ルルロアの再出発 大王の先生
第16話 一人になって初めてのクエスト
英雄たちとの別れを済ませた俺は、大事なことに気付いた。
「金がねぇわ! いや、最低限はあるんだけど。旅をするにゃ金がないぞ!」
とまあ、盛大な独り言をファルテの南にある町のファールスの町中で言った。
人通りがなくて助かる。
俺の話を誰も聞いていなかった。
「ここってギルド……あったっけ」
ここに来てすぐの話だが、俺はとりあえず冒険者ギルドに向かうことにした。
◇
『カランカラン』
ドアを開けると喫茶店のような音がした。
人が来ると鐘が鳴る仕組みがあるのならば。
俺は小さな町の小さなギルドの受付を見た。
「え、誰もいない。マジで。ギルドに誰もいないって、ありえんの?」
冒険者ギルドの受付に誰もいないのは、初めての経験だった。
人の出入りがほぼないからこそ、ここは鐘が鳴る仕組みがあるのだろう。
「・・・あ。誰か来たわ。少々お待ちを・・・火を消してと」
奥からエプロン姿の女性が出てきた。
さっきまで料理をしていたらしく、エプロンで両手の水気を拭きとっていた。
ここは普通の家の様なギルドだった。
おさげの女性が笑顔で受付に立つ。
「あ、冒険者様ですね。クエスト受注ですか。それともクエストの完了報告?」
「受注の方すね。掲示板どこですか?」
「あちらです。やりたいものがあればこちらに持って来て頂いて」
「わかりました。ありがとうございます」
俺は女性が手で示した場所に向かう。
掲示板は、ボロボロであった。
端の部分が千切れている。
おい。ここはよほど貧乏なのか。やばいギルドだぞ。
と思う俺は、依頼書を眺めていく。
そう言えば、俺って一人でクエストを受けるのが初めてだ。
冒険者になった時も、ファミリーになった時も、いつもあいつらがそばに居たから。
俺が一人で、ここでこうやってクエストを探すのも、初めてでなんか新鮮である。
隣に仲間がいないのは、とても寂しいが意外と俺はワクワクしてるかもしれない。
新しい環境。
新たな自分の旅路にさ。
ここにある依頼はモンスターの討伐から、薬草や鉱物の依頼だ。
貧乏ギルドにしては、しっかり依頼を並べている。
他のギルドが受けた依頼も貼っているようで、ここのギルドはきちんと仕事をしていた。
たくさんあるクエストの中で一つ。
字がとても汚く、文章が拙いものがあった。
俺が感じるに子供が書いた依頼書にみえる。
『しきゅう、はながほしい・・おねがい・・・たのもう・・・あちし、こまってる』
最初、これは怪文書か?と思った。
依頼書の達成金額だって、たったの100G。
これじゃあ、村の宿の二回分くらいの依頼内容だ。
都市の宿じゃ一泊も出来ない。
海を渡って久しぶりにジャコウに行こうとしている俺にとっては、少なすぎる報酬である。
引き受けるメリットがない。
・・・・でもやたら気になる。
これを無視しようと、他を探したけど、俺はマジで子供が書いたんじゃないかと思い、何回もこの依頼書に視線が戻ってしまっていた。
書いてある中身としては、ここよりも西にあるエジュという村からの依頼だった。
でも安いんだ。安すぎて、金欠の俺には無理過ぎる依頼だ。
だけど、俺はまたこの依頼書に視線が戻ってしまう。
ああ、やっぱりこの字から来る切実な思いが気になって仕方ないのだ。
「はぁ・・・俺ってやっぱ世話焼きなんかな・・・それともただの馬鹿かな」
俺は深いため息をついて、この依頼書を取った。
ついでにこの村の近くの依頼を一つ受けた。
『ジュークウルフ』の討伐だ。
モンスターランクとしてはCランク。
俺一人でも余裕で倒せるから、受付の女性の元に二つ出した。
「え? こちらを一人で・・・それにこちらはお安いですよ。よいのですか」
おさげの受付の女性は、ジュークウルフの依頼書を見てから、紙をテーブルに置いて驚き、その後に見た謎の怪文書のような依頼内容には、紙を破きそうになって驚いた。
受付としてどうなのかと思う。
民間人からの依頼だよ。
クエストは平等に扱ってあげてよ。
「ええ。両方いいです。大丈夫。お気になさらずに」
「ですがこれはCランク。死んじゃったら嫌ですからね・・・あなた様のランクは?」
「俺すか。俺は準特級ですよ。だから、C如きは余裕です。気にしないで」
「じゅじゅじゅ・・・準特級!?!?!?!」
お姉さんは固まった。
俺が彼女の前で手を振っても、何も反応がない。
「すみません。俺の受付……よろしいでしょうかね。これ、カードにクエストを記載してくださいよぉ」
俺は自分の冒険者カードを女性に差し出した。
依頼を受けるには、カードの裏面に依頼内容を記してもらわなくてはならない。
この行為が完了すると、冒険者はこのクエストを引き受けたとなる。
ファミリーの場合は、依頼引き受け書を別に発行してもらうのが常である。
冒険者は、冒険者専用のカードを持っている。
証明書の様なものだ。
それは、ランクに応じてカードの色が違う。
俺の準特級は銀色。
特級が金。一級と準一級が赤。二級が青。三級が黄色。四級が白といった具合だ。
受付の女性は俺の銀色のカードを見て、俺が準特級であると分かると顎が外れた。
もう少しで彼女が話せそうだったのに、彼女はまた話せなくなってしまった。
どうしよう。
二人きりなのが気まずいです。
「・・だ・・ば・・え・・あ・・・はい。準特級様・・・・・無職!? え」
「はい」
「え。無職!?」
「はい」
「でも・・銀!」
「はい」
「だって無職!」
「そうです」
「でも・・・銀!!!!」
女性は、無職と銀だけを繰り返す人になってしまった。
「いやあ、俺って無職なんですよ。でも安心してください。準特級の実力は絶対にあるんで。マジで。信じてほしい!!! 出来れば今すぐにでも!!!」
「・・あ・・・はい」
カードには職業が書いてある欄がある。
これにより、俺がいつも苦労する部分である。
まず無職が準特級になると思う者が少ない。
つうか当然だ。
たぶん普通の無職だったら、三級にもなれないと思う。
彼女が当たり前の反応を示したことに俺は腹を立てていない。
というか受注早くして!
このクエスト。
至急って言ってるから早く行ってあげたいんだけど。
「お・・終わりました。これでクエスト完了したら、どこかのギルドに報告を」
「わかりました。ありがとうございますね」
俺はエジュの村へと向かった。
◇
ジーバード大陸の中央。
大都市ファルテの南にあったファールス。
そこから西に歩いていくと、エジュの村がある。
エジュの村は、エジュの森の手前にある中々に発展した村だった。
俺の育った村のような田舎の様子はなく、町のような規模感で、村人さんたちも元気一杯、やる気一杯、活気がある。
なのに依頼料100Gってどういうことだ。
安すぎませんかね。
この村の経済に比べてですけど。
俺はそう思いながら、依頼書に書いてあるシエナという人を探してる。
「シエナ・・・シエナさん? まあ、誰かに聞いた方がいいかな。つうか、なんで落ち合う場所の目印とか、自分の容姿とかの、詳しい情報が書いてないんだよ。この依頼書。いたずらか?」
俺は町の真ん中で眠そうになっている婆さんに話を聞いた。
「婆さん! シエナって人。知ってるかい?」
「・・・え?・・・しょっぺえな?・・・そうだね。今朝の味噌汁は少しだけしょっぱかったなぁ」
「おい婆さん。シ・エ・ナ。シエナだよ! なんでしょっぺえになんだよ。つうか話がなんで味噌汁になんだよ」
「・・・しょっぺえ・・・しょっぺえ・・・そういえば、昨日のお肉も胡椒が効いてなくて・・塩が強くてね・・・・あまり食べられなかったな・・惜しい事をしたの・・・」
婆さんは耳が遠かった。
延々と塩の話を続けている。
「お~い。そこの人! マフィン婆さんは耳が遠いから話しかけても駄目だよ」
「え。やっぱり」
後ろから元気のよい中年男性が、荷物を運びながら教えてくれた。
何かの仕事の途中なのに、わざわざ忠告してくれるなんていい人だ。
「それじゃあ、すんません。そこの旦那。シエナって人。知ってますか?」
「ん? シエナ・・・ああ、ああ。シエナちゃんだね。それなら村の北にある。オレンジのレンガの家の子だよ」
「ありがとうございます。助かります」
男性は教えてくれた上に会釈までくれた。
「んじゃ。婆さん。しょっぱい話、聞いちゃって悪かったね。それじゃあね」
「・・・来ちゃって悪かった? いやいや。どうぞどうぞ。この村・・・いいとこだよ」
「ああ。そうかい。婆さんも元気に過ごしなよ」
「ほうほう・・・そうかそうか」
話が通じてないと思うけど、婆さんが納得してくれているので良しとしよう。
◇
村の北。
オレンジのレンガの家はやけに目立っていた。
なぜなら、他の家は木の家なのに、ここだけレンガの家だからだ。
「すんません。シエナって人いますか」
ノックをしながら聞いてみた。
返事がない・・・。
別な家か…。
んなわけない。
オレンジのレンガの家なんて目立ってしょうがないし、間違いようがない。
「すみません。冒険者です! ルルロアって言います。依頼書を見て来ましたよ。シエナさんはいますか!」
「・・・・ぼうけんしゃ!?」
家から幼子の声が聞こえた。
トタトタと軽い足音がなり、玄関の扉のドアノブが回った。
扉が開くとオレンジの髪の可愛らしい女の子だった。
「君が……もしかしてシエナ?」
俺が指を指すと、シエナは笑った。
「・・・うん・・・あちし・・・シエナ」
俺の予想は当たっていた。
依頼者は子供であったのだ。
可愛らしい女の子は満面の笑みで俺を迎えてくれた。
報酬は安いけど、俺は子供の願いだけは絶対に叶えてあげたい。
俺はそう思って、彼女に目線を合わせてしゃがんだのだった。
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