第39話 マルコの親友の力
「師匠! リョージさんと小隊を!」
「わかった。準備する。ルル、俺の用意が出来るまで少し待っていろ。完璧に仕上げる」
「はい。お願いします」
師匠は瞬時に動き出した上に、重ねて指示までくれた。
部屋を飛び出して、捜索隊兼小隊を準備する。
リョージさんの索敵技術。
あれが、捜索に必須である。
ただしそれは、最後の決め手。
捜索の最初は俺が重要だ。
追跡のスキルで相手のアジトの位置を知らないと、リョージさんの索敵技術が生かされないからだ。
そして、小隊を用意してもらうのは、相手がおそらく団体であろうと予測したからだ。
誰かの目がある状態から、一気に姿が見えなくなるスキルなどそうそうない。
おそらく複数のスキルが同時に複合的に効果を発揮して、屋台の親父さんの目を曇らせたのだろう。
ということは、単独犯じゃないので、アジト潜入よりもアジトの破壊に出た方がいい。
俺は今の時点で、すでに敵を潰す気でいた。
「すまない・・・本当にすまない。ルル」
「ホッさん。謝んなって。まだ、最悪じゃなねえんだ。切り替えよう。ホッさんはすぐに俺の救援をもらおうとしてくれたんだろ? なら連れ去られてから、時間はあまり経っていないはずだ」
俺も師匠と同じように準備に入った。
手袋を装着しながら会話をしていた。
「そ、そうだ・・だがしかし、私がついていながら・・・」
「大丈夫。冷静になってほしい。絶対にホッさんが戦う時がくる。今は、ジッと機会を待ってくれ」
「わ。わかった。そうだな。私としたことが、騎士団にいながらこんなに慌てるとは」
「いいんだ・・・その気持ちは俺にも分かる。あいつらのことだもんな。大事にしてんだもん。こればかりはしょうがない」
ホッさんは自分を責めていた。
気持ちはわかる。自分のせいだと思い込む気持ちはな。
俺がホッさんを慰めていると、師匠が戻って来た。
「集めた。ルル、いくぞ」
「はい」
「ホルスも……俺たちしかいねえから、ホイマンって呼ぶけど。お前も気合い入れろ、腑抜けんなよ」
「ああ、そうしよう」
師匠の準備が整ったので、俺たちはフレデリカの捜索に出た。
◇
三人がいなくなった現場に到着した。
俺は早速『追跡』を使用する。
この雑踏の中でフレデリカたちの足跡を探るのは厄介だ。
ダンジョン内を探索するのとは訳が違う。
圧倒的情報量だからだ。
頭痛を堪えて、足跡を見るが。
フレデリカの小さな足跡はこの場で終わっていた。
屋台の一歩手前の位置。
最後にホッさんがフレデリカを確認した位置で足跡は終わっていたのだ。
「ルル、あったか?」
「いいえ。この先がありません。師匠」
「そうか。まずいな。時間がないのに、都市中を探し回るか」
「それはいりません。これは魔法が掛かってると思います。おそらく魔法とスキルで認識を乱したんです。ならば、魔法の痕跡の方を追います。追跡をさらに切り替えます」
「魔法とスキル? ・・・・そうか。わかったぞ」
師匠は俺の少ない言葉で全部を理解してくれた。
「ホルスと店員を惑わしたのは、幻術士の
「そ、そんな事に気づかなかったのか。私は。護衛失格だ」
「気にすんな。ホルス。ルルが見つけるからよ」
師匠とホッさんはそんな会話をしていた。
俺は、足跡追跡を諦め、魔法追跡を開始した。
俺の追跡は、二つのモードがある。
足跡をマーキングしてその歩いた足跡を追跡するモードと。
魔法の痕跡、魔力残滓を見極めるモードに別れている。
そして、切り替えたことで、俺の目には魔力が浮遊する痕跡が見えた。
「ある。これは魔法を使った痕だ。こんなところで魔法なんて誰も使わないからな。気付きにくいな。三人を攫った奴らしか使わんだろう。見えるぞ。ここから・・こっちだ・・・そんでここで魔法を切っている」
露店通りの路地裏にて魔力が途切れた。
だから、ここで足跡追跡に切り替えると、大人二人の足跡を発見した。
「見つけた! これだ! いきますよ。みなさん!!!」
俺が先頭で皆を先導する。
露店通りの北を通り抜けると住宅街。
俺たちは立ち止まって、目の前にある状況に驚いた。
こんな普通の住宅の近くに犯罪組織が存在するのかと。
住宅エリアと露店通りの間の小さな家で足跡は止まったのだ。
「ここだ。ここが、敵のアジトだ。ふ、普通の家だ」
俺が驚いていると、リョージさんが俺の肩に手を置いた。
「よし。司令、俺の出番すね。ルル、俺がやるよ。待っててくれ」
「お願いします」
リョージさんが前に出て、スキルを展開し始めた。
「探知領域展開 クロスオープン」
目を瞑って集中しているリュージさんは、人を探す領域と、建物内部の構造を把握する領域を、同時に展開した。
探知領域は四角で隅々まで把握する。
「ぬ!? この外観に対して・・・ここは地下二階まである・・・しかも大きめの内部構造だ。一階よりも二階が広いな・・・敵の数は二十三・・・こどもは・・・・いた・・・三人・・・この下だ!」
「リョージさん。この中は広いんですか?」
「ああ。ルル、話すよりも俺の肩に手を触れてくれ。中はだいぶ調べたからイメージを送る」
「はい。お願いします」
俺はリョージさんの肩に手を置く。
すると、リョージさんが見ている景色が俺の頭に浮かんできた。
これは通信士の独特の能力。
『情報共有』だ。
調べたものや思ったことを、言葉を介さずに、相手に伝えることが出来る。
「なるほど・・・構造はこれなんですね。リョージさん、このまま俺に情報を送り続けてください」
「…おう・・・まかせろ・・・」
リョージさんは辛そうにしたけど、仕事をこなしてくれた。
情報共有は探知領域展開よりもスキルの難度が高く、脳内にある大量の情報を常に送り続ける苦労があるので、スキルを展開し続けると体と脳の負担が重くなるらしい。
その厳しさは、俺の追跡のスキルに近いのかもしれない。
膨大な情報が、とてつもない疲労感を呼ぶのだ。
ここで、俺はスキルを発動。
『筆記』
これは書き物の速度を上げる司書のスキル。
ただし、速度で言うと速記よりも劣るが、俺の職人気質がそのスキル並みに能力を向上させている。
「地図完成・・・師匠、建物の地図です」
隣の師匠に建物の地図を渡した。
「おお。よくやった。出入口は目の前のここだけか。リョージ、他に秘密の出口はないだろうな」
「ないっすね」
少し疲れた顔のリョージさんは、自信満々に即答した。
「よし、俺はここから行きます。ホッさん!」
俺は自分の下の地面を指差しながら、ホッさんに指示を出す。
「なんだ?」
「ホッさんは、あの家の入口から大暴れしてほしい。俺の突入の声に合わせてください!」
「わかった」
「いいですか。これで敵を二分しますよ。今、あの子たちの周りには敵が二人なんですけど。その付近には敵がいなくて、地下一階、それと地下一階に通じる階段付近の地下二階の大部屋にかなりの人数がいます。そうとなれば、ホッさんが建物の入り口から暴れてくれれば、奴らは地下一階に集まり、俺の救出作戦の方が楽になりますからね」
「わかった。敵の引きつけは俺がやろう。だが、お前の突入とはどうやってやるのだ・・・」
ホッさんは俺の心配をしてくれた。
入り口から入らずに地面を指さす俺に疑問を持つのも当然である。
「大丈夫。地下一階は二階よりも範囲が狭いみたいで。ここの真下は三人がいる地下二階の部屋に直接繋がってます。彼らの位置じゃない場所は・・・・ここだな。俺がスキルでここを破壊します。いきますよ。ホッさん準備!」
指示と同時に俺はスキル『明鏡止水』を発動した。
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