第40話 リョージの親友の力
三年前。
俺とイージスはファミリーのホームでお茶を並んで飲んでいた。
「イー!」
「・・・・いきなりなんだ???」
「お前の仙掌底はなんであんなに凄い威力なんだ? 敵が吹っ飛ぶとかいうレベルじゃないぞ。相手がこの世に存在しなかったみたいにさ。粉々になるくらいの威力だろ。あれはさ?」
「・・・ふふふふ・・・おらのは特別なのだ!」
「どこら辺が特別なんだよ。教えてくれよ」
イージスは自慢げに笑っていた。
「教えよう!!! おらの仙掌底は、真芯に当てているのだ」
「真芯?」
「…うむ。真芯とは、芯のさらに芯だ!!!」
「??????」
意味が分からなかった。
やはりイージスの考えは読めない。
「ルル、ここの手の平で…こう! こうやって物や人を完璧に捉えるんだぞ」
イージスは自分の手の平を俺に見せて説明する。
「・・・ルル。攻撃が芯に入った時って、感触が違うんだぞ。人や物に触れてないみたいに軽い感触なんだ! たぶんこれをクリティカル攻撃というんだ・・・と思う」
なぜそこが曖昧なのだろう。
「そして、真芯に入った時の感触は、一瞬攻撃対象が重くなるんだ。重くなってから一気に軽くなる。それをおらは超クリティカルと呼んでいるぞ。これを身に着けるのに、おらは三年かかった! 学校に入学してずっと修行を・・・」
「おい。お前・・・嘘こけ・・・イーはずっと寝てただろ」
「ヒューヒューヒュー」
イージスは、出来ない口笛を吹いて、ごまかした。
でも戦いの天才のイージスでも、修行はしていたらしい。
あの技を初めて見たのは、最初のクエストを達成した時であるからだ。
学生時代にはなかった技だった。
―――
だから俺は、努力すればその感覚は誰にでも手に入れることが出来ると思った。
イージスの戦闘をいつもイメージして、俺は努力を重ねてきたんだ。
あいつら。英雄に負けないように。
無職だけど、英雄に少しでも近づけるようにな。
「この地面をぶち壊す!
俺は地面に向かって仙術もどきを出した。
模倣の技だけど、イージスの威力に似ていると思う。
地面の感触が重く感じたのは一瞬。
そこからは一挙に軽くなったので、俺の攻撃力の全てが地面に入った。
地表から、人一人分の穴が地下二階に繋がる。
「ホッさん! 突入!」
「わかった」
ホッさんに指示を出した後、師匠の方を振り向く。
「師匠! 俺は下に行きます。敵が逃げないように出口を皆さんで囲んでください」
「わかってる。ルル、後ろはまかせておけ。安心して暴れてこい!」
「はい!」
俺の返事の後、リョージさんがイヤリングを一つ投げてきた。
「ルル! 持ってけ!」
「これは」
「もしものため。相手の魔法を封殺するぞ。いいか。これの使い方、知ってるだろ?」
「はい。ありがとうございます。リョージさん!」
俺は、師匠の指揮と鼓舞の力を得た後に、リョージさんのイヤリングを装着して、地下二階へと降りて行った。
◇
「も、もうやめてください・・・し、死んでしまいますわ・・・ジャック。クルス・・・」
弱々しいフレデリカの声には涙が混じっていた。
それは今までに人前で見せたことのない情けない姿であった。
「聞こえないな。クソガキ。おらよ」
「ぐふっ」
男は、すでに気絶してぐったりとしているジャックを無視して、まだ意識があるクルスを殴る。
クルスはどんなに殴られても、意識だけは保っていた。
自分が殴られていれば、フレデリカだけは守れるはずだとクルスは思っていた。
案の定、敵の思考はクルスを気絶させることに向いていた。
クルスは、もはや目が見えていない。
瞼が腫れて、潰れたような眼になっている。
「む・・・む・・・」
「このガキ……なぜ・・・こんなに頑丈なんだ・・・」
男は頑丈な少年にムカつき、背に隠し持っているダガーを取り出した。
「これで殺すか。もう痛めつけても無駄だしな」
「や・・・やめてください・・・・な、何でもしますわ・・・そ、その子だけは」
フレデリカは生まれて初めて、人の為に命乞いをした。
母との別れの時も気丈であった彼女が、大切な者を失うのだけは我慢できなかった。
「お前がいつまでも事情を話さんからな。ここで一人。殺すことにしたわ・・・死ね、やたらと頑丈なガキ」
男はダガーを逆手に持って構えた。
フレデリカは叫ぶ。
「や、やめてーーーーーーーーーーーー」
王魂は発動しているが、大人には微々たる影響しかない。
敵の動きは止まらず、ダガーはクルスの喉に届く・・・。
その時、爆音と共に地下二階の天井が崩れる。
フレデリカは目の前に現れた男の背を見て、今度は安堵によって、涙が止まらなかった。
◇
「てめえ。俺の大事な生徒に、何してくれてんだ」
俺の怒りの言葉が突然聞こえた男は、ギョッとして目が飛び出そうだった。
奴は俺の大切な生徒のクルスの喉にダガーを向けていた。
だから、俺はそのダガーを持つ手に左手を絡ませて関節を逆に決めながら、クロスカウンターをする。
『バキッ』と肘が折れた音が鳴って、俺のパンチは敵の顔面を完璧に捉えた。
敵は倒れながら腕を押さえた。
「ぐおあああああ。う、腕が・・・うでが・・・おれの・・・うで・・が・・・・」
「何騒いでる。クソが。そんなもん、この子らの痛みに比べたら屁でもないわ。てめえ、こんなんで楽に死ねると思うなよ」
俺は怒りに身を任せる前に、吊るされている二人を救出。
後ろで椅子に縛られているフレデリカも助け出した。
「あ、あなたは・・・」
「おお。すまんな。フレン。俺がそばにいてやれなかったな。この子らももうボロボロになっちまったか。でも安心しろ。俺とホッさんが守るからな」
「・・・・あ、ありがとう・・・ございます・・・わ」
すでにボロボロに泣いている彼女は、俺の胸に飛び込んできた。
よほど怖い思いをしたんだろう。
彼女の心が癒されるか分からないが、頭を撫でて落ち着かせた。
「すまんな。もう少し落ち着かせてあげたいんだけど……奴を倒すからよ。後ろに下がってな」
自分の腕が変な方向にいっているのが、まだ信じられない。
敵は、立ち上がれず、地べたに寝そべっていた。
「おい。起きろよ。てめえはブルーコーストか」
「おあ・おあああああ」
「ちっ。話せんか。ん? きえ・・・幻術か」
目の前で痛がる男が消えた。
俺のそばにいたフレデリカたちも。
ということはこれは幻術士のスキル『
俺の認識を変えようとしている。
見えない。
認識できない。
そんな敵を発見するにはどうすればいいか。
その対策はすでにしている。
それは・・・。
「リョージさん!」
「おう・・・ルル。右35度、上に110度。上から飛びかかってきてる」
「はい!」
リョージさんのスキル『通信』
通信士の真骨頂である『通信』は、物を介して連絡することが出来るスキル。
リョージさんは、連絡手段をイヤリングに設定していて、最大三人分の通信が可能だ。
有効範囲は都市くらいの大きさまでで、今は探知領域展開と共に俺を助けてくれるのだ。
「姿見えなくとも、お前のことは見えてるぞ。幻術士! 俺たちを舐めんな! リョージさんの親友の技を食らえ! スキル 『
獣戦士のもう一つの初期スキル『
マルコさんの獣戦士としてのモデルは豹である。
しなやかな動きと、破壊力ある攻撃が魅力の獣戦士だ。
俺の『
「おおおおおおおおおおおおおおおおお。ここだろ!」
「ぐあは。な、なぜ。俺の場所が」
「幻視を消してやる。ここに固定して・・・この認識を変える!」
最初の一撃が入った瞬間に、見えない男の空中の位置を確認できた。
そこで次の俺の行動が確定。
見えない男をその空中に固定することにした。
俺は地下二階の壁を蹴りながら、加速して敵を攻撃していく。
素早い豹の動きに加え、飛びはねながらの連続した攻撃に敵は対抗する手段がなかった。
一方的な俺の攻撃のターンである。
「ば。ご。っど。な、何故正確に俺の位置が・・お前には見えてないはずなのに・・俺に・・・なぜ攻撃が・・・通るんだ」
「これは野生の勘だ! マルコさんもそんな感じの人だったしな! 最後の一撃だ。喰らえ」
俺の最後の拳の一撃は敵の首に入った。
たまたま入った会心の一撃に俺も驚く。
マルコさんが俺に乗り移ったかのようだった。
「出てきたか・・・よし!」
幻術士は、スキルが解除されて姿を現した。
目の前で倒れたのは、歯が三本抜けた間抜けな顔をした男だった。
いや、俺が折ったかもしれない。
すまん!
「後は、そいつか・・・よくも俺の生徒をやってくれたな」
幻術士のスキルに守られていた男は、姿を現した。
俺の姿にビビって後ずさっていく。
無様な姿で必死に逃げようとするのは滑稽だ。
「く、くるな・・・こっちにくるな・・・バケモノが・・」
「俺がバケモノだって? お前、あほ言うな・・・本物を見たことがないから、そんなことが言えるんだぞ。お前はまだ、そのバケモノの力すら見てないんだぞ。俺、あいつらのスキルを使用してないし」
はっきり言って心外である。
俺はまだ人である。
無職だぞ。英雄職じゃないんだぞ。
悪党の癖にビビるなんて恥ずかしくないのか。
こいつは。
と思った俺はこいつの顔面を思いっきり蹴って気絶させた。
その際に歯が四本抜けたのを見て、やっぱり俺のせいでこの幻術士も歯が抜けたなと思って戦いを終えたのだった。
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