第15話 別れと手紙

 体の傷が癒えた俺が、ファミリーのホームで普通に過ごしていると、皆からの視線がもの凄い冷たい。

 俺を完全にモンスターか何かと同じように敵視している。

 やはり、ジャスティンを死なせてしまったことが、皆の心のわだかまりとなっている。

 言い表せない悲しみと怒りがあるようだった。

 でも仲間の死を乗り越えてこその冒険者だろう。

 仲間の死を一度も経験したことのない皆にはなかなか分からない事だったと思う。

 俺は一度経験しているからこそ分かっているがね。

 


 「ふぅ~。そうか。俺が原因となっているな。しょうがないなこれは」


 この不満の矛先は、次第に俺をかばう仲間たちにも向かい始めていた。

 マールダや、フィン、スカナたちにもだ。

 俺が復帰してからは、プライドの高いキザールとハイスマンは、直接は俺のことをかばっていない。

 それでも、その二人にも冷ややかな態度は続いていた。

 ファミリーの雰囲気は、結成から初めての険悪な雰囲気となる。

 なにせ、英雄であるレオンたちにも、仲間はぎくしゃくし始めたんだ。

 無視まではいかずとも、会話は少なくなっていた。


 「そうだな……」


 だから俺は決めた。



 ◇


 俺の部屋にレオンを呼んだ。


 「レオ!」

 「ん? ルル、どうした」

 「お前が団長なんだ。だから団長として聞いてほしい」

 「あ? 何だよ。あらたまって」

 「俺をファミリーから追放してくれ」

 「は!?」


 レオンは、滅多に見せない驚いた顔をして俺を睨んだ。


 「頼む! このままでは、ジェンテミュールは崩壊する。冒険者ファミリーの最強格を失うのはギルドとしても大損失だ。それにお前らが、俺のせいで三大クエストに挑戦できないのも嫌だ。だから、俺を追放してくれれば体面が整う。ジャスティンのことは全部。俺の責任にしてくれ。実際、俺が強ければ救えたしよ」

 「嫌だ! 俺がお前を追放!? ありえん」

 「駄目だ。頼むよ。お前は団長だろ。この大所帯を仕切る団長なんだ。ときには冷酷にいこう。それに俺はお前の家族だ。お前と一緒の冒険者ファミリーじゃなくても、お前たちのファミリーだろ。なら俺はそれで十分だ」

 「・・・嫌だ。俺のそばにお前がいないのは、無理だ・・・俺たちのそばにお前がいないのは・・・無理なんだ」

 

 いつも大人なレオンが、子供のような面を見せた。

 駄々をこねるように何度も嫌だと言う。


 「レオ! ここは、俺にとっても最高の場所だ」

 「そうだろ。だから一緒に」

 「でも、ここで育った仲間たちも最高の仲間たちだ。あいつらもいずれ、特級まで来るかもしれん。そうなったらこのファミリーは盤石のファミリーになるんだよ。俺では特級にはなれないし、それに、俺一人の力を頼りに、その他大勢を失うのは痛い。あれだけの一級、準一級を揃えるのは難しい。彼らの中にいる特殊な職種の仲間は、中々いないからさ」

 「・・・そうだが・・・でも・・・」

 「レオン。ここは非情でいこう。お前が俺に追放を宣言すれば、仲間たちの不満が散りやすくなり、俺が勝手に出て行くよりも効果が高い。それでお前は、仲間たちを結束させて、このファミリーをより大きくしていって欲しいんだ。それが俺にとっても嬉しいぜ」

 「・・んじゃ。お前はどうするんだよ」

 「ああ、俺はさ。一人でプラプラ旅に出るよ。勝手に気ままにさ。冒険者らしくよ」

 「じゃあ、これで最後にはならんだろうな。絶対に俺たちと会ってくれるだろうな」


 レオンは目を閉じて考えた。


 「ああ。もちろんだ。いつか会おう。でも、今は駄目だぞ。団長として、英雄として、すぐに俺に会っちゃあ示しがつかんもん。でも会おうぜ。いいな」


 悩み苦しみだした俺の答えに、レオンも悩み苦しんだ。

 でもレオンは俺の意思を。俺の意図を。

 必ず最後は汲んでくれる男気がある漢なんだ。

 女たらしなのが残念だけど!


 「…わかった。それがお前の望みなら、俺は叶えてやりたい。それにお前はいつだって俺たちの為。お前には苦労させてばかりでスマン。俺たちももっと上手く仲間と接しられていたらな。こんなことには・・・」


 レオンは下を向いて話していた。


 「レオ! 気にすんな。俺は十分。お前たちに幸せを貰ったよ。今度はマジで、影ながらの応援になるけど、俺はいつまでも応援してるからさ。頑張れよっと!」


 俺は、レオンの胸に拳を入れた。

 すると、レオンは少しだけ笑って俺の拳を握った。


 「・・・クソ・・・最後までいい奴すぎて・・・・わかった。任せろ。お前に恥じないファミリーにする。それだけは絶対に約束するぜ」

 「ああ。約束だ。勇者レオン」


 俺とレオンはこのような取り決めを裏で決めた。


 そして。



 ◇


 ジェンテミュールのホームで皆が広場に集まり、会議を開いた。

 俺は、それを部屋の中で壁に寄りかかりながら、声を聞いていた。


 「本日。ジャスティンを死なせてしまった。ルルロアを追放することとした。今日からルルロアは、ファミリーじゃない」


 ざわつく広場。

 急な出来事に、一級以下の仲間たちが望んでいたとはいえ、ショックが大きい。 

 お前たちだって散々俺のことを言って来たのに、勝手であるなと俺は思うが、でもこれで話が丸く収まるならいいだろうとも思った。


 「ど、どういうこった。レオ! ふざけんな」

 「ミヒャル。我慢しろ! 黙っててくれ・・・頼む」


 レオンの声に少し違いがある。

 家族であるから気付く。

 悔しさや悲しみが混じったような震える声だった。


 「・・・レオ・・・」

 

 だから、ミヒャル以外のイージスとエルミナは、声を出さなかった。

 二人もレオンの苦しさに気付いていたんだ。


 「どうだ。皆はこれで満足だろ。ジャスティンは死んだ・・・そして、その事でルルロアが責任を取りいなくなる。それで俺たちは先に進む。いいな。いつまでも過去を振り返り、誰かを咎めるのはやめろ。俺たちはもう二度と誰も死なせないし、追放もしない。いいか。この決定に、誰も文句を言うな。もし、これを蒸し返したら、俺はお前らを本気でぶっ飛ばすかもしれん。こ・・・こんなこと・・誰が・・・好き好んで・・・・」


 言葉が詰まりそうになるレオンは、最後に何とか言い切ろうとしていた。


 「すまん。ぶっ飛ばすは言い過ぎた…でもそれくらいの覚悟で、俺は大切なルルロアを追放する。いいか。俺たちは前に進むんだ。後ろを振り返るなよ。いいな」

 「「はい!」」

 「以上で解散だ。部屋に戻れ」


 仲間たちが、ぞろぞろと部屋に戻っていく。

 皆が集まる場所に静けさが生まれ、誰もいなくなったホームの玄関から去った。


 ◇


 ホームから少し歩いた場所で、後ろから声をかけられた。


 「ルル!」

 「ん! エルか。俺に話しかけちゃ駄目だぞ。俺は追放者だ。ファミリーの罪人として出るんだ。そんじゃ!」

 「い、嫌です! 私は・・ルルが・・・私は・・・・」


 エルミナが話し終える前に二人もホームから飛び出してきていた。


 「そうだ・・・おらも・・・いやだ・・・ルル、行くな!」

 「ふざけんなよ。ルル! うちらになんも言わんで、勝手に・・・ふざけんなあああ」

  

 俺は振り向いて答える。

 泣き顔の三人の顔は見られなかった。

 三人の頭の上の晴れた空を見た。


 「俺はいつまでもお前たちを応援してる。それにこれが今生の別れじゃないんだ。生きていれば、いつかは会える。だから今はこの別れを悲しむな。また会えっからな・・・だから悲しくない。また会おう! じゃな!」

 

 俺は明るく言ってから振り返り、歩き出した。

 正直、後ろが名残惜しい。

 でも俺は先へと進む。

 

 雲一つない青天の空の中。

 新たな道を進むのに、俺の顔は雨模様であった。

 ただ、後ろで響く声が俺の心に冷たい雨として突き刺さっていた。


 「ルル!・・・・・ルル!・・・・・ルル!」


 何度も俺を呼ぶ声に振り返りもせずに、俺はひたすら前へと進んでいった。

 

 

 ▢



 意気消沈のフィンは、自分の師だと思っていたルルロアが去ったことにショックを受けていた。

 自分の部屋にある机の前で、呆然としていると、机の上に手紙が置いてあったことに気づく。

 先程の会議前にはなかったのにと、手紙を取った。


 「なんだこれ? ん!? 隊長!?」


 ルルロアはフィンに置手紙を書いていた。


 「こ、これは・・・」


 フィンは、手紙の内容に驚くと、すぐに行動を起こした。


 

 フィンの部屋にぞろぞろと人が集まる。

 彼が自分の部屋に呼んだのはあの時のパーティーメンバーである。

 集まった彼らにフィンは、書き残された手紙を渡す。

 一人一人がそれを読んでいくと、一人一人が違う態度を示した。


 「これは・・・私たちへの・・・隊長」

 

 自分を思ってくれていた隊長の思いに、マールダは悲しみで涙が止まらなかった。


 「そうですね。私も。彼にもっと冒険の仕方を教えてもらえていたら。ジャスティンを」

 

 手紙を見たスカナは歯を食いしばり、悔しさを噛みしめた。

 

 「・・・雑魚が。カッコつけやがって」

 「そうだ。これじゃあ、私らがカッコ悪い・・・」


 あれだけルルロアを嫌っていたハイスマンとキザールでも、後悔の渦の中に入った。

 前も後ろも囲まれて、二人はどうしようもない中にいるんだと、自分自身に腹が立っていた。


 「俺たちは、この意思を継ごう。俺たちで英雄様を支えるんだ。必ず俺たちの誰かが、先に準特級か、特級になる。フールナたちよりも早くなるんだ。支えるには奴らよりも早く強くなる必要がある」

 「ええ。そうね。そうしましょう」

 「わかった。俺様もやる。ここに書かれていることを忠実に」

 「私もだ。神官として、異端神官には絶対に負けない」

 「フールナには、私とハイスマンで勝つ。魔法使いと重戦士で、魔法騎士よりも必ず強く・・・」


 皆の決意は固まった。

 ルルロアの手紙は、彼らの心にやる気という炎を咲かせることになり、のちに、ジェンテミュールを大きく成長させることになる。


 「俺たちは、絶対! 強くなろう!」

 「「「「 おおおおおおお 」」」」


 フィンの強い意志に他の仲間も続いた。

 彼らの運命はここで変わったのだ。

 


 ◇


 ルルロアの手紙。


 フィン。

 これをお前が読んでいる頃にゃ、俺はすでにホームにいない。

 団長から追放処分を受けているだろうからな。

 でも安心しろよ。

 あの事件の責任の全てを、俺が取るからさ。

 だから、皆には責任がない事を理解してくれよ。

 あの時の長は俺だからな。はははは


 とまあ、ここら辺はあまり重要じゃないんで、割愛してと。


 

 ここから重要なことを言う。

 まず、あの時のメンバーに、俺は全てを託したいと思う。

 レオたちを守ってくれ。

 あいつら、結構いい加減な所があるからさ。

 特に全体指揮は取れないと思うんだ。

 だから、フィン。

 お前が一級以下の指揮を取って欲しいんだ。

 たぶん、フールナが全体指揮官になろうとするが、あいつの性格では全く向いていない。

 それにあいつは遠近の攻撃の要となる男だ。

 そもそも、全体指揮なんてさせるのがもったいないんだ。

 あと、アルトも駄目だ。近接の要だし。

 シャインも駄目だ。視野が狭い。

 ナスルーラもいかん。踊っている最中、他が見えていないからな。

 で、本当は俺たちのファミリーの中に軍師系のスキル持ちがいればよかったんだけど、それがいないから、その次に素質があるフィンが成長して指揮を取って欲しいんだ。

 お前の広範囲の視野、援護能力は指揮を取るのに有能だ。

 絶対に皆の力になる。

 勉強しておいてくれ。

 お前の机の引き出しに、一応教科書みたいなものを入れておいた。

 俺が経験した指揮の例が書いてある。

 まあ、参考にして欲しいけど、実践しないと成長しないから、そこらへんは頑張ってくれ。


 そんで、このあとの文章は、あいつらに贈る。

 後で読んでもらえ。


 

 マールダ。

 お前に指導することはあまり多くないから、本題の前に頼みたいことがある。

 ミーとエル・・・それにイーの世話を頼むわ。

 たぶん、しばらく塞ぎ込むと思うからさ。 

 お前の優しさで、そばにいてやってくれ。

 それで、あいつらに文句言われたら、俺の指示を受けたからです!

 って俺のせいにしていいからさ。

 そしたらきっとあいつらなら黙ると思うわ。はははは!


 そんで次に、指導としてはだな。

 お前の能力は前衛と後衛の能力じゃない。

 その間の能力なんだ。

 実はフィンと同じ立ち位置で戦うのが一番いいんだぞ。

 ヒットアンドアウェイを繰り返しながら、仲間の傷を確認して戦うんだ。

 前衛と後衛をよく見て、前のめりに戦闘することはしない。

 これを気をつけてくれ。

 いいな! 

 でも、マールダは、ほとんどその動作が出来てるからあまり成長のアドバイスにはならんな。

 


 スカナ。

 お前には魔力訓練を課す。

 何発でも神官術が出来るようになれ。

 後は無駄撃ちも避けろ。

 魔法は使ってもいい時に使い、使っていけない時は我慢しろ。

 大切な時に魔法を使えない神官なんて、ただのアホだからな。

 それと、異端神官のスキルを真似ようとすんな。

 異端は種類が豊富だからな。

 お前はシャインと自分を比べちまって、悩むかもしれん。

 でも、お前は堂々と通常の神官術のみで成長しろ。 

 自分は自分。他人は他人だからな。

 それに極めれば、必ず皆の役に立つ。

 それと、最高の手本がそばにいるんだ。 

 エルミナをよく見ていろ。

 きっと、成長すっからさ。



 キザール。

 お前も一緒だな。

 魔力訓練を徹底して、自分の得意魔法を極めろ。

 無駄に四属魔法を扱うことはない。 

 あれはミヒャルが異常なんだ。

 お前はお前でいい。

 それに今のお前でも、威力は申し分ないんだぞ。

 だから、得意分野の火と風を重点的に鍛えるんだ。

 どちらも通じないモンスターなど早々はいないからさ。

 この二つをマスターできれば戦いは楽になるはずだ。



 ハイスマン。

 お前は短絡的な思考をするな。

 お前の長所を生かせ。

 何でもかんでも攻撃に行くでは、だめだ。

 お前の一撃は重たく、強い破壊力を秘めている。

 たぶん自分の想像以上のな。

 だからこそ、お前は当てるための動作をしないといけないんだ。

 無駄に体力を使うのも駄目。

 重戦士の疲労はすぐに体に来るからな。

 あと、これを忘れんな。

 お前は決して弱くない。

 結構強い男なんだぞ。

 お前がお前自身を上手く扱えていないから、一級どまりなんだと思う。

 正直ポテンシャルだけで言えば、俺が記述したメンバーの中でお前が準特級に近いと思う。

 だから、自信を持てよ。

 あと、雑魚はやめてくれ。

 できたら、別な呼び名で頼むわ。はははは



 これで皆だな。

 最後に念を押すけど、今回の事件は決してお前たちのせいじゃない。

 これは言わない方が、ジャスティンがカッコよくていいんだろうが。

 俺は言う。


 ジャスティンはさ。

 最後に、俺たちに生きろって言ったんだ。

 あいつ、最後の最後まで俺たちを守ろうとしてくれていたんだぞ。

 だから、あいつの意思を継いでほしいんだ。

 俺はそのファミリーでは、あいつの意思を継げないからさ。

 お前たちにその意思を継いでほしいなと思ってるよ。

 頼んだわ。

 んじゃ!


 みんな、楽しく冒険してくれ。

 俺も一人で楽しく冒険するからさ!

 冒険者は冒険してなんぼでしょ!!!

 楽しんでいこうぜ


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