第6話 冒険者って奴らは

 俺の才能。

 それは、探究者と職人気質という二つの才能持ちであった。

 これは滅多にない事だと先生は言っていた。

 なぜなら才能とは一人一つが基本であるとされているからだ。

 二つ持ちは非常に珍しいことらしい。

 

 「だからですね。私は、神がわざとあなたを無職にしたんだと思ってます」

 「え・・・どういうことですか?」

 「あなたのこの二つの才能。この二つの組み合わせが絶妙過ぎて、神は職種を選ぶのに悩んでしまったんじゃないかというのが、神の本音じゃないかと思います。私が考えるにね。決して君を馬鹿にしたわけじゃないと思います」

 「・・・ん?・・・どういう・・・こと?」


 俺の才能は探究者と職人気質。

 この二つの能力の組み合わせは、正に青天の霹靂で究極の相性を誇っていたのだ。

 

 探究者と呼ばれる才能は、人の技を覚えることが出来るというものだった。

 ただし、覚えることが出来るのは、ジョブの初期スキルのみである。

 それだけしか有効範囲はなくとも、これはとんでもない才能だった。

 なんせ、人の職業は無限に近い。

 その数の初期スキルを覚えることが出来るのは贅沢というものだった。


 そして、職人気質は覚えた技のレベルを上げることが出来るというもの。

 さらに、この職人気質は技に対する理解度と熟練度が上がると、レベル以上のものにすることが可能となるスキルだった。 

 だからこの二つの才能の組み合わせは鬼凄オニスゴである。


 「ルル君。例えばですが。ルル君の職種が戦士であった場合ですね」

 「はい」

 「私の予想では、戦士の技しか習得できないと思います。この才能があってもです」

 「・・・???」

 「たぶん自分になにかの職種の色があると、誰かの技を習得するのに、かえって邪魔になると思うんですよ。だからこそ、神は君を無職にした。無職であれば何も覚えることがないので。君をわざと無職にして、何でも覚えることが出来る状態にしたのではないか……といった具合だとおもうんですよね。私の予想ですけどね」

 「・・・ということは、俺に見学を真剣にしろって言ってたのは。その技を盗むため?」

 「はい! そうです。何かのスキルを取得できるのではと思ったのですよ。どうです? ルル君は何かを取得した感じを得ましたか?」

 「わ。分かりませんね。どうやって人から技を得るんでしょうか。方法が分かりません」

 「んんんん・・・そこが難しいですよね。私も君のような無職の人を初めて見ましたし、君のようなダブルタレントの子も初ですし、それにその探究者という才能。私にはその才能がまだ。途中なのではと思いますね。今のは覚醒前の状態ではないかと………ああ、しかし、どうやったら技を覚えられるんでしょうかね……以前、そのタレントになったことがある人が、資料を書き記して欲しかったですよね。はははは」


 俺と先生は暫し悩んだ。

 どうすれば技を会得することが出来るのか。

 これは俺の人生において最重要な問題であった。


 「……先生。そしたら俺、冒険者に直接話を聞いてもいいですか!」

 「ん?」

 「覚え方は分からないけど、スキルをやみくもに覚えるんじゃなくて、冒険者に必要なスキルを学びたいです。それで、あいつらが取得しないようなものを重点的に学びたい」

 「なるほど。それはとてもいい考えですね。それじゃあ。さっそくギルドにいきましょう! レッツゴー」


 先生のフットワークが軽くて助かる。

 俺はこの人を心の底から尊敬していた。

 ちょっと頼りない時もあるけど、先生はいつも楽しそうで、こっちも一緒になって楽しくなってしまう。

 そんな面白い人なんだ。


 

 ◇


 冒険者ギルドに到着した俺は、先生に背中を押されることになった。

 先生は受付の人に俺のことを説明してくれた。


 「あのお嬢さん。ちょっとここの冒険者の方にお話って聞いてもよろしいですか」

 「え? 何のです?」 

 「インタビューをしたいんですよ。この子が。いずれ冒険者になりたいんでね。冒険者ってどんな人がなるのか、どんなことをするのかを聞きたくてですね」

 「・・・ああ。そういう事ですか。いいですよ。少し待ってください。マスターに聞いてきますね」

 「はい。お願いします」


 数分後。すぐに許可が下りた。

 受付のお姉さんは俺にウインクまでくれるような人懐っこい人であった。


 ◇


 聞き込みを開始した俺は最初に普通に話せそうな戦士の男の人に、冒険者として、気をつける事や困る事などを聞いてみた。

 顔は優しそうで普通だ。

 身なりも「この人、絶対戦士だ!」と分かる服装をしてる。

 それと剣と盾を持っていた。


 「え!? 困る事だって・・・そうだな。まあ、一に女だな。二も女だ。三四もなくて、五に女だな・・・・冒険者になって一番困るのは女だ。いいか坊主。同業者の女は怖えんだ・・・めっちゃ怖え。兵士になるよりも女にモテるかもと思ってさ。それで冒険者になったのが間違いだったかもしれんわ。お前も気を付けろよ。冒険者の女ってのはな。たくましいからさ。うんうん!」

 「・・は、はい。そうですか」


 この男の人は結局、頭の中がレオンと一緒でピンクだった。

 この後もずっと女性の話ばかりで、有益な話が出て来ない。

 俺の話・・・聞いてる?

 俺の話・・・理解してる?

 もしかして、冒険者って人の話を聞かないのかな。



 次に俺は、弓を右腰につけていて、顔に戦化粧をしているワイルドな女狩人に、今度こそ答えてくれるだろうと、先程と同じ質問をしてみた。

 

 「困る事ねぇ。そうねぇ。男がいないわ。どうしましょ。あたしね。ここで活躍すればね。イイ男がハントできると思ったのよ。この弓でね。でもなぜだかあたしには男が寄って来ないのよね。どういうことかしら・・・・あたし・・・男よりも強いのかしらね? ぼく? どう思う? お姉さん強そうに見える?」

 「は・・・はぁ・・・そ、そうかもしれないですね・・はははは」


 この女性もまた結局、男女間の問題の話である。

 ずっと男が欲しいと俺に愚痴を言って来た。

 俺の話・・・聞いてる?

 俺の話・・・理解してる?

 俺は、この人の話の最後に乾いた笑いしか出せなかった。

 やっぱり冒険者は話を聞かないらしい。




 その後。

 冒険者の方々に話を聞いた俺。

 でも俺の質問に対して、満足いく答えをくれた人物は一人もいない。

 冒険者って底辺がなる職業なの。

 誰か、話の意図を読み取ってくれるような普通の理解力がある人。

 どこかにいませんかね。

 なんて思っていた俺が最後に望みをかけて、話しかけたのは、顔に傷がある凄く怖い顔をした戦士の男性だった。

 体も大きいし、その体よりも大きい斧を背中に背負っていた。


 「困る事! そうか。冒険者の冒険でっていう事だな!」

 「はい。そうです!」

 

 一番話を分かってくれなさそうな人が、分かってくれた。

 

 「そうだな。俺がなりたての頃の話でもいいか」

 「はい。ぜひ」

 「まずはだな…一番困ったのは荷物だ」

 「え? 荷物?」

 「うむ。重量オーバーという奴だ」

 「それはどういうことでしょう」


 このイカツイけど優しい戦士さんは初心者の頃からモンスターを倒すのは楽勝だったらしい。

 だがその倒したモンスターから出る素材を持ち運ぶのが困難であったらしいのだ。

 ダンジョンなどのモンスターを倒しても、持ちきれないから途中で捨てたり、ボスと戦って倒してもこれ以上は持てないからって理由で、素材を諦めたりしたことがあったらしい。


 「へえ。なるほど。荷物って重要なんですね」

 「うむ。だから、俺はファミリーに所属してからその問題が一つ解決してな。助かった部分があるんだ」

 「ん?」

 「素材はアイテムボックスに入れることが出来るんだよ。道具屋ボマーならそれが出来るんだ」

 「アイテムボックス?」

 「うむ。ジョブの道具屋は初期スキルでそれを手に入れられるんだ。便利なんだよ。アイテム類をほとんど詰め込むことが出来るからね


 この人は俺が疑問に思うことをすぐに説明してくれる。

 とても親切な男性である。


 「なるほど。それは便利ですね。獲得した素材を全部入れられるってことですね」

 「うむ。だがここで一つ問題がある」

 「え。問題!? それはなんですか?」


 この人は更に問題点まで言ってくれる。

 絶対イイ人だ!


 「ボスとかレア素材の大物だ。あれはデカすぎてアイテムボックスに入らんのもあるのよ」

 「そ、そうなんですか」

 「でも心配するな。ファミリーであればそこは問題解決する。運送屋なんかの初期スキルに、所持重量アップというものがあるんだ。ちなみにパワー系統の職種も後に覚えるぞ。これを複数が取得していれば、簡単に持ち運べるのさ。いいだろうファミリーって。ハハハハハ」

 「なるほど。所持重量アップ……メモします」


 俺はこの人からとても重要な話を聞いた。

 いかつい見た目で判断してごめんなさい。

 あなたが一番話しやすくて、あなたが一番俺の話を理解してくれました。

 と心の中で謝罪し。

 他の話しかけやすそうな人たちの方が一癖あったので、俺は人を見た目で判断することをここでやめたのである。

 人はジョブが全てじゃない。人は人。見た目でもない。

 親父の言ったとおりである。

 大切なのは自分勝手な先入観を持たない事。

 何事も柔軟に物事を捉えようと思った出来事だった。


 

 ◇


 俺は、その後も冒険者たちに話を聞き、参考になる話を組み立てて、自分に必要なスキルを取得しようと必死に勉強した。

 俺のスキル特訓はまず、仮説を立てることから始まった。

 真剣にスキルの動きを見る。

 そのスキルの仕組みを理解する。

 そして、それを実証して実験する。

 この三点ではないかと思い。

 俺は実際にこれに沿って頑張ってみたら、何とかスキルを覚えることが出来た。

 

 俺が最初に覚えたのは、都市でお仕事していた運送屋さんの所持重量アップである。

 俺はアルバイトと称して、その人たちがやる仕事をお手伝いしたことから、この訓練は始まった。

 意気込んで数カ月くらいかかるのかなと思っていたんだが、数日間真剣にアルバイトしていたら、取得できたというまさかのオチがあった。

 そして、俺はその後、所持重量アップのスキルが目覚ましい進化を遂げてしまい。

 それはたぶん、職人気質のせいだと思うが。

 とんでもない量の配達をこなすことが出来るようになってしまって、仕事仲間の人たちから、この仕事に残ってくれと泣きつかれて、あそこの職場に引き抜きにあいそうだったけど、何とか丁重にお断りをして、事なきを得た。

 

 ごめんよ。運送屋のおじさんたち!

 俺のなりたい職業は冒険者なんだ。


 でもまあ、最初のスキルを覚えてしまえば、後は職人気質という才能が後押しをしてくれることが分かっただけでもこのお仕事訓練は大成功であった。

 あとは何回も集中して反復練習をこなせば、徐々にそのスキルの性能が上がっていくという仕組みも理解できた。


 俺はこうしてみんなの役に立つための特訓を開始したんだった。


 

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