第50話 神鳥? レミさん

 休息日二日目。

 俺は、昨日。

 「親子でゆったりとした時間を過ごしてください」とブランさんに告げておいた。

 アマルの休息は心がメインで、親父の愛を受けてもらおうと思ったのだ。

 俺の事であるが、俺は、あの意味不明な親父から愛を受けたと思っている。

 正直、話の半分以上は意味不明なんだ。

 でも、親父が俺を愛しているのは明確に分かる。


 それだけはね、わかるんだ。なんとなくだけどね。


 それにアマルは母親がいないから、父親からの愛情をたくさん受けて育ってほしい。

 ちなみに爺さんにも愛情を貰おうと思ったが、爺さんは王都での仕事があるらしく今はいないので全てをブランさんに託した。



 ということで、俺は、ルナさんと一緒に休憩に入った。

 里長である爺さんの大屋敷に居候する形になった俺は、二人で台所に立った。


 「ルル、必要な用具はこれですか?」

 「はい。ありがとうございます。それじゃあ、少し待っててください!」

 「はぁ??? 拙者は作らなくてもよいので?」

 「ええ。俺が作りますよ。とっておきのものを出しますからね」

 「そうですか。では、待っていましょう!」

 

 と言ってルナさんは、台所の隣の部屋のちゃぶ台の前に正座して座った。


 俺はスキル料理を発動させ、高速でパンケーキの準備をした。

 マジックボックスから具材を取り出し。

 手際よく小麦と卵と牛乳を・・・って腐ってませんよ。

 これは、二か月前に買ったからって腐ってませんよ。

 マジックボックスは、何故か物が腐らないのは証明済みなんです!!

 だから便利道具なんですよ。

 ルナさん、お腹の心配はしないでくださいよ!!!


 と考えている内に、俺はふわふわに焼くために火の加減に神経を使い。

 丁寧に焼く。

 良い香りと気泡がぷつぷつと湧いてきたら、ひっくり返すチャンス!

 俺はパタンとパンケーキをひっくり返した。

 

 俺は、皿にふわふわに焼けたパンケーキ三枚を重ねて盛り、その上に特製のクリームを置いた。

 モリモリと山のようにクリームを入れて、周りにフルーツをちょちょっと盛り付ける。


 これにて、ギンドールさんのお店の特製パンケーキの完成である。

 

 「よし、できた」


 俺は隣の部屋に持っていった。



 ◇


 「どうです! ルナさん! これがルナさんの食べたかったものでしょ!」

 「ぬ・・・・なんですこれ?」

 「え、パンケーキですけど」 

 「え!? どこに?」

 「いや、ここにあるんですけど・・・」


 ちゃぶ台に乗っけたパンケーキ。

 何故かルナさんにはそれに見えないらしい。


 「・・・これはケーキじゃないのですか?」

 「え?」

 「生クリームですよね。これ、あとイチゴとか」

 「いえいえ。ケーキじゃないですよ。これが最新のパンケーキらしいですよ。マーハバルで修業しましたからね」

 「え・・・修行? 拙者の為にですか?」

 「ええ。ルナさん食べたいってずっと泣いていたから!」

 「泣いてませんよ!」


 ルナさんは堂々と嘘を言った。


 「ルナさん。毎回、おにぎりは嫌でしょ!」

 「・・・そうですね」

 「生ハムも食べさせてもらえてないですよね?」

 「ええ。そうですね」 

 「だから、せめて、俺がパンケーキを食べさせてあげたいなと思いましてね。料理スキル持っているので、是非食べさせてあげたいなと」

 「・・・おお。それは優しいですね。ルルは。グンナーさんと一緒ですね。どれどれ」


 ルナさんが一口食べたら、フォークが口の中で止まって出てこない。


 「うううううう。ううううううう」


 フォークを口の中から取り出さずに呻いている。

 苦しいのか。やばいのか!?


 「う?」

 「うわあああああああああああああああああんんんん」

 

 大音量で泣き始めた。


 「え、不味いの? なにこれ? どういう状況?」


 俺は戸惑った。


 「おいじいでず・・・・どでも美味しいでず・・・・ズビっ」


 鼻水も出てた。


 「まあまあ。そんなに泣かないでも・・・ほらハンカチですよ」

 「ありがとう・・・ルル。助かります」

 

 本当にこの人は、世話の焼ける姉のような人だ。

 でも喜んでくれたようで俺は嬉しかった。


 「美味しいですね。これも。美味しいです。あの時のも美味しかったですが、同じくらいこれも・・・」

 「あの時?」

 「ええ。一度グンナーさんが奢ってくれた時に食べたパンケーキです。あの時は生クリームはありませんでしたが、それでも美味しかったですね。あれは、一緒にいた人の優しさが詰まっていたんですね。これもそうです。ルルの優しさが詰まってるのです。だから特別においしいんです。ありがとう。ルル」

 「あ、はい。それなら俺も嬉しいですよ。こんなに喜んでもらえてね」

 「ええ。大事に食べます!!!」


 と言って、ルナさんは三分で、三段のパンケーキをペロリと平らげた。

 大事に食べるという言葉は・・・いったい、どこへいったの?

 目をパチクリさせた俺は、満足そうに全てを食べきったルナさんに驚くばかりであった。

 


 ◇



 お屋敷の中庭。


 俺は縁側に座って庭を眺めていた。

 これが庭園・・・。

 王族でも何でもない俺にとって、砂利が敷き詰められているのに、整った形をしている庭なんて初めて見た。

 盆栽とかいうものや、こんもりした木とか、実家では見たことが無いものがここにある。

 でもわかる。

 綺麗なんだ。

 風情があると言った方がいいかもしれない。

 とにかく心を落ち着かせるには、とてもいい場所である。

 アマルの体と心を回復させるにはちょうどいいだろう。


 「は~。こういう場所で育ったから、ルナさんは所作が綺麗なのかな」


 俺はそんな独り言を言った。

 直後、上から叫び声が聞こえた。


 「なんでじゃ!? あの・・・・野郎・・・ムカつくのじゃ!!!」


 は?

 と思った俺は上を見た。


 誰もいない。

 なのに声は続く。


 「たすけてくれ~~~なのじゃ~~~~。だれか~~~~。って余の声が、人間に聞こえるわけないのじゃ。デカい独り言になってるのじゃ~~~~~」


 俺には聞こえた。

 俺って人間じゃないの?

 っと思ったことは内緒にしておこう。


 「ほえ~~~~~ん。ぐえ!」


 庭園の木に何かが突き刺さった。

 

 「は? なんだ?」




 ◇


 俺はその声の主に近づいた。


 俺が見たのは、木の枝に翼を絡めた薄紫の小鳥だった。

 逆立ちしたようになって、ぶら下がっている。


 「ふえええええんんん。人間がいるのじゃ~~~。余を助けてくれなのじゃ~~~。ああ、でも、余の声、届かないのじゃ~~~~」

 

 可愛らしい目に涙が溜まっていた。

 かわいそうなので助けることにした。


 「鳥だね・・・・綺麗な小鳥だ・・・・つうか、何で話せるの?」

 「それは余が、神鳥でじゃな・・・とっても立派な聖なる存在でじゃな・・・・え!? なんで、人間に声が聞こえてるのじゃ!」

 「いや、あんた。さっきから独り言言ってたよね」

 「うわ・・・恥ずかしいのじゃ。忘れてくれなのじゃ」

 「ああ、いいよ。で、助けた方がいいの? あんた、逆さづりの状態だけど」

 「おお。そうじゃそうじゃ。助けてくれなのじゃ~~~~」

 「いいよ。ほら」


 俺は謎の小鳥を木から救ってやった。

 あれだけの猛烈な勢いの落下で、不思議と怪我はなさそうなので、安心した。


 「よかったな。あんた。怪我がなさそうじゃん」

 「うむ。余を傷つける奴はそうそういないのじゃ。あいつくらいじゃな。バルマくらいじゃな」

 「誰だよ。そいつ」

 「知らんのじゃ? ってなんで、そちは余の言葉が分かるのじゃ!!!」

 「いや、あんたが話してるし・・・」

 「いや。そうだけど・・・人間なのに、何故余の声が・・・」


 小鳥との会話は止まった。

 小鳥は頭痛いみたいに、翼を上手に折りたたんで自分の頭を触っていた。


 「ルル! 何を独り言言ってるのですか。どうしました」


 縁側にやってきたルナさんが、俺に声を掛けてくれた。

 右手にしゃもじを持っている。


 「え。ルナさん! こいつの声。聞こえないんですか?」

 「こいつ? どいつ?」

 「これです、これです」


 俺は肩に乗った小鳥を見せた。


 「ああ、小鳥さんですね・・・え? 話すわけないじゃないですか」

 「ええ。どういうこと?」

 「ほら。余の声。普通の人間には聞こえないのじゃ。なぜそちには声が聞こえるのじゃ」

 「知らんよ。え。どういうこと」

 「なにしてるんですか。ルル。そろそろ晩ご飯ですよ。食べましょう」

 「あ、はい。ま、いっか」


 と俺は納得して、ルナさんの後を追いかけようとして、小鳥を地面にそっと置いて手放した。

 

 「ほれ、飛び立っていけよ。無事でいろよな。元気でな!」

 「うむ・・・って、何で手放そうとするのじゃ!!!」

 「ぶべ!」


 小鳥のキックを右の頬に食らった。

 小鳥なのに体の芯に食らうような威力である。


 「強ええ。何この小鳥」

 「小鳥じゃない! レミ、あ・・・・真名は駄目じゃな。レミさんじゃ!」

 「レミさん? 誰だよそいつ」

 「余の事じゃ!」

 「は? 名前が勝手についている小鳥って事?」

 「うむ。そうじゃ」

 「マジかよ。超レアじゃん。ってことで、そんなレアな子は危険なので、ほら、外に飛び立ちなさい」

 「なんでそうなるのじゃ!」

 「ぶげ」


 また俺は小鳥のキックを、左の頬にもろに食らった。

 両方が赤く腫れそう。


 「何すんだよ。レミさん!」

 「レミさんは、今大変なのじゃ。協力してくれじゃ、人間!」

 「何を」

 「力を取り戻したいのじゃ」

 「は? どうやって?」

 

 俺が話を聞こうとしたら、奥の間から。


 「ルル~。どうしました。もうみんなでご飯を食べますよ」


 ルナさんからお呼びがかかった。


 「は~い。ルナさんもう少し待っててください」

 「わかりましたよ。早めに来てくださいね。ご飯冷めちゃいますよ」

 

 ということで。


 「そんじゃ、頑張ってレミさん!」

 「なんでそうなるのじゃ! 激レア体験真っ最中じゃろが」

 「そうだよ! 俺だってな。この激レア体験のせいでめっちゃ頭混乱してるわ!!! あんた、俺の親父みたいに意味不明なんだよ」

 「だから、もう少し、レミさんと会話せいということじゃ!!!」

 「何回会話してもこの状況意味分からんわ。な~~んで鳥が言葉話してんのよ。俺、頭おかしくなったか!!!」

 「おかしくないのじゃ。余が話しかけているのじゃ」

 「ああ、あんたという心の中の俺が話しかけてきてるんだな。やばいな……俺は相当疲れていたのかもしれないな。早めに風呂入って休もう」

 「そうかもなのじゃな・・・って、ちゃんと余が、余の意思で話しかけているのじゃあああああ」

 「ぶげ!」


 また小鳥に蹴られた俺であった。



 

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