳥から声が聞こえることにも驚いた。
頭がおかしくなったと思ったからこそ早く寝たのに。
一日経っても現実は変わらなかった。
「マジで・・・現実なの。夢であってよ」
「何がっかりしてるのじゃ」
「いやだって、まだ小鳥が話してるんだぜ。俺頭おかしくなったんだなってさ。思っちゃうんじゃん。やっぱ病院行こうかな……どうしよう」
「それはそれは大変じゃな」
「ああ。これはこれは大変だぜ」
なんて会話を俺はして、謎の鳥と意気投合して庭に出た。
朝一の風を感じて、深呼吸してからの仕切り直しである。
澄み切った山の空気で心機一転だ!
「俺の肩に乗るなよ」
「なんでじゃ、乗り心地抜群じゃ」
「へぇ~。乗り心地ってあるんだ」
「あるのじゃ!」
なんてまた普通に会話しながら準備運動をしていると。
「朝早いな」
「お! アマルか。軽く体操でもするか。動こう!」
「・・・うむ。そうしよう。リフレッシュだ」
「ああ、気分を変えようぜ。俺も、お前もさ」
「??????」
アマルが来てくれたので、俺は二人で準備運動をした。
戦いでよく動かす肩や腰などを重点的にして、体操が終わると俺たちは縁側に並んで座った。
「どうだ。アマル。心と体は休まったか」
「うむ。だいぶ回復してきたと思う」
「そうか。お前、まあまあ回復力あるな。ハードモードで鍛えて、ボロボロの体だったろうにな。頑丈でよかったな」
「うむ。ボロボロである。ぬしの鍛え方は異常である」
「そうだな。俺もそこは思う所はある。だが」
「だが?」
「時間がない。強くなるにはな。お前さ、このままだと死ぬわ。これは決定事項と言ってもいいくらいだ。それにな、いくら俺とルナさんが一緒にダンジョンに行くと言っても、お前のレベルが最低でも準一級に入らねば守り切れんよ。いいか。あそこは、モンスターのレベルも出現回数も桁が違うからな。俺たちでも、お前を気遣う時間がないかもしれないんだ。分かってくれるか?」
「・・・うむ。わかっている。拙者、あの時のおぬしの戦いで分かったのだ。拙者には力が足りない。あのミノタウロスを前にして、余裕でいるくらいの実力でなければ、ダンジョンを突破できないんだと、思い知らされた」
「おお。そうか。じゃ、俺の指導。明日からまたハードに行くぞ」
「え・・・え、さすがに・・・」
「意気込みどうした?」
「・・・うむ。やろう。生きるために」
「おお! そんじゃ、今日も全力で休め。親父さんとどこか出かけろ。英気を養うんだ」
「わかった。そうする!」
「おう! 切り替え大事だからな。目一杯休むんだぞ」
「わかった」
と言ってアマルはいい顔つきになって来た。
親父さんの愛情の効果はあったかもしれない。
◇
自分の部屋に戻るアマルの背中を見て、レミさんは急に話しかけてきた。
「ルルよ」
「なんだ。レミさん?」
「なんか切羽詰まっておるのじゃ? あの小僧、顔が暗いのじゃ」
「ああ。あの子はな。ガルズタワーに挑戦しなきゃいけんのよ」
レミさんは人間の表情の変化を読み解けるらしい。
俺の設定上の鳥にしてはやけに人間臭い一面がある。
「ガルズタワー……ああ、あそこの斜めのじゃな・・・え? 子供じゃぞ。あそこに?」
「そうだぞ。子供でも挑戦しないといけないんだ。よく分からんがここの掟らしいぞ」
「なに。子供にあそこをか。あの子・・・死ぬのじゃな」
「ああ。でも俺とルナさんが行くからな。死なせん」
「ほう。あの昨日、ご飯の時にいた女子じゃな?」
「ああ。そうだ。俺の剣の師匠でもある。それと姉さんみたいな存在の人だな」
「そうか・・・でも、あの女子でも厳しいのでは?・・・あそこは並大抵のモンスターの設定じゃないのじゃ」
たしかに、ルナさんの実力でもダンジョンは厳しいような気がする。
なぜなら、ダンジョンは、準特級クラスの俺のような冒険者ですら行く手を阻むギミックが多数あるのだ。
そのダンジョンに対して、数多の戦場を駆けてきたルナさんでも、軍の戦場と同じように上手く立ち回れるかと言われたら難しい。
俺以外がド素人というパーティーで、最高難易度のダンジョンに挑む。
普通の冒険者ならやらない阿保任務であるわ。
あえてランクをつけると、Sランクの護衛任務となろう。
改めて、俺ってアホだな・・・・。
相変わらず一銭にもならんことをするのが好きらしいわ。
「まあな。俺もそこを気にしてるのさ。って俺はいいのかよ」
「ルルは強いのじゃ。なんでも適応できるじゃろうて」
「マジかよ。あんた、嘘くせえ」
「なんでじゃ、そちは強いと褒めておるじゃろが」
「いや、俺って英雄職じゃないしさ。無職だぞ」
「英雄職? 無職?」
「あんた。ジョブ知らんの?」
「知らん!」
「なんで、神様じゃないんか。俺たちは必ず10で天啓をもらうんだぞ」
「天啓????」
「は? やっぱ夢じゃん。皆さん、この人、俺の設定で話してますよ。どうしよう。病院行った方がいいかもしれない。困るわ。時間がないのに」
俺はマジで頭がおかしくなったのかもしれない。
「もしや・・・まだ、やっておるのじゃ・・・あやつは・・・阿保じゃな」
レミさんは誰かのことを友達みたいに話した。
天啓を与える人の事を言っているなら、女神の事だよな。
「あやつって誰よ。女神さまの事か」
「女神・・・・あやつが・・・悪たれじゃろ。あやつ」
「悪たれだって、はぁ?」
「まあよいのじゃ。あやつは好き勝手やればじゃ。それより余を連れてってくれ」
話をはぐらかされた。
「なんだっけ。聖なる泉だっけ?」
「おお。そうじゃ」
「それ、ファイナの洗礼に守られているジークラッド大陸に行かないとダメなんでしょ」
「そうじゃ!! 覚えておったか!!! でかしたのじゃ!!!」
「昨日の事だよ。覚えてますよ。俺の頭がおかしくなったってね」
「おかしくないのじゃ! ちゃんとしておるのじゃ!」
「ああ。はいはい。そうですよね。そういう風に最初は思いますよね。自分が異常じゃないって、最初は思いたいですよね」
「だから! ルルは正常じゃ! 何故か、余の声が聞こえるだけで、他は正常だ」
「ああ。俺に優しい設定で嬉しいですね。おかしくないよって言ってくれるだけでありがたいっすね」
と言って俺は朝食を食べに行った。
◇
レミさんは四六時中俺の肩に乗った。
だから俺の見る幻ではないことは明らかだ。
なんせレミさんのことは、確実に皆に見えている。
でもその声は皆には届かない。
俺にだけ声が聞こえるらしい。
なんで?
マジで俺、頭おかしくなったのかと思ったが翌日に認識が変わる。
「アマル。いいぞ! キレが増した」
「本当か!」
「おお。自信持っていけよ!」
アマルはついに俺の指導に応え始めた。
だいぶ動きが良くなったので、ゴブリンジェネラルを呼び出して再戦させてみた。
ごめんよ。
ご近所のゴブリンジェネラルさん。
アマルの戦闘経験値になってくれ。
でも、いざゴブリンと対峙するとアマルの動きが悪い。
訓練の時の三分の一の実力になってしまっていた。
「ん? なんでだ」
「そうじゃな。動きが悪いのじゃな」
「おお。レミさんもそう思うか」
「うむ。修練の時の動きは悪くないのじゃ・・・でも今は・・・」
俺とレミさんは同じ意見だった。
アマルの動きは練習の時はかなり強い。
今までとは見違えるくらいによくなったんだ。
その時の動きは準一級くらいに強いのである。
なのに、今は、三級がやっとみたいになってる。
せっかくの強さがあるのに、心が邪魔して、発揮されていないのだ。
「アマル。焦るな。お前はもう強い。ゴブリンジェネラル如きの攻撃。いなせるし。倒せるぞ!」
「・・・う・・・うむ」
素直に返事はしてくれるが、動きはまだ固い。
どうにかしてやりたいがこればかりは本人次第だ。
心を鍛える。
これは誰かが介入してできるものじゃない。
自分が乗り越えるべき課題である。
「自信じゃな・・・あやつ、どこかで自信をつけなければ、死ぬのじゃな。ガルズタワーに行くのじゃろ。ぶっつけ本番では死ぬのじゃ」
「・・・お。そうか。それはそうだよな。俺もそれに賛成するわ。レミさんの言う通りだ」
俺を納得させる意見を言ってくれたので、レミさんは、俺の意思で喋る小鳥ではないことを知ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます