第5話 運命の先生

 カイロバテスに住む人々は、十二歳になると、とある権利が発生する。

 それは日曜学校へ入学する権利だ。

 この世界は、十二歳から十八歳までの間であれば、いつでも誰でも学校に入学できるシステムがあるのだ。


 四大陸には各々大聖堂があるとお伝えしたばかりだが。

 もう一つ重要なものがあって、日曜学校という施設がある。

 この学校は、三年間の全寮制の学校で、ここで自分の職種や才能を理解し、自分がなりたい職業になるための訓練が出来る。

 実に素晴らしい制度なのだ。

 どんなジョブを所持したとしても、どんな職業にもついていいので、なりたい者になろうと皆が努力する場所だ。

 これは手厚い支援と言ってもいい。

 しかもこの教育機関は無償で入ることが出来るのである。

 人々の生活をより大きく豊かにさせてあげようとする奉仕の精神があるらしい。

 だが、その教育費などを賄う財源はどこからきているのかは謎だ。


 ◇

 

 俺たちは五人でこの学校に入った。

 寮の部屋も、それぞれが一緒。

 俺とイージスとレオン。

 ミヒャルとエルミナ。

 男女で別れたけど俺たちはいつも一緒だった。


 その日曜学校で、俺の人生は明るい道を歩むことになる。

 それはとある人との出会いが重要だったんだ。



 ◇


 「はい。皆さんの担任のホンナーですよ。よろしくお願いしますね」

 「「「 はい! 先生! 」」」

 

 ゆったりとした口調のホンナー先生が俺の運命の人である。

 先生は、元々パッチリした目だと思うのだが、瞼が重くなりすぎて糸目のようになっている。

 けだるさがあるようにも見える人だ。


 彼は特殊なジョブ「教師」というものを持っているらしい。

 だから、先生は天職に就いている人なんだと思った。

 他のクラスの先生は「鍛冶師」「大工」「戦士」「神官」などの内政やバトル系の職を持つ先生で、専門的な事を教える先生が多い日曜学校の先生陣の中で、俺たちの先生だけは「教師」という特殊職のジョブ持ちだったんだ。

 そんでもう一つ珍しいのは、俺たちのクラスは俺たちだけ。

 他のクラスは三十名くらいなのに俺たちは俺たちだけであった。


 「先生! なんでうちらはうちらだけのクラスメイトなの?」

 

 当然の疑問をミヒャルが聞く。


 「ああ。それはですね。あなたたちが非常に珍しいジョブをお持ちですからね。他の方じゃ教えられないんではという事で。私が担任になりましたよぉ」

 「へえ~。それじゃあ、先生は他の先生たちに俺たちを押し付けられたってことですか?」


 次にレオンが聞いた。


 「平たく言えば・・・そうですね」

 「正直すぎませんか。先生!」


 少し呆れたエルミナが珍しく語気を強めた。


 「そうですかね。あはははは」

 「・・・・先生・・・眠い・・・」


 うつらうつらしているイージスが先生に堂々と眠たいと宣言した。


 「あら。どうしましょ」


 でも先生は怒らない。

 普通にあたふたしてイージスを心配していた。


 俺たちは人とは一味も二味も違うジョブを持っている。

 それは俺も例外じゃない。

 こいつらも激レア職種だけど、俺も無職という激レアな職種である。

 何をどう鍛えればいいのか。

 俺も分からないけど、そちらも分からないという事だろう。

 でもそのおかげでみんなと同じクラスになれた。


 

 ◇


 先生と過ごして一か月。

 分かったことがたくさんある。

 それは、先生は戦闘系じゃない。

 そして、内政系でもない。

 ただ何事も物事を教えるのが上手い人だった。

 あの馬鹿で有名だったレオンが、スラスラと本が読めるくらいに成長したし。

 虫取りにしか興味がなかったミヒャルが魔法に興味を持ったし。

 いつも穏やかでお淑やかだったエルミナが運動が出来るようになったし。

 イージスは・・・・しょうがない。指導は出来なかった。

 まあ、総じて俺たちは実力が上がったような気がした。

 

 「それでは今日も見学に行きますよ!」 

 「「「 は~い 」」」


 俺たちの授業は一般常識などの座学が基本で毎日一時間くらいだった。

 先生の授業は、その一時間で十分だった。

 俺たちの頭の中にドンドン情報が入っていくからだ。 

 先生の授業は、そんな不思議な力がある授業なんだ。

 なので、その一時間以外の余った時間は、他のクラスの見学や、学校外の課外学習として都市の中などを歩き回ることだった。

 

 先生が言うには。


 「君たちは、いろんな経験を得た方がいいでしょう。それで何になるかを決める。そこから本格的に私が計画を立ててあげますよ。一年くらいはこんな感じで学習しましょうね。楽しんでいきましょう!」


 こんな感じで色んなことを俺たちに体験させたいと言ってくれた。

 そして、俺にだけ先生は。


 「ちょっと。ルル君。ほいほい」 

 「え? 先生、なんですか?」

 「ルル君は、皆よりも真剣に見学してください。色んな物を見るのですよ。それがあなたの才を豊かにすると思いますのでね。この一年、食らいつくように人や技やモノを見ててください。あなたは必ず素晴らしい人間になりますからね」


 こんなアドバイスをしてくれた。

 俺は、嬉しかった。先生が期待してくれていると思ってさ。

 そして、俺は他の四人にもアドバイスがあったのかと聞いてみた。

 でも、誰もアドバイスはないと言っていた。

 だから俺はもっと嬉しくなったんだ。

 先生の期待に応えようと見学の時にメモまで取って真剣に日々を過ごしたんだ。



 ◇

 

 日曜学校で一年が経った頃。


 「ではでは。皆さんのなりたい職業はなんですか!」

 

 そう聞かれた時。

 とうとうこの時が来たのかと俺は悩んだ。

 なりたいものが見つからない俺だったんだ。

 無職じゃ何にもなれないと思ったから。

 だから、どうしようかと思ったその時、四人は口をそろえてこう言った。


 「「「「 冒険者! 」」」」

 「へ!?」


 俺だけ驚いて四人と先生は笑顔であった。

 

 後で話を聞くと、これは俺へのサプライズだったらしい。

 俺以外の皆が話し合い。

 俺と一緒にいられる職種を考えたみたいだ。


 勇者。

 これは本来、冒険者や旅人。世界を救うために戦う戦士になったりする。

 

 聖女。

 これは本来、聖職者の頂点として教会か聖堂に入るらしい。

 

 大賢者。

 これは本来、冒険者以外だと、魔法研究施設などに就職するらしい。

 

 仙人。

 これは・・・よく分からないらしい。何になってもいいけど、拝まれる存在となるみたいです。


 無職。

 これは本来というか。

 無職は、何になるのか分からない職種どころか、何になれるかが分からない職種だ。

 どこかの貴族や王族に仕えるのも無理だろう。

 どこかの国に仕官するのも無理だろう。

 鍛冶師とか商人、農家などの色んな職種にチャレンジするのも難しいはず。

 ならば、どんなジョブを持っていても必ず受け入れる冒険者という職業ならば、無職であっても関係ない。

 皆は俺の為に冒険者になると言ってくれたんだ。


 そうこれを後から気付いた時。

 俺は涙で前が見えなかった。

 この時の俺は、皆の優しさに気付かなかったんだ。

 俺はなんて馬鹿な奴だったんだろうと今は思う。


 

 「冒険者になるのか? みんな?」

 「おうよ。お前もなれよ」

 「うちらと一緒にさ」

 「ルルもなりましょう」

 「・・・楽しいぞ・・・五人なら・・・」


 俺の問いに皆は端的に答えた。

 いつもの感じで、重苦しくなく、俺の後押しをしてくれていたんだ。


 「そうか・・・みんながなるなら、俺もなろうかな。なれるかな?」

 「なれる。俺たちでなるんだぜ。だから絶対になれるって!」

 「そうよ」「ええ。一緒に冒険者になりましょう」

 「zzzzzzzz」

 「「「「 おいおい 」」」」


 最後に皆でイージスを笑って、この話が終わった。

 俺も、みんなと一緒に冒険者になろうと思った出来事だった。


 

 ◇


 そこから、みんなで強くなるための特訓を開始した。

 冒険者になるには知識も必要だけど体力も必要だ。

 だから、兵士訓練などの体験をして、皆で一緒に戦う技術を学んだりした。

 そして、みんなそれぞれ自分の得意とするものを伸ばしていく時間が増える。

 個別特訓となったのだ。

 レオンは剣技。ミヒャルは魔法。エルミナは神官術。イージスは格闘といった具合だ。

 それで俺だけは、ホンナー先生とのマンツーマンだった。

 

 「ではルル君! あなたは、他の方からも教えてもらいましょう」 

 「え? どういうこと・・・でしょう?」

 「あなたは無職。それはあってますね」

 「は、はい。残念な事にですが」

 「そうですね。残念でありますね。無職はですね……私が少ない文献で調べる限り、無職はスキルや魔法を体得するルートがないようです」 

 「…そ、そんな・・・それじゃ、冒険者なんて・・・」

 「そうですね。無職では辛いでしょうね。ですが、それはただの無職だった場合ですね」

 「え?」


 俺は先生の言っていることがあまりよく分かっていなかった。


 「・・・本来、君はとても優秀なんです。たぶんジョブの差がなければ、彼らに引けを取らない能力を持っています。身体能力や頭脳がですよ。それなのに、彼らと差があるように感じるのは、皆さんが持っているジョブのせいです。皆さんのジョブがあまりにも優秀で、自分とはかけ離れた存在だと、ルル君が決めつけているだけなんですよ」

 「・・・いや、でも実際・・あいつらの方が凄い・・・」

 「そうですが。私は知ってます。君はとても強くなる要素がある事をね」

 「え!?」

 

 先生はそう言って教室の黒板に何かを書きだしていった。


 「いいですか。ルル君。みんなの才能を知ってますか」

 「才能? ええっとジョブじゃない奴ですね。あれ・・・そういえばなんだろう」

 「彼らの才能は、彼らが、英雄職になれるという才能でした」

 「…ん?」

 「それは・・・」  

 

 先生の黒板に書いた物は、皆の才能名。

 それは、各々のジョブに関連する名称だった。

 勇者・・・勇気ある者

 大賢者・・魔を司る者

 聖女・・・光を導く者

 仙人・・人を超えし者

 という才能名だった。


 「では、君の才能はなにか、君は覚えていますか?」

 「え・・俺のですか・・そういえば・・・俺はあの時・・・あまりにも無職が情けなくて・・・覚えてないですね。自分の才能!」

 「そうですか。それは大変もったいない。私は知ってますよ。入学の時に書類に書いてもらいますからね」

 「そうなんですか! 知らなかった・・書いたのは村長かな・・・?」

 「ええ。あなたの才能とその能力は・・・・」


 それが俺の運命を確定する能力だった。

 その能力は、無職に、絶妙にマッチして最強の才能であった。

 

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