第2話 宴会

 五大陸の南西の大陸【ジーバード大陸】

 その真ん中の位置にある都市。

 ファルテの中にある希望の星ジェンテミュールのホームにて俺たちは宴会をしていた。


 「ほらほら。ぱあっと行こうぜ! どんと飲め!」


 勇者レオンの音頭で、宴会は始まる。

 ファミリーの仲間たちは、暴れるようにして飲み比べを起こし、宴会が始まったばかりなのに、べろべろに酔っぱらっていった。

 偉業達成の嬉しさ爆発といった具合だろう。


 俺は、ホームの隅で、一人静かに飲もうと移動していた。

 だが、超人四人が強引に俺を引っ張っていって、共に酒を飲むことになった。

 テーブルを囲う俺たちの姿は、友達というよりも家族そのものなんだ。

 いつも一緒だったからな。

 

 「ルル。あなたのおかげですよ。はいどうぞ」

 「…ありがとう。エル」

 

 隣に座るエルミナは、俺の為に食事をよそってくれた。

 俺の好物ばかりを並べてくれる彼女は、めっちゃカワイイ。

 これは内緒にしておこう。

 

 そう俺は勘違いしてはいけないのだ。

 こんな美人で聖女である彼女が、無職なんかの俺に優しいのは、彼女の本質が超優しいからだ。

 だからだぞと。

 そうだぞ。

 俺・・・勘違いすんなよ・・・俺・・・・童貞だからだぞ。

 こんな勘違いしそうなのは……。

 とまあ余計な思いは忘れていこう。

 気を取り直して俺は皆に言う。


 「いや、俺の力なんて大したことないぞ。お前たちの偉業にちょいと乗っかってるだけなのよ」

 「そんなことないだろ。俺はお前にいつも感謝してるぜ。とりあえず、これを飲め飲め。この後、酒場に行って女を引っ掛けるんだ。前回、お前は恥ずかしくなっちまって、顔を真っ赤にして終わったからな。今度は酔った勢いでいこう! な!」


 勇者レオンの頭の中は、戦うこと以外だと女しかない。

 恥ずかしい思考能力である。

 だけど俺のことを認めてくれる数少ない友人だ。

 俺の正面に座る彼は、身を乗り出してまで俺のビールジョッキに乾杯してくれた。


 「・・・ねむい・・・」

 「ああ、はいはい。ほら、ケチャップついてるよ。イー」

 「・・・ありがと・・・ルル・・・」


 四角いテーブルで俺の右の面にいるイージスは、スプーンで取ったオムライスを、口の中に運ばずに、ほっぺたに運んでいた。

 それを見た俺はすぐにアイテムボックスから取り出したハンカチで拭いてやる。

 彼の頬のケチャップを綺麗に拭き取ったら、半分寝ながらお礼を言ってきた。


 「あんたこそ。いつも世話焼きのお母さんみたいじゃん。ふん」


 俺から見て左の面にいるミヒャルが、頬杖をついて話す。


 「ん? いや、お前の口調は確実にお母さんだろ。だから女である分、お前がお母さんだ」

 「う、うちは、お母さんじゃないもん。そんな歳じゃない」

 「はいはい。そりゃあね。俺たちはまだ十八だけどさ。そろそろ結婚してもいい年でもあるわけじゃん。お前、いい人いないのか? せめて彼氏いないのかよ」

 「・・・い・・・いるわけ・・ないじゃない・・うちは大賢者よ。釣り合う男がいないわ」

 「はいはい。そうですか。それはようございましたね。付き合えない言い訳ができて。よかったですな。大賢者様」

 「・・・んんんん! ルル! 嫌い!」


 少し切れ気味のミヒャル。

 ちょいと、からかい過ぎたかと思ったら、隣のエルミナが俺のおでこをつつく。


 「駄目ですよ。お年頃の女性にそんな冗談は。気にしちゃいます。私も同じ歳ですし、私も彼氏がいませんよ。もう」

 「……ごめん。エル。君に言ったわけじゃない。すまない」

 「・・・私に素直に謝ってどうするんですか。ミヒャルに言いなさい。ミヒャルに」

 「…ごめ・・・無理だな。ミーにはな」


 俺はエルミナには謝ることが出来るがミヒャルには無理だった。


 「んだと。てめえ! ルル! 表出ろや」

 「まあまあ。別にいいじゃないか。ミヒャル。そういう粗暴に振舞おうとしても無駄だぞ。お前の声は可愛いから、全然怖くない! はははは」


 レオンが間に入った。

 若干馬鹿にしたように聞こえなくもない。


 「うるせえ、浮気勇者が。浮ついた気持ちで女の子をたぶらかすんじゃねぇや。お前と付き合ってる子らが可哀そうだ!」

 「待て! ミヒャル。俺は浮ついていないぞ。俺は、全ての女性を等しく愛しているのだ!」

 「クソが! 良いように言うんじゃない! このド屑が!」


 俺とミヒャルの喧嘩じゃなく、この二人の喧嘩となった。

 レオンのせいで少しややこしくなって、しばし喧嘩が続く。


 ◇


 仕切り直しだと言わんばかりにレオンが皆に話しかけた。

 

 「はぁ。よくやったよ……俺たちさ。あんな小さな村からこのどデカイ偉業を成し遂げたんだな」

 「そうだな……田舎の子供の夢にしちゃ。出来過ぎだな。レオ」


 俺はレオンの意見に賛成だ。

 俺たちは本当に片田舎のガキだったんだ。

 鼻水垂らすくらいのガキだったのさ。

 

 「うちら・・・マジで強くなったもんな」

 「ええ。私たち、頑張りましたね」

 「・・・う・・・うん・・・zzzz」

 「「「「 おいおい 」」」」


 完全に眠ったイージスに俺たちはツッコミを入れた。



 ◇


 感慨深くなっている俺たちは、幼馴染で同い年で同じ村の出身である。

 村では仲良し五人組で有名だった。

 悪戯も、村の手伝いもいつも一緒だった。

 いつも同じ感覚で日々を過ごしていたんだ。

 だけど……ある時の出来事から、事情が変わったんだ。

 それが俺たちの絆を駄目に……するわけはなかった。

 その出来事があろうが、俺たちの友情はずっと続いていた。

 このSランク冒険者ファミリーとなって、大出世した今でもだ。



 「おい。団長。こんなところで飲んでないで、俺たちの所にも来てくださいよ」


 ハイスマンが絡み酒で勇者レオンを皆の方へ連れて行った。


 「そうですよ。あなたも来てください。大賢者様も」


 スカナが大賢者ミヒャルを連れていった。


 「あなた様もです。女神」


 キザールが聖女エルミナを連れ去っていってしまった。

 


 おい、キザールだけは許さんぞ。

 せっかくエルミナが俺の隣に来てくれたというのに。

 俺から引き剥がしやがって。

 と思ったけど、俺は眠ってしまったイージスを見張ることにした。

 寝相が悪いことでも有名なので、暴れても大変だから、俺は隣の席に座って彼の世話をした。


 仲間の皆は、四人を尊敬してる。

 当然だ。

 この四人は伝説のジョブを会得している上に使いこなしている。 

 世界でも稀有な四人なんだ。

 それが、俺の幼馴染だったという奇跡。

 これは正しく、三大クエストを成し遂げろとの神の思し召しであると俺は思う。

 そんな彼らのことを人々が尊敬するのはよく分かるんだ。

 俺だってさ。

 たぶん、みんなの幼馴染じゃなかったら、仲間のこいつらと同じように尊敬していることだろう。

 でも俺は、この四人のことを尊敬はしていない。

 いつまでも村から続く友達だと思っていて、俺はずっとこいつらを応援したいと思っている。

 俺は、この四人が何かを成し遂げる人物だと信じている。

 俺は、それを陰ながら支えるだけでいいんだよ。

 それが出来なくとも、俺は、コッソリ草葉の陰からでもこいつらを見ているだけでいいんだ。


 「・・・zzzzzz、眠い・・・」

 「おいおい。寝てんのによ。寝言でも眠いって言葉がでんの!?」


 イージスの鼻提灯が消えて、寝言が出てきた。


 「ルル・・・・なんか食べたい」

 「マジで寝てんのか。こいつ・・・なぁ、イー」


 疑いの目を向けながら、俺は、寝ながらでも食べられるものなのかと半信半疑で試してみた。

 イージスの口の前にウインナーを持っていくと。


 「・・・んぐ! うまい・・・zzzz」


 パクっと一口で食べた。


 「寝て・・食べた! すげえ」


 面白くなった俺は、次々とイージスの口に食事を運んだ。



 ◇


 三人がいなくなり、一人が眠る。

 そうなると俺の周りには人がいない。

 こうなると俺一人となれば、このファミリーでは恒例の行事が開催される。


 「あいつってなんで、英雄様たちのそばにいるの」

 「そうだよな。準だろ。あくまでさ。特級じゃないじゃん」

 「おこぼれで準までいったって話だぜ」

 「マジか。でもあいつ。弱いのに英雄様たちにも命令するらしいぞ」

 「ほんとか。俺たちだけじゃなくか」

 「そうみたい。二級の先輩から聞いた」


 俺の悪口パーティーの始まりである。

 特にファミリーに入ったばかりの奴らの悪口は、大きい声となっていた。

 噂が火だるま方式で燃え上がるから、彼らはその噂に翻弄されるのだ。

 まあ、どうせ、一級や準一級の奴らの愚痴が影響しているのだろう。


 それは俺が、何も出来ないと言われる無職であるから。

 それは俺が、四人にとって一番の信頼を受けていて、特別扱いを受けているから。

 それは俺が、一級冒険者で有名職についている仲間の指揮を無職が取るからだ。


 たぶん、これら全てが仲間たちにとって気に入らないのだと思う。

 俺が、あいつらの力だけで準特級になったとでも思っているんだろうな。

 一級以下の皆も、上級冒険者として有名な職種についているものだから、下の階級でも俺のことを馬鹿にしてくるのだ。

 それは自分を基準にして人を判断しているからだと思う。

 無職・・・これが差別対象になってるんじゃないか。

 俺だって、好きでこの職業になったわけじゃないのにさ。

 人は見た目だけじゃなくて、役職でも判断するってことなのさ。


 「ふぅ~。俺だって好きで、無職になったわけじゃないのにな・・・・ほんとにさ。なぁ、イー」


 人々の冷ややかな声と視線をもらい、俺はイージスの頭を撫でて、ふと昔を思い出した。

 

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