第10話 ルルロアの苦労
俺たちジェンテミュールは、その後。
宴会でドカンと遊んだために金欠となり、バイスピラミッドで金を稼ぐことになった。
というのは冗談である。
俺たちは次の四大ダンジョンの攻略を目指すために金を稼ぐこととなった。
ダンジョン攻略には様々な準備が必要である。
例えば、火や水などのダンジョンであったならば、それに対応した装備が必要だし。
それに、ダンジョンは一回潜ったくらいで、攻略することは不可能なので、何度も潜るための準備をしないといけない。
だから、近場に拠点を置くのだ。
まあ俺たちのような大規模なファミリーであれば、ホームと呼ばれるほどの拠点規模が必須である。
そして、何より大変なのは、食費だ。
馬鹿にならないほどの費用が必要であります。
ああ、大変だ!
だから、俺たちは金を稼ぐ班とダンジョンの下見をする班。
あとは次の拠点に移動をするために、荷物整理をしたりする班に分かれた。
レオンたち勇者一行は、次のダンジョンの下見をすることになり、五大陸のジョルバ大陸に行くことになった。
なので、今いるジーバード大陸で稼ぐのは、俺以下の冒険者たちとなった。
となると俺がリーダーのような立場になるのだが、一級冒険者らは勝手に話し合いを始め、バイスピラミッドとその他で金稼ぎをしようとしたので、俺とレオンがバイスピラミッドだけは一級でいくのは危険であると指示を出したが、それは受けいられず、勝手にいくと聞かないグループを押さえるために、俺がここに配属となって、金稼ぎの班の責任者は俺となった。
癖の強い奴らなので俺は一苦労しそうだ。
ちなみに俺以下の一級でリーダー的存在のフールナが、一級三人と準一級を連れて、別の班となり他のダンジョンで金を稼いでいる。
まあ、フールナ班の方が俺のことを目の敵にしているので、正直こちらの方がまだ楽でもある。
そして、俺の班がギルドで引き受けたクエストはこれら。
バイスピラミッドの『ハイルゾル』というレア鉄鋼を鍛冶師に納付。
モンスター『チルチル』の素材『チルチルの皮』六枚をモルダンのお店に納付である。
どちらも高額な報酬であった。
俺たちは、この二点のクエストをメインにして、ダンジョンに潜り込んだ。
そしてここで、仲間たちには気付いてほしいことがある。
それは、このクエストの中に、採掘のクエストがあるのだ。
なのにこいつらは、俺をパーティーに入れないと考えていた。
それが訳がわからん。
正直、一緒に行く奴らの頭が大丈夫かと不安になる。
採掘のスキルを持ってる奴は、このファミリーで俺しかいねえだろうがよ!!!!
という心の声を我慢した。
◇
このメンバーだと俺が仕切ることになる。
でも、俺だけになると指揮なんて無理である。
だって、一部言う事を聞かねえ奴がいるんだ。
俺たちの並び順はこうだ。
『騎士』ジャスティン 『魔法使い』キザール
『神官』スカナ 『聖闘士』マールダ
『無職』俺
『ロックハンター』フィン
『重戦士』ハイスマン
である。
「キザール。お前は、前に出んな。お前は魔法使いだろうが。大人しく後ろにいろ。ハイスマンの前でフィンの隣にいろって」
「うるさい。貴様こそ、何故真ん中に陣取っている。貴様こそ、前に出てこい。臆病者が」
「俺は臆病とかじゃないんだよ。先頭を歩けんのには理由があんの」
俺とキザールがこんな話で激論を交わすと、後ろにいるハイスマンが話しかけてきた。
「どんな理由だ。雑魚が。結局は臆病者だろう」
「あのなぁ。前にも言ってんだろうが。やっぱ、お前らはあいつらの話しか聞けんのか。はぁ」
こいつらは、俺の話を右から左に聞き流すらしい。
俺の意見も心の一部にでも留めてくれよ。
俺が真ん中にいる理由は指揮もあるけど索敵がメインだからだ。
ダンジョンを歩く際の俺は、高速でスキルを回して、歩いている。
『感知(臭)』『視野(狩人)』『思考加速』
これらをグルグルっと回し続けるからこそ、周りに護衛を置いている事にしているんだ。
スキル展開を早くこなす。
これがなかなかに難しく、俺の体がおろそかになってしまうという点がある。
だから俺は、好きで真ん中にいるわけじゃない。
俺の性格上は一番後ろで退却路を確保する方が性に合ってるのさ。
◇
「隊長…奥!」
しばし迷宮を突き進むと、俺たちが歩いている迷路の奥をフィンが指さした。
「ん! 来たか」
「…はい! 数は10」
フィンは数少ない俺のことを隊長と言って、文句を言わない人物である。
腹の中は分からないけど、少なくとも俺のことを敵視しないだけありがたい存在だ。
ロックハンターの彼は、視野と視力が爆裂にイイ。
遠くにある物が近くに見えるくらいに、瞳に敵が大きく映るらしいのだ。
「敵は、チルチルか?」
「・・・そうです」
「よし。戦うか」
ここはちょうど直線通路だから、背後だけを警戒すればよい。
だから、俺はここでスキルを使って背後を確認。
敵はなしだった。
なので指示はこのようにする。
「ジャスティンとマールダで押すぞ。キザールとフィンが援護。俺とハイスマンが後ろを念のために守る。スカナは待機だ」
がしかし、早速無視される。
俺の仲間はどうなってんだ。
これがオーソドックスな戦法なのによ!
◇
チルチルと戦おうと重戦士ハイスマンが勝手に前に出た。
「おい。ハイスマン。お前は後ろだ」
「雑魚は黙れ。俺様が活躍する。俺様は、少しでも階級を彼らに近づけるのだ」
「意気込むな! 一人で倒せるわけないだろうが。お前なぁ」
俺の指示を無視して、ハイスマンはチルチルに立ち向かった。
チルチル。
名前はめっちゃ可愛いけど、戦いがド汚い兎だ。
集団行動で冒険者を襲うのが基本スタイル。
応用スタイルは、怪我をした振りをして、冒険者を誘いこんだりする知能犯的なモンスター。
スカララビットの亜種で、ラビット系モンスターで一番見た目が兎に近い。
ただし、青と紫が斑に混じっている体で、見た目がやや派手である。
「こいつは足が速えんだから、お前じゃ役に立たん。ハイスマン! 下がれ」
「うるさい雑魚が。俺様がここで戦う」
言う事を聞かないハイスマンの攻撃は、俺の予想通りで、全てが空振りとなる。
鈍重タイプの重戦士が、チルチルの速度に対応するなど、百万年かかっても無理なのだよ。
ここで無口なジャスティンが叫んだ。
「『引き寄せ』」
スキル『引き寄せ』
モンスターを一定時間、自分の周りに引き寄せる技。
騎士ならではの技だ。
ジャスティンは上級騎士でもないのにこれを使いこなせる。
つまり、彼の修練はとんでもないのである。
俺と似たタイプの修練を重ねる男だ。
そして、ここから彼は、続けてスキルを発動。
さすがは専門職を持つジャスティン。
スキルの同時発動はお手の物。
「『釘付け』」
スキル『釘付け』
モンスターの視線を一定時間だけ自分に集中させる技。
これまた騎士系統の技である。
「よくやったジャスティン!」
「・・・・」
俺の言葉に返事はしないが、無骨な男ジャスティンは頷いた。
「これなら、キザール。フィン。頼んだ…‥‥マールダ。敵が残ったら、最後に決めてくれ」
俺の指示が飛ぶと、三人が動き出した。
「指図するな。無職が」
キザールが文句を言いながら、『ファイヤーボール』を連射。
チルチル三体の顔を焼いて、絶命させる。
「……隊長、わかった」
いつもながら口数の少ないフィンが、『ロックオンシュート』を発動。
五連矢を敵に浴びせ、チルチル五体の喉に矢が刺さる。
これで十体出てきた内の八体を撃破。
残った二体は。
「私が出ましょう。『
マールダの拳が光る。
珍しい職業である。
彼女の回復魔法は、効果を反転させることでき、その反転した力を持って敵の身体の内側を破壊する。
それが『聖拳』の基本攻撃だ。
マールダは無数の連打で二体を撃破した。
「よし。よくやったぞ。みんな、さすがだ! ほんじゃ、俺が素材をやるから、ちょっと待ってくれよ」
「なに!? 手柄を独り占めしようとしているんだな。貴様は」
「キザール。頼むからそう突っ掛かるな。俺がやった方がいいの。お前じゃ、この素材。無駄になるのが決まってるわ。おれにやらせとけって」
「邪魔だ。俺がやる」
といったキザールが勝手にモンスターを剥いでいった。
こいつはクソ不器用で、モンスター1体分の素材を・・・・なんてもんじゃない。
チルチルの遺体が何も残らずに、跡形も無くこの世から消えた。
「どうやったらこうなるんだよ。お前は不器用か」
「黙れ! 無職が」
「はぁ。しゃあねぇ。フィン。手伝ってくれ。それならお前も文句ないんだろ。俺が一人でやるから気に食わんのだろ? キザール。それで手を打ってくれ。頼むわ。このままじゃ、せっかくのチルチルが全部なくなる!」
「…ふん」
キザールがあっちを向いた後、俺の背後に立ったフィンが。
「隊長。わかりました」
了承してくれた。
俺がモンスターの素材を剥いでいく。
そしてそれを見ているフィンが真似してくれて、次々と剥いでいく。
「おお。フィン! お前、こいつを剥ぐのは初めてか?」
「そうです」
「そうか。でも上手いな。お前は器用だな」
「いえ。隊長ほどではない」
「そうか・・・まあ、凄いぜ。さすがだ。ロックハンター!」
「・・・・」
照れながらフィンは笑った。
フィンは、普段みんなと会話する時は少しだけ喋るけど、俺と会話する時は緊張しているのか、あまりしゃべらない。
でも、俺との会話を普通にしてくれるタイプであるから助かる。
そんな穏やかな会話をしていた俺たちの、後ろにマールダが立った。
「…隊長。あれを! 勝手に行こうとしてます」
「は!? え!?」
マールダが指さした方向を見る。
ハイスマンたちが勝手にダンジョンの奥へと進んでいた。
「馬鹿か、あいつら。次の鉱石なんて、俺がいないと取れんだろうが・・・それにこのダンジョンを舐めんな。馬鹿共が」
「どうします。隊長」
マールダが不安そうに聞く。
マールダもフィンと同じように俺のことを隊長と呼び、普通に接してくれる貴重な一級冒険だ。
「そうだな・・・マールダ! お前が、あいつらについていって無茶だけはさせるな。あとから、俺とフィンが追いつくために、ダンジョン内に念のための目印を頼むわ。追跡系のスキルを使えない時とかに追いかけられないかもしれないからさ」
「わかりました。いってきます」
「おう。わりいな。すぐに追いつくから」
ぺこりと頭を下げたマールダがあいつらの後を追った。
「…隊長、よろしいので」
フィンも少し不安そうだった。
「ん?」
「あいつらだけで、このダンジョン。大丈夫でしょうか」
「まあ、大丈夫だろう。あいつらもそんなに馬鹿じゃないはずさ。危険だと思ったら引いてくれるよ」
「そうでしょうか・・・」
俺とフィンはモンスターの素材を取りながらそんな会話をしていた。
素材を全て剥ぎ取った俺はアイテムボックスに全部収納。
俺のアイテムボックスはおそらく道具屋さんたちのスキルよりも高性能であると思う。
なぜなら、種類別に小型化が出来ていて、しかもその許容量が半端ないのだ。
巨大なボス素材も簡単に中に入れることが出来るんだ。
まあ、たとえアイテムボックスに入らない素材があったとしても俺の所持重量アップのスキルも強烈で、デスジャイアンの本体を一人で運び出せるほどの重量を誇っている。
俺は思う。
なにげに俺のスキルって結構やばいような気がしている。
職人気質って恐ろしいわ。
これはレオンたちには、内緒にしておこう。
◇
「マールダ・・・ちゃんとマークを書いてますね」
「そうみたいだな。フィン、後を追うぞ」
「はい。隊長」
俺とフィンはマールダが書き記した黄色の星マークを追いかけていった。
「だいぶ進んでんな。アホかあいつら。奥に行きゃあ、一級でもきついのに」
「そうですね」
「フィン! 視力を開放できるか。あの奥! あそこに敵がいるか確認してくれ」
「わかりました」
俺は廊下の奥を指さす。
俺にも奥が見えていても、一応警戒は怠らない。
プロの目で判断してもらった方がいいからさ。
俺とフィンのバディでは、ここのダンジョンを突破するのはかなり無茶をしないといけないので、慎重に進むための措置だ。
「隊長、いないです!」
「よし、それじゃ、あそこのT字路の手前に罠があるからあそこの手前まで行く。フィンは俺の背後を頼む。後ろにも視野を広げてくれ。スキルあったよな? ロックハンターのさ」
「あります。『視野全力』で345度まで見えます」
「よし。それ発動で頼むわ」
「はい!」
俺とフィンは廊下を全力疾走。
罠に先に到達した俺が、手の平で合図を送る。
「止まれ。後ろ頼んだ」
「…はい」
俺はスキル『罠解除』を発動。
こちらのスキルはトラップハンターが所持しているスキルだ。
最初は落とし穴とかの簡単な罠のみが解除可能だが、スキルレベルが上がっていけば、地雷とかも除去可能だ。
ここでの罠は、左右の壁から火が噴き出るといったものだった。
解除には少々時間がかかる。
「クソ。さすがは四大ダンジョン。形状が複雑だな。あいつら、どうやってこの罠を突破したんだ」
「隊長、もしかしたらですけど、強引にじゃないですか」
「・・・あ、ありえるな」
フィンの鋭い指摘に俺の考えがまとまる。
「そうだな。あいつら。もしかして、スカナの神官魔法で突破したかもしれんな。プロテクトウォールを使ったかも。あれは魔力消費が激しいのに。馬鹿が、魔力温存を考えてないぞ。魔力は出来るだけ使わない。ここぞって時に使わないといけないのに・・・やばいな。あいつら、このまま進んじゃあ、継戦なんてできないぞ。これは見つけたらすぐに、引いた方がいいかもしれん」
「…急ぎたいために、リスクを度外視しているということですか」
「ああ。そういうこった。とにかく急ぐぞ。フィン!」
「はい。隊長」
俺が罠を解除すると、フィンが嬉しそうに頷いた。
仲間を心配して俺たちは全力で走り出した。
迷路のような入り組んだ作りのバイスピラミッド。
上に登ったように見せて、実は下っているという錯覚があったり、似たような道が多くある。
地図がなければ絶対に迷うはずのダンジョンでドンドン先へ進んでいくあいつらは、帰ってこれるのか。
道を逆算して進んでいるのかも怪しい連中だぞ。
ちなみに、俺にはスキル『地図』がある。
測量士さんの初期スキルだ。
頭の中に地図を展開できるスキルで、こいつの凄い所は今自分がいる場所がどこであるかも頭の中に記してくれるのだ。
たぶん俺の予想だが。
職人気質のせいで、普通の測量士さんの地図よりも正確であって、おそらくだが、測量士さんの本来の地図のスキルとは別物な気がする。
俺の地図の方が進化し過ぎているかもしれない。
「あんまりこれを使いたくなかったが仕方ない。急がんといけないからな。これは……あいつら迷ってんな。マークが二重に、ん? 今どこに行った。クソ」
「隊長・・・」
「心配すんな。フィン。俺が次を使う……スキル『追跡』」
極力使いたくなかった『追跡』
それは何故かというと脳の負荷が一番重いのだ。
無数の足跡が見えて、俺の脳処理を超える。
思考加速があればこれを軽減できるが、俺は二つを同時に展開できない。
頭痛に近い現象の中、どれが当たりで、どれが外れかを見極めていくと、マールダの足跡を黄色い星マークのそばで発見した。
「くっ。きついけど、このまま発動したまま追いかける。フィン、お前が俺の代わりに四方の索敵をしてくれ」
「わかりました」
「こっちだな・・・そんで・・・」
しばらく追いかけるとある壁で足跡が止まった。
「ここか・・・足跡は止まって、指紋? ここだ」
俺は壁に指紋があるのを発見。
壁を押した痕を見つけた。
「…はぁ。はぁ。こ、これはたぶん、スイッチだな」
「隊長・・・体の調子は大丈夫でしょうか?」
フィンは俺の体の心配してくれた。
実は少し体が重い。
『追跡』は負担が大きいんだ。
「あ・・まあ、大丈夫だ。体力を少し使っただけだ・・・・よし、フィン、ここからは何があるか分からん。でも、このまま行くぞ」
「はい」
俺が追跡を解除して、ボタンのような壁を押す。
【ゴゴゴゴゴゴ】
と目の前の壁が移動し始めると。
俺たちの後ろの壁が急に飛び出てきて、俺たちをその壁の中へと押した。
前に突き出された形の俺たちは、ある部屋に入ったのだ。
「こ、ここは。へ、部屋だな・・・な!?」
「なに!?」
俺たちは、目の前の光景に驚くしか出来なかった。
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