第22話 モンスターウエーブ リベンジ

 モンスターウエーブ。

 それは、ジャコウ大陸に住まう人々であれば、必ず恐怖する災害の事。

 モンスターが波と共に出現することからモンスターウエーブと呼ばれている。

 出現場所は、ジャコウ大陸の東半分のどこかの海岸。

 毎度場所が違うために曖昧になっている。

 

 モンスターウエーブは最初薄い赤の波から始まる。

 それが段々と色が濃くなっていき、真っ赤な波に変化すると、モンスターが出現してくるようになる。

 大きな波が一つこちらに向かってくると、大量のモンスターが海岸に上陸して襲ってくるのだ。

 だから、この時の為にジャコウ大陸に軍があるといっても過言ではない。

 グンナーさんたちは、都市の治安維持のためだけにいるのではなく、そのウエーブからこの大陸の人々を守るために、毎日必死に訓練を重ねているのだ。



 俺は、三年前。

 このモンスターウエーブに参加した。 

 その時、俺は仲間の死を経験した。

 それはいつも俺に優しく接してくれたマルコさんという獣戦士の人だった。

 

 彼は、俺よりも12も年上であったけど、会えばいつも笑顔で気さくに会話してくれて、その度に俺のスキルの良し悪しを教えてくれるような面倒見のいい人だった。

 その人が、三年前の悪夢のようなモンスターウエーブで死んだ。

 第三波の波の際。

 大量に現れたモンスターたちに囲まれた俺たちE班は、死と隣り合わせの戦場の中にいた。

 その中では、どうあがいても死を待つだけだった。

 だから、隊長のマルコさんは、俺だけをグンナーさんがいる後方まで放り投げて助けてくれたんだ。

 その時のE班の仲間たちは笑って送り出してくれて、そして、彼はいつものように優しく微笑んでいた。


 「ルル。お前は俺たちよりもまだ若い。だから生きろ。ただそれだけを考えろ。いつか、お前は証明することが出来るはずだ。無職には無限の可能性があるとな。俺は思う。お前はきっと英雄を支えるのではなく、並ぶわけでもない。お前は、英雄すらも超える男だと、俺はそう確信している。だから今は生きろ! 俺の思いも預けるぜ。英雄になれよ。無職のヒーロー」


 そう言って、彼は俺を助けてくれたんだ。

 だから俺は今日まで彼の思いと共に生きてきた。

 誰に何を言われても頑張ってこられたのは、絶対にマルコさんのおかげなんだ。

 

 俺はジャスティンが死んだ時に笑いあえたのも、あいつがマルコさんと似たような最期を迎えからだ。

 人を守るために戦った人には、最後笑って送り出した方がいいんだ。

 だって、その人は俺たちの笑顔の為に命を懸けてくれたんだから。

 泣いたら絶対に悲しむ。

 俺はマルコさんの時には出来なかったから、ジャスティンの時には絶対にそうしようと思ったんだ。 


 「俺は。今の俺は、絶対に誰も死なせない。あの時とはもう違うんだ」



 ◇


 急いでマルサンガリに着いた俺は、早速港に行き、波を確認。

 すでに真っ赤な波が来ていた。

 何度目の波かは分からないが、おそらくグンナーさんが指揮を取っているはずである。

 俺は、グンナーさんを真っ先に探す。


 「師匠! 何度目の敵ですか!」


 海岸に近い位置にグンナーさんがいた。

 グンナーさんの戦列の位置が後方ではなく。

 前の位置で戦っている辺りに軍が完全にモンスターに押されていることが分かる。

 

 「誰だ? 民間人は引っ込んでろ! ん。師匠???」

 「俺です。ルルロアです。師匠!」

 「なに!? お前、ルルか!」

 「懐かしむのは後で、俺も参加します! 指示を! 師匠の指揮をください!」

 「・・・しょうがない。分かった。お前はそのまま、前進でいい。周りをフォローに回す! 暴れてよしだ!」

 「分かりました」


 グンナーさんの指揮を得て、俺の動きは良くなる。


 「うおおおおおおおおおおおおお―――桜花流『乱れ桜』」

 

 俺は、武闘家のスキル『肉体加速』を使用。

 肉体の速度ではなく、加速能力をあげるスキル。

 一つ一つの初速が異様に速くなるスキルを上手く使い、ルナさんの剣技『桜花おうか流』を使用した。

 大体にして、俺はスキルを同時に扱えないので、ルナさんのオリジナル技が重要であった。

 ルナさんは侍の技スキルを使わない特殊な侍である。

 だから、師匠は、俺との修行をするのに最も適している人物をルナさんに決めたんだと思う。


 脇差を持つ手を加速させる。

 それにて、剣が花を咲かせる。

 乱れ咲く花びらは、相手を斬り刻む。

 この連撃によりモンスターを一度に三体撃破した。


 「雑魚の数がやばい。相変わらず、赤い波は凄まじい。ん! パルコスさん!」

 「い。お。だ、誰だ?」

 「俺です。ルルです!」

 「なぬ。お前、デカくなって・・・ってそんな暇ないわ」


 口周りの髭がトレードマークのパルコスさんは、モンスターの攻撃を剣で受け止めた。

 

 戦場にいる雑魚モンスターは『ローブバックス』と呼ばれているモンスター。

 人間並みの大きさのザリガニで、両手の左右で二本ずつの手が、ハサミになっているので、人をチョキチョキ切り刻もうとする迷惑極まりないモンスターだ。

 ついでに口もなんかヒョロヒョロ紐みたいなものが出てて、気持ち悪い。 

 出来たら見たくない顔立ちである。

 大体、こいつは二級冒険者で倒せるレベルであるが、それが無数に出てくるので、軍の兵士たちでも耐えるのに精いっぱいである。

 

 「パルコスさん、今は何ウエーブ目ですか」

 「こいつは四だ。あと少しだと思うがな。ほれ、あそこにボスが出てきた。波を起こした張本人だ」


 パルコスさんが海を指さす。


 モンスターウエーブは、波を引き起こすボスが存在する。

 一度、二度と波をドンドン引き起こして、ボスモンスターは前進してくる。

 

 モンスターウエーブのボスは、波を数度起こしつつ、海岸の様子を窺う。

 これは、ボスモンスターの気持ち次第であるが、この海岸の奥を攻め込めないと感じると波を起こさずに海の方に引いてくれるという性質がある。

 だからこちらとしては籠城して戦うようなものになるのだ。

 でも数が多いから、こちらの被害は甚大。

 何度も来る波が、モンスターの数を徐々に増やしていくからだ。

 それに波は最低5回は来るので、こちらとしては終わりの見えない戦いを強いられる。

 

 だが、ここで俺は、そこに終止符を打とうと思う。


 「あれは・・オクトパスミラー。よし」


 超巨大な青いタコの見た目をしているのがオクトパスミラー。

 頑強なガラスのような外面をしていて、防御力がある。

 キラキラと輝いて見えるのはその反射光である。

 モンスターランクはA。

 ただし、こちらが陸。あちらが海。

 討伐難易度はおそらくSランクとなるだろう。

 つまりは特級クラスの冒険者が必要だ。


 

 ◇


 俺は一度グンナーさんの所まで引いた。


 「グンナーさん。一気に片をつけます。あそこらへんで俺のことを守ってもらってもいいですか」


 俺は砂浜の中央を指さした。


 「何!?」

 「あの、オクトパスミラーを俺が絶対に倒します。それでこのウェーブを終わりにして見せます」

 「え?」

 「いいですか。時間がありません。指示をお願いします!」


 俺が絶対に倒して見せるからと頭を下げると。

 師匠は。


 「わかった。信じるぞ。このままじゃ、戦列維持も辛いしな。よし、お前を守る方向でいく。A、B班、ルルを守れ。CはA。BはDの持ち場を一旦守ってくれ。戦列を維持だ」


 俺を信じてくれた。


 「「「「 はい! 」」」」


 各班の隊長はグンナーさんの指示に返事をした。


 A班とB班が沿岸にて、俺を守る。

 盾を持った兵がしっかり俺の前の敵を封鎖すると、俺はあるスキルを呼び起こす。


 「来いや。魔法の最高到達点 大賢者スキル『魔法の心髄』」


 今まで俺は魔法を使ってこなかったが、実は俺は魔法を扱えるのである。

 そしてその中でとっておきのスキル。

 魔法の最高到達点の大賢者のスキルも扱えるのだ。

 こいつは、ミヒャルの初期スキル。

 魔法攻撃力がありえないくらいに強くなるスキル『魔法の心髄』だ。


 普通の無職で、普通の探究者ならば、覚えることは不可能だろう。

 でも俺は普通じゃない。

 だいぶ自覚してきたんだ。


 俺は、友のスキルを扱えることで、英雄と似たような力を扱えるんだ。

 だから俺は、友達が好きなんだって分かる。

 心からさ。

 あいつらが大好きみたいなんだ。

 こんな無茶苦茶なスキルを覚えることが出来るくらいさ

 ・・・・大好きなんだぜ。お前らがさ。

 無職は自慢にならないけど、これだけは俺の自慢だ。


 「いくぜ」


 俺は右手を掲げ、魔力を最大限まで高める。

 バチバチっと、稲妻のような轟音が俺の手から鳴る。


 「こ・・・これを、集約して・・・」


 初期魔法サンダー。

 力が外に霧散しやすい魔法を、俺はこの手に集約し圧縮する。

 通常サンダーの色は黄色であるが、俺のサンダーは集約すると紫。


 周囲に轟いていた音が無くなると、俺の魔法は完成だ。

 紫の色へと完全変化した。


 「これはサンダー。俺だけが使用するただの初級魔法だ。くらえ! この野郎! 俺たちの大陸から跡形も無く消えちまいな! 無音無職の稲妻リラサンダー


 俺はやり投げのようなスタイルから、一気に振りかぶった。

 目標は海岸よりも遥か沖にいる敵。

 届くはずのない距離にいる敵は油断をしている真っ最中だった。


 「余裕ぶっこいてんじゃねえ。何度も波を起こしやがって。大人しく死にな。この腐れタコが!!!!」

 

 紫の稲妻は音を立てない。

 無音で光ってオクトパスミラーの頭を貫いた。

 オクトパスミラーのガタイからみても、とても小さな穴が眉間に出来上がる。


 貫通した穴からの痛みを感じていないオクトパスミラーは、これは大した傷ではないと、余裕の笑みを見せた瞬間。

 頭から紫の炎が沸き上がった。

 赤い海の上で、紫に燃え盛る頭。

 奴は、海に潜って火消ししようとするも、その火は絶対に消えない。

 なぜなら紫の雷は体の表面を焼いているのではなく、体の芯を焼いているからだ。


 赤い波が段々と薄くなってきた。

 どうやら敵は海の中で燃え尽きたらしい。

 これにて討伐完了である。

 

 「こ。これは。やったな。ルル! お前。魔法を使えたんだな。って。おい! ルル! グンナー司令官! ルルが」

 

 パルコスさんの声が遠のいていく。

 俺の意識は消え始めていた。


 「パルコス、どうした! な!? ルル、大丈夫か。ルル! こいつは・・・」


 師匠の慌てた声も遠のいていった。


 魔法は扱えても、やはり大賢者スキルは厳しい。

 あの勇者スキルを使った時よりも消耗度は激しいのだ。

 俺の肉体は、限界を迎えて眠り始めた。

 

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