キンタマ:トリップ&トリック
真狩海斗
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気づけば、宇宙にいた。
漆黒の闇の中、幾千の星々が輝いている。遠く向こうで宇宙人が手を振っていた。自然と笑みが溢れる。
振り返そうと右手を上げる。途端に、息ができなくなった。苦しい。次第に視界が白く濁り、フッと意識が途切れた。
目を覚ますと、男女4人が心配そうに俺を見つめていた。地面に触れた手から、マンション屋上のコンクリートの冷たさが伝わる。続いて現実の記憶も蘇る。
そうだ。思い出した。俺は、宇宙なんか行っていない。自らの手で金玉を強打した痛みで、意識がトリップしたらしい。徐々に頭がハッキリしてくるが、激痛は俺を逃がしてはくれない。猛烈な痛みは、俺の脳をジャックすると、またしても
未体験の衝撃を受けた睾丸の中でシェイクされる精子たち。未来の子孫はグッチャグチャに暴れ回り、過去と未来をシャッフルする。目の前では、チョビ髭の男が熱弁を奮っていた。興奮した群衆が周囲で歓声を上げている。鼓膜が破れる程の熱狂。ヒットラーだ。止めないと。腕を伸ばす。瞬間、マッハで後方に引き戻された。ヒットラーの顔が、群衆の顔が、グニョリと横に引き伸ばされていく。待ってくれ。俺の叫びは虚空へ消え、時は
時計の針は未来へ向けて、猛スピードで右回転する。その回転に
俺は暫く滞空し、隣家の屋根へゆっくり着地した。
高らかに宣言する。
「というわけで、犯人は、田中さんを殺害後、自らの金玉を強打してエネルギーを発生。何やかんやで空を飛び、密室から脱出したのです」
痛みが戻った。ウゥと呻く。吐きそうだ。名探偵としての、最後の力を振り絞る。ビシリと指差した。
「そして、容疑者の中で男は…吉田さん、貴方だけだ!!」
絶望した吉田さんが、力なく崩れ落ちた。その股間は、パンッパンに膨れ上がっている。
彼の痛みがよくわかる。ツッー、と涙が溢れた。誰も救われない、哀しい事件の幕が下りた。
キンタマ:トリップ&トリック 真狩海斗 @nejimaga
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