第53話 ゴブリン殿 最後の挨拶である!
俺がアマルに激しい訓練を課してから半年。
だいぶアマルはいい感じに育った。
訓練での動きは、もはや一級に近しい実力者である。
ただし、実践になると二級程度となる。
これは困ったものだった。
EやDランク帯の雑魚狩りをしても、アマルには自信がつかなかったのだ。
それに・・・アマルは剣聖の初期スキルを発動できていなくて、何故か、それ以外は取得できたのである。
「アマル! いいぞ。見切りも発動してる。間合いもだ。ルナさんから学んでおいてよかったな」
「うむ! 拙者、だいぶ見えてきたぞ。ぬしのおかげである」
俺の軽く振った攻撃を躱し始めている。
がしかし、これは模擬訓練だ。
模擬までは非常に良い動きをしてくれるのである。
「よし、後はブランさんに教えてもらった。侍大将にもある片手剣と居合の扱いにも慣れるべきだな。あれらは戦いでは必須だろう。スムーズに刀を扱うのと、初撃の威力を底上げしておいた方がいい。よし! それでその後に、ゴブリンジェネラルを倒すぞ。お前はそこからがスタートだ。頑張れ!!!」
「・・・うむ・・・頑張ってみる」
その指示を出して今日は終わりとした。
◇
山ごもりから、里での修行に切り替えてからは、一カ月。
俺は、だいぶ里の人たちと仲良くなった。
俺って、もしかしてそういうスキルがあるのか。
スキル『仲良し』
みたいなものがさ。
まあそれくらい、俺は皆と打ち解けるのが早いらしいよ。
よそ者を受け付けない里で、自由に歩き回れているのである。
俺がお茶屋さんの店外の席に座るとすぐにお店の人が来る。
「ども。おっちゃん。いつものもらえる?」
「おお。ルルちゃんね。いいよ。ちょっと待っててね」
俺は、行きつけのお茶屋さんの旦那とはもの凄く仲良くなっていた。
俺のいつものは―――お茶と団子三本セットである。
「あらぁ、今日もイイ男ね。ルルちゃん」
「お、おばちゃん。ありがとね」
お茶屋のおかみさんは何故か毎度俺の腕を揉む。
両手で揉み揉みしてくるんです。
これってなに?
俺、肩凝ってるとかじゃないよ。別に。
腕って何? 腕って凝るの?
おばちゃんは一通り俺の腕を揉むと別の人を接客するのである。
「ほら。いつものだよ」
「おお。ありがとね。おっちゃん」
「ほら、この子にもいつものね」
奥から出てきたおっちゃんは、レミさんの分まで団子くれるめっちゃいい人。
団子の余った部分とか、売れ残った物を寄こしてくれるのである。
しかも無料で。
「おお。美味いのじゃ。みたらしじゃ。あんこじゃ・・・おお、今日はゴマもあるのじゃ」
おいおい。団子食べる鳥っているの?
喉つまらんの?
それに味の違いも喜んじゃってるよ。
グルメ鳥だよ。この人って人じゃないや…。
って思っていることは内緒にしておこう。
「ふぅ。くった! おっちゃんサンキュ!」
「ルルちゃん。また来てね」
「うん。またね~」
と俺は気さくなおっちゃんには気さくに答えて、茶屋から出るのであった。
◇
里の中をぶらりと歩いているとレミさんは俺の肩に乗った。
「で、レミさん。あんたいつになったら、ここから旅立つのよ。ずっと俺の肩にいるけどさ」
「余はジークラッドに行きたいと言ってるのじゃ。それまでルルと行動するのじゃ」
「ええ、マジかよ。だったらずっと俺の肩にいる羽目になるぞ。だって俺、魔大陸に行けないのよ。レミさんが言うにはさ。ファイナの洗礼ってやつを突破できないんでしょ・・・俺だと!!!」
「そうじゃな・・・・でもまあ、旅してれば他の方法でいけるじゃろ?」
何故かレミさんは楽観的である。
それにあそこを突破する以外に、魔大陸に行く方法があるの!?
あそこの白のベールを突破する以外に?
え、どういうこと?
それになんで行きたいって言ってるのに、俺にその方法を教えてくれないの?
でも俺は、答えてくれないレミさんに腹が立たない。
なぜなら、冒険の答えを聞くのは好きじゃないのさ。
未知なるものは自分で調べて自分で試して、自分で考えてこそ冒険である。
「……んんん。まあ、行ってみたいとは思うな。俺って冒険者だしな。冒険してみたいな」
「おお。そうじゃろ。なら、それまで待つのじゃ」
「なんだよ。レミさんは今すぐ行きたいって感じだったじゃん。何年かかるか分からないぞ」
「まあ、ルルたちの寿命から考えれば長いじゃろうが……余にとって10年、20年の数十年など屁でもないのじゃ。それくらい数分に感じるのじゃ」
「そうかい。そうかい。それならいいけどさ。俺はひとまずだけど……あの子の命を守りたいからね。冒険は待ってくれ。終わったら旅に出るからさ」
「そうじゃな・・・あんなに一生懸命じゃものな」
「ああ、何とかしたいよな」
俺とレミさんは結構似たような思考をしているのである。
鳥と人だけどね。
楽観的思考。
ほっとけないお人好し感。
それにこのレミさんも、お節介の世話焼きでもあるらしい。
この数カ月、一緒にいて気付いた。
毎朝必ず起こしてくるのだ・・・俺の親父みたいに!!!
◇
いつもの洞窟前の場所にて俺とアマルは対面でいた。
「アマル。ここを最後にしよう。お前はあいつを倒さんと、ガルズタワーに行ってはいけないと思うんだ。あれを倒して初めてお前は一歩先に進める。そんな気がするんだ。だから勇気を出して、一歩踏み込め。お前はその年齢にしたら強い。それだけは間違いない。でもな。お前が挑戦するのはガルズタワー。自分の命を守るにはもっと強くならないといけないんだ。いいな」
「うむ」
悩みながらアマルは返事をくれる。
クソガキだったけど、だいぶ成長してきたようだ。
「お前は剣聖・・・今は卵だが、才能が羽化すれば、お前はこの世で最強クラスの剣士になれるんだ。さあ自信を持っていこうぜ!!! アマル!!!」
「うむ」
ワントーン明るい声になった。
「いい返事だ。じゃあ、俺が連れてくる! 頑張れ!」
「わかった!!! 待ってる!!!」
今回のアマルはちょいと違う気がした。
背水の陣であると俺が告げた時から覚悟が決まっているような気がしたのだ。
◇
「ごめんください!!!!」
俺はいつもの洞窟内で叫ぶ。
まあ、手慣れたものである。
もうここは、実家のような安心感があるゴブリンの巣穴だ。
俺の呼ぶ声でぞろぞろと出てくるゴブリンの顔がやけに疲れている。
またお前か、みたいな顔に見えなくもない。
俺は侵入者で、どっちかと言ったら、こっちが非道な殺戮者である。
なぜなら。
「ぎゃお」「ごぞ」「びゃ」
と次々に襲い掛かってくるゴブリンを躊躇なく俺が斬っていくからだ。
すまんなお前たちの命、無残に散らせるわ。
という感じで俺はゴブリンジェネラルがいる奥の間に到達。
「ぐべ・・・・が」
なんとなく言いたいことが分かる。
お前、また来たんか。
これだと思う。
心なしかため息をついているようにも見えるし、ゴブリンジェネラルは諦めの表情をした。
ついに俺はモンスターの心が分かったのだ。
もしかして、これはレミさんのおかげか! なんてな!!!
「んじゃ! いつものノックするぜ。ウォークライ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
仕方ないなと思ってそうなゴブリンジェネラルの視線は俺に入り、逃げ出す俺についてきた。
洞窟の外まで引っ張って、アマルに声をかける。
「アマル! いけ! 今日は決めろ」
「うむ。やる!」
やる気を見せたアマルは、刀を抜き、構えだした。
直立に凛とした姿勢を保つアマル。
今までの後ろにのけ反ったり、前かがみになったりではない。
完璧に美しい所作を見せた。
「いい感じだ! いけ!」
アマルは俺の声に応えるかのように、敵の攻撃を待った。
自分から攻撃にいかずにいるのは、ビビっているのではない。
機会を窺っていた。
「ぎゃ。ぎおおおおおおお」
しびれを切らしたゴブリンジェネラルが走り出す。
ゴブリンジェネラルが持っていたのは斧とダガーの二刀流だった。
ゴブリンジェネラルは、先に右の斧を唸らせる。
アマルはそれを鼻先で回避。見切りを完璧に発動させていた。
『こいつ、俺の攻撃を躱した』
ゴブリンジェネラルがそんな顔をした。
いつもなら、この攻撃は受け止めるはずなのにと思っているだろう。
敵はアマルの成長に驚いているようだ。
その僅かな迷いの後、すぐに左のダガーを走らせる。
短い射程の刃しかないダガーの先端に、アマルは自分の刀をぶつけた。
これにより分かるのはアマルは敵との間合いを完璧に把握していた。
そうここまでは、順調と言っていい。
だが、ここからがこいつの弱点。
踏み込めるかということだ。
相手に向かって、一歩。
そこがあいつにとっての勇気の一歩である。
「はあああああああああああああ」
叫び、気合いを入れたアマルは、その勇気を振り絞った。
左足を一つ、敵の右足につけた。
「桜花流 五分咲き」
斜め一閃、桜花流五分咲きは、袈裟斬りである。
アマルは、勇気の一閃でゴブリンの肩から一気に上半身を斬った。
「ごうああああああ」
「や、やったか」
「アマル、まだだ。油断するな。そこからもう一つ、技を出せ!」
「う、うむ!」
アマルは態勢を整え、地面と平行にした刀で一閃を煌めかせる。
「桜花流 一分咲き」
アマルの刀は、ゴブリンジェネラルの体を斬り裂いた。
「ご・・・ば・・・・」
完璧な流れで戦いを制したアマルが、鞘に刀を戻す。
倒れていく敵を見て、アマルは静かに泣いていた。
「で・・・できた。拙者。倒せたのだ」
「おう。よくやった。これでお前は、剣聖への道の第一歩を歩んだぞ。いいかこれからだ。ここから頑張るぞ。真の剣聖になるまでな」
俺はアマルのそばに行った。
「うむ・・・かたじけない。ルル殿」
「おう。どうした急に。ルル殿なんて」
「あなたは拙者の師である。あれほど情けなかった拙者を……根気強く育ててくれてありがとうなのだ」
「きにすんな。俺は当たり前のことをしてるのよ。お前に生きてもらいたい。それだけさ。だから頑張ろうな」
「うむ。頑張る。残り二か月。拙者、必ず15階に行き。生き残ってみせるのだ」
「おう! その心意気だぜ! はははは」
と、こうしてアマルは、ゴブリンジェネラルを撃破した。
そして俺を師と仰ぐようになり、ここから爆発的に成長を遂げることになるアマルであった。
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