第3話 同じ村の五人
俺たちが育ったマジャバル村は、五大陸の南東にある大陸『ジャコウ』にある。
俺たちは、ジャコウ大陸で最も小さい村で育った。
面積も小さいけど人口も少ない。
そんなんだから、その年に子供が複数生まれることも珍しいのに、俺が生まれた時は、他に四人も生まれたんだ。
他の年だと生まれない年もあったりするのに、俺たちは珍しく五人であった。
村人は、年寄りの方が多くて子供が少ないから、その五人が固まって仲良くなるのは生まれる前から決まっていたこと。
しかも俺たちの家は近所でもあるからにして、井戸端会議をする母親たちも仲が良く、全員がしょっちゅう会うからか、俺たちはもう兄弟も同然であった。
◇
8歳くらいの時。
「おい。ルル! 遊ぼうぜ」
「なにで・・・・やっぱめんどい」
家の前の地べたに寝そべっていた俺は、目の前に来たレオンをチラッとだけ見た。
楽しそうにしているレオンは俺の顔を覗いていた。
「そんなこと言うなよ。今。俺と遊ぶの許可したじゃん。遊ぼうぜ!」
「なんか、ふと考えたら、急にめんどくなった。遊ぶのは、なし」
「なんだよそれ・・・・まあいいや。それなんだよ。その石」
「俺の話、聞いてた? めんどいって言ったよね」
地面に大の字で寝転んでいる俺は、川で集めた丸石を綺麗に上に積む遊びをさっきまでしていた。
塔のように積まれている石が十段ほどになっている。
「これのことか……そうだな。お前。これと同じ塔を作れるか?」
「ああ、いいぜ。俺もそれやってみるぜ」
俺の塔を崩してから、レオンは自分の塔を作ろうと意気込んで石を積み始める。
数分後。
村一番の美人のお姉さんが俺たちの前を通り過ぎた。
「そこのお嬢さん・・・俺とお茶しませんか!」
「おいおい。俺と遊ぶんじゃなかったのか・・・レオ!」
「俺は忙しくなった。んじゃ!」
「何に忙しいんじゃ! エロガキ」
レオンは綺麗な女性のお尻を追いかけていった。
奴の人生の半分は、女性のお尻だ。
今にして思えば・・・マジでクソガキだ。
あいつ、集中力なさすぎだろっと思った俺は、一人で石を積みなおしていると隣に人の気配がした。
「ルル。眠い・・・zzz」
「おいいいいいい。なんでお前は、俺の隣でいつも寝るんだよ。おい。起きろよ。イー!」
イージスはいつも俺の隣で眠る。
眠いと言ってわざわざ隣で眠る。
だったら、最初から家で寝ればいいじゃんと、いつも言っているが、どうやら俺の隣が特等席らしい。
どんな体勢であっても必ず隣で眠っている。
「はぁ。仕方ねぇな。そのまんまにしておくか」
俺はイージスを気にせずに石を積んでいった。
前よりも高い塔が完成した。
俺はレオンと違って集中力があるらしい。
と自画自賛している所に、正面からミヒャルがやってきた。
「おい。ルル……虫取ったぞ! ルル! どうだ!」
「…は?」
偉そうにふんぞり返るミヒャルがカブトムシを持ってきた。
本当に俺の目の前に持ってくるものだから、最初ゴキブリかと思った。
気色悪いです。足らへんが。
それと、なんでそれをわざわざ俺に報告するのって野暮な事は言わない。
俺はちょっぴりこいつらよりも大人であると思う。
「どうよ。これ。凄くないか。デカいぞ! ニシシシ」
「はいはい。ミヒャルさんは凄いですね」
「返事は一回! あんたいつも二回言うじゃん」
「へいへい。ミヒャルさんはいつも同じことを指摘しますね。お母さんですか。俺の!」
「お、お母さんじゃない! うちは・・・と・・・とも・・ともとも・・・だ・・ち」
ミヒャルは友達と言えずに顔を真っ赤にしていた。
「はいはい。そんなに恥ずかしくなるならね。別に改まって言わなくてもいいでしょ。俺だってね。お前のことを当たり前に友達だと思ってるからさ。ほらほら。他の虫も取りに行くんだろ。俺にわざわざ見せに来なくてもいいから。早く行きな」
「うっさい馬鹿! 嫌い!」
「へいへい。どうぞ~」
俺のことを必ず嫌いというのに、俺に自慢してくるのがミヒャルという女の子だった。
意地っ張りで強情で勝気であるが優しい面を持つ不思議な子なのだ。
遠くの方で優しい声色の声が聞こえた。
「はい。村のあちらの馬小屋に、その用具があったのをお見掛けしましたよ」
「そうかい。ありがとね。エルミナちゃん」
「はい。それでは……フミカさん。また」
同じ歳なのに大人のような喋り方のエルミナは、八方美人のように誰にでも優しい。
いや、彼女が優しすぎて、八方美人に見えるのかもしれない。
本人は、本当はそんな感じで動いているわけじゃないのかもしれないが、俺の目にはそう映っていた。
「ルル。何をしているのですか」
俺のそばまでやって来たエルミナは不思議そうな顔で話しかけてきた。
「ん? これかい。これは石を積んでんのさ。どうだ、高いだろ!」
「なぜ?」
「・・・なぜ?・・・たしかに・・・なぜだよな・・・そうだよな・・・なんでこんなことしてるんだろ」
俺は悩んだ。
これに意味がないからだ。
特に意味がない。全く意味がない。全然意味がない。
意味がない理由しか浮かばない。
だから。
「これはさ。あれだよ。意志を曲げないって意味だ!」
「はい?」
意味を強引に取ってつけてみた。
彼女は首を傾げる。当然である。
「この丸石を上に積む。これは超ムズイ。だから、意志が曲がっている者には積むことが不可能なんだよ。知ってた?」
「た、確かに・・・それはとても…凄そうですね」
「そうだろ! てことで、エルもやってみるかい」
「…はい! やってみます」
彼女は騙されやすい子である。
彼女がとってもイイ子な分、俺の罪悪感は凄まじい。
彼女は、「ムムム」と言って、最初の土台の石を選び、「ンンン」と言って次の石を一つ選んでいく。
しばらくすると……。
「出来ました! どうです。ルル」
「うむうむ。エルも俺と同じで意志が固いと見た! エルは、今度の天啓で、良い職業と才能に恵まれるんだよ。エル、よかったな!」
「本当ですか! ありがとう。ルル。大好きです」
「え? あ。うん」
俺に抱き着いてきた彼女は頬を寄せてきた。
めちゃ緊張した俺はどきまぎしたまま、エルミナが積んだ石を眺めるに終わった。
彼女を抱き返せばよかったのか……。
後になっても彼女の行動の意味が分からなかったし、俺はどうすればよかったのだろうか。
◇
10の時、我々は天啓を得ないといけない。
これがこの世界の人間にとっての運命の分かれ道となる。
なぜなら、この世界カイロバテスの人間は、10歳になった瞬間。
この大切な行事を必ず通過しないといけないのである。
一つの大陸を除き、四大陸はそれぞれ一つずつ大聖堂という場所がある。
聖職者の方々にとっては、皆が女神にお祈りをするのをお手伝いする職場であるが。
一般人にとっては、天啓を授かる場所となっているのだ。
天啓とは、人間の
スキルや技や魔法などを覚える戦闘職から、手に職を持つ内政職など。
多岐に渡る職業のこと。
そしてこの職業は、この天啓によって一度決まると変えることが出来ない。
神から授かったものなので、基本変えることが出来ないとされている。
未だかつて転職した者はいないから、おそらく一度決まった職業以外はなれないだろう。
これは、結構シビアで辛いものである。
例えばあなたは大工です。
と言われれば、大工のスキルしか学ぶことが出来ない。
他の職種に転職できないから、その人は一生大工のスキルだけを学ぶしかないのである。
だから天啓とは、人生が確定する重要な場面なのだ。
そして
これも天啓によって授かるとなっているが。
これは人の意思によるものを明確に記すだけのものなので。
もともと、個人が持っているスキルを発表するという形になるだけだ。
同じ名称であっても、人によっては効果が異なったりするらしい。
正しくこれは、人は一人とて同じ人はいないを表すのだろう。
俺たちは、ジャコウ大陸の中央マーハバルという都市にある大聖堂へ行った。
村の村長さんが引率してくれたんだ。
マーハバルまで家族連れなどの大所帯で行くには金がかかる。
だから、村で10歳になる者は、村長が直々に大聖堂に連れて行くことになっているのだ。
これが村の決まりだった。
「お前ら。今年は五人だもんな。経費がかかるんだよ。親が連れて行くのは無しだ。ガハハハ」
なんて酷いブラックジョークをブチかます村長は豪快に笑っていた。
豪快村長は、冗談を言って俺たちの緊張を取り除こうとしていたんだ。
でも俺たちが子供過ぎて、これが冗談だとは誰も気づいていなかった。
ただの口悪い爺さんにしか感じなかった。
そして。
俺たちは大聖堂の女神の前で祈ることに。
天から声が……。
じゃなくて女神像から光が溢れて、俺たちに光を浴びせた。
左から順に女神像が話しかけてきた。
「レオン・・・あなたは、勇者です」
「・・・ゆ・・・・ゆうしゃ!?」
レオンは伝説級のジョブ勇者だった。
驚きすぎてレオンの言い方はいつもよりも幼くなっていた。
「ミヒャル・・・あなたは、大賢者です」
「・・大賢者・・・うちが・・・」
いつも騒がしいミヒャルが大人しく受け入れた。
ミヒャルもまた伝説級のジョブだった。
「エルミナ・・・あなたは、聖女です」
「聖女ですか。私がですか・・なんて恐れ多い・・・」
自分の役職が自分の許容量を超えているのではと。
エルミナは自分の将来を心配しているようだった。
「イージス・・・あなたは、仙人です」
「・・・へ~・・・仙人・・・???」
イマイチ、ピンと来ていないイージス。
仙人って何だろって思ってるんだろうなと、隣の俺はチラ見して思った。
四人は激レア職種の人間だった。
望んでもなれるような職種じゃない。
人智を越えたジョブだったんだ。
そして……俺の番。
「ルルロア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・ん?」
俺の時、なぜか女神の声がなかなか来なかった。
無言がしばらく続く。
「ルルロア・・・・・・ルルロア・・・・・・・・」
壊れたオルゴールのように女神は俺の名前しか呼ばない。
「ルルロア・・・・・・・あな・・・あなたは・・・・」
「はい!」
なかなか言わない女神に、俺は強く返事をしてみた。
ちょっといい加減教えて欲しい。
「あなたは・・・無職です」
「・・・・・・・・へ!?」
俺の顔はきっと間抜けな顔をしていたと思う。
想像以上。
いや、想像の範囲を超えた女神の答えに俺の思考は止まっていたんだ。
ここから先の記憶が俺にはないのである!
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