第44話 侍の里 サクラノ

 王都サーカンドに到着した俺は、王都の中に入る前に、周辺の山脈を確認した。

 北の出入り口以外の全ての方角で山が見える王都サーカンド。

 この地域はよく雲が出て、雨が降るらしいが本日は晴れ。

 ルナさんを探すのには絶好の天気である。

 まあ、探すのに天気は関係ないけど、気分がいい。

 

 「ええっと。まずは聞き込みでもすれば・・・・ん?」


 都市の中央にこじんまりとした城があった。

 前には立札が置いてある。

 

 『サクラノはこちら!』

 「は?」


 なんで、秘境の里って話じゃなかったのか?

 待て待て。

 なんで立札で案内があるんだ。

 秘境だよね・・・・卑怯とかじゃないよね。

 秘密という意味での秘境だよね。 

 秘密じゃないじゃん!!!

 この立札って、嘘じゃないよね。


 

 矢印は東を指している。

 ならばと俺は、案内してくれる方向に進むと、しばらくして。


 『サクラノはこちら!』


 なんで? 

 これ一定間隔であるの?

 なにこれ、誰か。

 里の人の中に、道に迷う人がいるとかか?と思った。


 また進むべき方向に行き、しばらくすると立札がある。

 道案内通りにどんどん進んで、都市を抜けても、山脈に入ってもそれは続いた。


 俺は、ここでふとルナさんを思い出したのである。



 ――――


 軍の訓練施設の屋上で俺が一人で自主練していた時。

 自分のスキルの動きをチェックし終えた後。

 俺がひとまず休憩を取ろうと、屋上入り口に戻った時に偶然ルナさんが屋上の扉を開けた。

 彼女は施設全体が見える位置にまで歩き、凛々しい顔で訓練場を見渡した。

 

 「ルナさん。どうしたんです? こんなところで?」

 「ん! ルルですか。拙者、お風呂に行きたいのです。しかし、お風呂場はどこへと消えてしまったのやら・・・はて・・・何処に・・」

 「・・・・・・・」


 凛とした立ち姿。

 それに振り向く時も綺麗な所作であったのに。

 言っていることはポンコツそのもの。

 屋上にお風呂なんてあるわけがない!

 軍の施設に露天風呂があるとでも思ってるのか!!!

 

 「ルナさん。また迷ったんですか。この間も迷ってましたよね?」

 「ん。拙者は迷っていないです。た、たまたまこちらに来ただけであります。たまたまなんですよ。あとちょっと歩けば、お風呂場に行けたのです」

 「その先、道ないですよ」

 「そうですね」


 この人・・・だめだこりゃ。


 「はぁ。ほら、ルナさん。お風呂に行きたいんですよね。俺が連れて行ってあげますよ」

 

 右手に持った桶の中にタオルとかその他諸々のお風呂セットを持っている彼女。

 手を引いて連れて行ってあげないとまた迷うので、俺は彼女の反対の手を握った。


 「ルナさんは、目を離せばすぐにどこかに行っちゃいますからね。手を繋いでいきましょうね」

 「ん!!! そんなことはない。ルル、拙者は子供ではない。馬鹿にしないでください」

 「では、ここから一人でお風呂に行けますか?」

 「・・・・・行けません」

 「それなら俺の言う事を聞いてくださいよ」

 「・・・・はぁい」


 とポンコツなのに、戦うと超絶優秀なのが、ルナさんという侍である。


 ――――

 

 「もしや……これは、ルナさんが里に帰れるようにしてあげる為に、この立札があるのか?」


 俺はサーカンド山脈の奥でそう思った。

 あと、看板が建てられている間隔が徐々に短くなっているように思う。

 山の木々の多さによって方向感覚を失いそうになるからかもしれない。 

 

 何個か立札を通過すると獣道のような細い道に出た。

 この場所の怪しさに俺の警戒度が上がる。

 木々の多さが日光を遮り、辺りは夜のような暗さになる。 

 

 「これは・・・ん!?」

 「立ち去れ!」


 俺の前に侍が現れた。

 凛とした立ち姿で、構えに無駄がない。

 それは、あのルナさんと同じような立ち姿だった。


 「あ、あんたは、サクラノの侍か! 俺は用があって来たんだ」

 「関係ない。よそ者は帰れ」

 「ある人に用があって、その人を迎えに来たんだ」

 「拙者らがよそ者に迎えられる? そんなことはありえん」

 「ルナさんだ。あんた知ってるか? ルナさんに会いに来たんだ」

 「・・・ルナだと・・・・斬る!」


 侍は鬼のような形相になり、刀を抜いて襲い掛かって来た。


 「なんでだ!? 俺は戦う意思はないって」

 「関係なし、切り捨て御免!」

 「くそ!」


 俺は脇差を抜き、謎の侍に対抗した。

 ぶつかり合う武器が共鳴する。


 「結構、強えな。準一級くらいか」

 「ほう、初太刀を受け止めた・・・ん!? 貴様、この脇差は、花嵐……なぜ貴様が持っている」

 「こ、これか。これは俺がルナさんから貰ったんだ」


 鍔迫り合いをしている最中なのに侍は話しかけてきた。


 「…盗んだな。ルナがその脇差を誰かにやるわけがない。取り返す。貴様を殺す」

 「いや、話聞けよ。ルナさんから貰ったんだって」

 「ありえん! それは大事なものだ。桜花流 一分咲き」

 

 本気の太刀筋。

 この男は俺を殺す気でいるようだ。

 

 「チッ。俺もやるしかないのか。桜花流 満開」


 俺は侍の一分咲きに対して満開で対抗。


 桜花流の一分咲きは、横一文字の攻撃。

 満開は縦一閃の一刀両断の攻撃だ。


 俺と侍の攻撃は十字を描いてぶつかった。


 「貴様・・・なぜ・・よそ者の癖に桜花流を・・・」

 「だから、俺はこれをルナさんからもらったし、この技もルナさんから教えてもらって。なに!?」

 

 背後に人の気配を感じた。


 「ついてきてもらおうか。そこの青年」


 明らかに段違いの実力者が俺の背後にいる。

 その男の方を振り向いたら、周りの木々から、続々と侍が出てきた。

 形勢は完全に悪い。

 俺は大人しく、この強者の言う事を聞くことにした。

 両手をあげて愚痴を言う。


 「はぁ。師匠。楽観的過ぎたんですよ。まったく、この人たち、人の話を聞いてくれないですよ・・・」


 脇差は取り上げられた。

 後ろ手に縄で縛られた上に、俺の周りは侍だらけ。

 まるで連行されたようになって、俺は侍の里サクラノに行くらしい。

 不本意な状態に追い込まれながら、俺は冷静に事態を分析して、この人たちについていった。




 ◇


 侍の里 サクラノ。

 そこは山脈の奥地の谷底にあった。

 秘境と呼ぶにふさわしい場所である。

 

 山の斜面に見張り台。

 山の底には、瓦屋根の家がずらりっと並ぶ。

 里と聞かされていたからもっと小さな規模だと思っていたが、ここは町くらいに大きな里だった。

 着物のお店や、工房。お食事処や甘味処など。

 衣食住の衣食が豊かなのも、里や村の小規模感じゃないのを助長している。


 「それで、俺はどういう扱いなんですかね」

 「・・・・」

 「勝手に来たから、罪人なんすか」

 「・・・・」

 「でも、王都に看板あったすよ」

 「・・・・」

 「来ちゃいますよね。看板あったら」

 「黙って歩け。よそ者」

 「よそ者って・・・だって、ここに来るまでの間に、看板があるんで、よそ者来ますって」

 「・・・・」

 「そんなによそ者に来てほしくなかったら、何のために看板あるんですか?」

 「・・・・うるさい・・・口の減らない男だ」


 俺の隣を歩く最初に戦った侍はムッとした顔をした。

 俺の事を睨み続けているのは何故なのでしょうか。

 勝手に恨まれていますです。はい!!


 

 里の奥。

 やたらと長い階段の先に、大きな屋敷があった。

 そこに連行される俺は、どんな運命が待ち受けているのだろうか。

 自分の身柄の不安と、ルナさんに会えたりするのかなという期待。

 両方を持って、俺は建物に入っていったのだった。

 

 

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