第51話 レミさんの小噺

 「ルル殿。その小鳥は?」

 「いや、それがですね。庭の木に引っかかってるところを助けたら懐いてきましてね。俺の肩を住処にしやがったんですよ。そしたらね。こんな感じになりました。はい、すみません」

 

 ブランさんに聞かれたので俺は答えた。

 すると。


 「余の住処はここじゃないのじゃ! 帰りたいのじゃ。いつか! 帰らしてくれなのじゃ」

 

 ああ。そうですか。

 と思った俺は口には出していない。

 どうやらこの声は俺にしか聞こえないらしい。

 だから、ここで会話をしてしまったら、皆が俺のことを不気味に思うだろう。

 だから、無視をしたのだ。

 でも、この鳥はうるせい!


 それにこれがもし、俺の心の声とかだったりしたら、やばい。

 俺の頭、どうかしたのかもしれない。

 

 「元気な鳥さんですね」


 ルナさんはこう言ったので、おそらくレミさんの声は、皆には『ピーピー』と鳴いているように聞こえているのかもしれない。


 「鳥! 拙者の肩にも乗るか!」

 

 修行の疲れが癒えたのか、元気になったアマルはこう言ったので。


 「ほれ、レミさん。行きなよ。アマルのところにさ」

 「おお。レミさんというのか」

 「そうみたい」

 「?????」


 俺のこの言い分のせいでアマルが混乱した。

 俺の言い方では、レミさんという名を俺がつけた感じがしないのだ。


 レミさんは大人しくアマルの肩に乗る。

 アマルは意外にも動物が好きみたいで、頭を撫でたりして嬉しそうにしていた。

 こいつ基本がクソガキだけど、本当は心優しい子ではないのかと俺は思った。

 動物好きに悪い奴はいないのである。

 勝手な自論である。


 

 「綺麗で賢いな。レミさん!」

 「おお! この小僧は見込みがあるのじゃ。なんでこっちに声が聞こえないのじゃ。ちょっとなんでじゃ、そちは余の話をよく聞くのじゃ。おい! そち!」

 「どっちかと言ったら、俺もそう思うわ」

 

 俺はレミさんについついツッコミを入れてしまった。

 俺の話の中身が、奇跡的にアマルの話と噛み合ってよかった。


 「ん? どうしたおぬし? 疲れているな」

 「ああ、気にすんなアマル! これは独り言よ…‥いいか。ここでは、お前の疲れが取れればいいのよ。俺の事は気にすんな」

 「そ、そうか…でも・・・大丈夫か? 顔色が・・・」

  

 アマルは俺を気にしてくれたが、俺はこの小鳥が気になって疲れが取れません!!

 むしろ、元々そんなに疲れてなかったのに、疲れがどっと出てきた気がした。

 

 「レミさんは、ご飯は食べるのか」

 「そうだな・・・食べるのかな?」

 

 俺は疑問に思う。

 この小鳥、普通の鳥じゃないよね?

 ご飯って食べるの?


 「食べるのじゃ!! ご飯、食べたいのじゃ!!!」


 レミさんはアマルの肩の上で翼を広げて踊っていた。


 「食べたいらしいよ。どうする?」

 「今、鳥用の餌はないぞ。普通のご飯しか」


 しょんぼりしたアマルは悲しそうに下を向いた。


 「普通のご飯でいいのじゃ・・お米くれ!」

 「アマル、米でいいんだってさ」

 「え? 鳥に? それは・・・さすがに・・・喉が詰まるんじゃないのか」

 「だよな」


 俺もアマルと同じ意見だった。 

 でも。


 「食べられるのじゃ! 余はレミさんなのじゃ!」

 

 ああ、そうですか。

 と思った俺は、ご飯粒一粒を丸めて。

 レミさんにあげてみた。


 「うまい。うまい。うまいのじゃ!」

 

 ほう。よかったですな。

 と思った俺は、アマルに言う。


 「アマル。食えるみたいだぞ。ご飯粒!」

 「おお。では拙者も」


 アマルが世話し始めたおかげで、満足そうにレミさんはご飯をバクバク食べていった。

 嬉しそうにしているアマルを見て、今日の俺は晩御飯を食べたのであった。



 ◇

 

 食後。

 レミさんは俺の肩に乗った。

 そっちいけよ。

 って思ったけど、レミさんは話の通じる俺が良いみたいである。

 当然か。

 話せないよりは話せた方がいいもんな。

 

 「あ! レミさん」

 

 寂しそうな顔をしたアマルに俺は、


 「アマル。明日もレミさんを連れて来てやるから。今日はここらでな」


 約束をした。


 「そうか。じゃあ、我慢しよう」

 「おう。お前はいい子だな。じゃ! ちょっと俺、疲れてるみたいなんで寝るわ。ブランさん、ルナさん。先に寝ますね。すみません」

 「我らはお気になさらず。ごゆっくり」

 「ルル、疲れているなら早めに眠るのですよ~」


 二人はそう言ってくれたので俺は早めに寝ることにした。

 部屋に入って布団に入って数秒後・・・。


 「なに、寝ようとしてんのじゃ! そちはまだ不思議体験の真っ最中じゃろ」

 「うっさいわ! 俺はね。不思議過ぎて寝ようとしてんの! 疲れてるかなって思ってな!!!」


 俺の頭の上でレミさんが騒いでる。

 やかましいったらありゃしないので、俺は布団から飛び出した。

 レミさんの前で胡坐を掻く。

 

 「話聞け! 小僧!」

 「俺は小僧じゃない。ルルロアだ。ルルだ!」

 「そうか! じゃ、ルル!」

 「なんだ。レミさん!」

 「助けてくれじゃ」

 「またそれかい! ってやっぱ同じことを繰り返しているみたいだから・・・これはきっと夢の中だ。そうだ。そうなのだ! ということで寝よう。きっと夢なんだ」


 俺はまた布団に潜り込んだ。


 「夢じゃない!!!!! のじゃ!」

 「ぐべ」


 レミさんは、俺のお腹にダイビングしてきた。

 びたっと羽を広げている。


 「なんで、あんた強いのよ」

 「当り前じゃ、余は神鳥じゃ! そんじょそこらの鳥とは違うのじゃ」

 「ああ。はいはい。そういう設定ですね・・・」

 「設定じゃない! のじゃ!」

 「ぐべ!」


 レミさんの小さな体のボディプレスで俺の身体はワンバンした。

 威力絶大である。


 「いてえ。レミさん、割とマジで加減してくれよ。俺、人間だよ。神様ならもう少し加減しなさいよ」

 「む、スマンのじゃ。久しぶりに誰かと話せたので、テンション上がってしまったのじゃ」

 「そうですか・・・それはお辛かったですね。お久しぶりでしたか。何年ぶりですか?」

 「そうなのじゃ。かれこれ、もう何百年年以上も・・・・話してないかもじゃ・・・」

 「そうでしたか。ってことで、俺は明日も話してやるから、俺寝るわ」

 「おい! 何隙あらば寝ようとしてるのじゃ」

 「ああもう。うっさい鳥だわ」

 「なんだと。余はレミ、あ・・・じゃなかった。レミさんじゃ」

 「ああ。はいはい。レミさんはお偉い方なんですね。では」


 布団掛けに手をかけると、レミさんが暴れ出す。


 「ではじゃないのじゃ。また寝ようとするなじゃ」

 「んもう! なによ。うるさいなぁ~。もうやかましいったらありゃしないわ」

 「話聞くのじゃ。ルル!」

 「はぁ~。しゃあねぇ。じゃあ、どうぞ。お話ししてください」

 「うむ・・・」


 レミさんは、俺の腹の上で話し出した。

 謎の小鳥レミさん。

 訳あって力を失った姿となったらしい。

 本当のレミさんは、神鳥と呼ばれていて、薄い紫じゃなくて濃い紫の体だったらしい。

 大きな翼と威厳あるその姿から神鳥と呼ばれたんだそう。

 それで、力を失った状態では故郷に帰れないので。

 力を取り戻したいらしい。

 そうするためには、とある場所に連れて行ってくれとのことだった。


 「んで、それはどこよ。寝たい」

 「本音をしまえなのじゃ。寝たいは余計じゃ」

 「ほれほれ。どこよ。眠い」

 「だから眠いも余計じゃ。はぁ。もういいのじゃ。余が行きたいのはジークラッドの聖なる泉じゃ!」

 「ん? どこよ、そこ?」

 「知らんのじゃ?」

 「知らん!」


 レミさんが言った場所は、頭の中に浮かばせた世界地図の中にない場所だった。

 やっぱ妄想か。

 俺の妄想のせいでこの鳥と会話出来ているのか。

 そう思った。


 「やっぱ疲れてんだな。知らんもん。そんな泉とその場所」

 「ジークラッドを知らんのじゃ? ここより北の大陸じゃぞ」


 ジョーよりも北って・・・・まさか。


 「は? 北の大陸? ここより北っていやあ、魔大陸の事か?」

 「魔大陸??? ジークラッドじゃぞ?」

 「へ? 待ってくれ。レミさん。ジークラッドって薄い白のベールに包まれた先にある大陸の事か?」

 「そうじゃぞ。ファイナの洗礼を超えるのじゃぞ。知らんのじゃ?」

 「ファイナの洗礼? は? なんだそれ。やっぱ俺は夢を見てるんか」


 俺は目を擦ってみた。

 レミさんは真顔で俺を見つめている。


 「夢じゃないのじゃ! あれはファイナの洗礼と言って、かつて、ジークラッドにいた英雄らが作ったのじゃ。今もジークラッドの民が維持しておると思うのじゃがの。あの当時、皆がむやみやたらと戦をしとったからの。あの大陸だけでも保護したのじゃ。じゃから、こっちの人間は、大陸間移動できておらんじゃろ?」

 「・・・ん? まあ、そうだな。移動方法が分からんな」

 「ん、そうじゃよな。こっちの人間があっちに行ってもいいことないんじゃ。おそらく昔の人間は移動方法を伝授しなかったのじゃな・・・」

 「そうなんだな・・・・って、移動方法があるのか!」

 「何個かあるのじゃが、言えんわ。あっちの子らが必死に守っておるし、こっちの子らがあっちに行っても可哀そうじゃしな。だから、こっちの人間はいかん方がいいのじゃ」

 「はあ。そうすか・・・じゃ、俺ってレミさんを手伝えないじゃん」

 「なんで、そうなるのじゃ」

 「だって俺、あなたが言うこっち側の人間ですよ。ということはそちらには行けないので、ジークラッドの聖なる泉とかいう場所にあなたをお連れできません。なので寝ますね。おやすみ!」

 「おお。おやすみ・・・そうじゃな・・・そういうことになるじゃな・・・・いやでも、無事に突破する方法があるのじゃが・・・っておい! 何、寝てんのじゃ!! もうちょっと話してけろじゃ」


 こうして俺は、レミさんの尋問に耐えて眠ったのである。

 レミさんが言う事が本当だとしたら、俺はとんでもないことを聞いたような気がした。

 

 魔大陸に名称があったのか。

 ジークラッド大陸。

 聖なる泉。

 ファイナの洗礼。

 色々大変なワードが出てきたようだったけど。

 俺はもう疲れているらしいから、早めに寝たのである。


 

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