第17話エトノス②
民族固有の魔剣技だと? 小生は目を見開いた。
エステラはイワンから目を離さぬままに説明を続ける。
「当然、その魔術体系は強大な民族であればあるほど、威力も強く、複雑に、高度になってゆく――今世界を支配している五大列強国に弱小国が力づくで逆らえないのは、その【エトノス】の力があるからよ。そしてなおかつ、リューリカの【エトノス】は【支配】。弱者を威圧し、服従させるために発展した魔術体系――」
ブォン! とイワンの大剣が再び振り抜かれ、巨大な光の刃が夜の闇を圧した。
再び俊敏に飛び退ったエステラは、ぜぇぜぇと息を切らしながらも、その目は死んではいない。
「中でもアイツの魔剣技は拷問に特化した陰険な【
「ごちゃごちゃレクチャーしてる暇はねぇぜ! これでどうだ!!」
連続して振り抜かれる大剣から次々と繰り出される、雷撃を伴う斬撃に、エステラが回避に専念して地面を飛び回る。
「ちょこまかと逃げ回りやがって――そんなんじゃ体力を消耗させるだけじゃねぇのか? 俺は一歩も動いてないんだぜ」
「皮肉なら結構よ。アンタこそ、無駄に魔力使って派手な雷撃技ばっかり使うのは見苦しいんじゃないの?」
「へん、俺の魔力測定の結果を知らねぇとは言わせねぇぜ。1500だ。明日の朝までは剣を振り続けられるさ」
イワンの顔が嘲笑に歪む。
「お前の魔力測定の結果は800だったか? 残念、随分鍛錬もこなしたらしいが、魔力量で負けてるんじゃどうあっても結果はジリ貧だ。大人しく降伏した方が――」
「何よ、さっきの魔力測定なんてただのデモンストレーションにしかならなかったじゃないの。――そこの魔力ゼロの人間に実戦でボロ負けした木偶の坊のくせに」
その言葉に、イワンの顔が歪み、ギリギリギリギリ……と噛み締められた奥歯が凄まじい音を発した。
「このアマ、言わせておけば――!」
「おっと、隙アリ」
瞬間、はっ、とした表情になったイワンに向かって、エステラの左手がなにかを引っ張るような動きを見せた。
途端に、キラリと光る何かがイワンとエステラの間に展張したのが見え、小生は目を見開いた。
「私が何も考えずに飛び回っていたと思ってたの? ――残念、アンタにその陰険な雷撃魔法があるように、弱くともカウナシアにも独自の【エトノス】はあった――」
ぎしっ、と、イワンの巨体が奇妙に硬直した。
これは――糸だ。そこかしこの建物や立木に、縦横無尽に張り巡らされた糸。
蜘蛛の糸にも等しい、恐ろしく細い糸が、イワンの巨体を雁字搦めにしている。
「カウナシアは歴史的に強大な大国たちに挟まれ、その支配に何度も抵抗してきた歴史を持つ国。その歴史そのものが、この【抵抗】の【エトノス】――かかったわね! これでもうアンタに身体の自由はないわよ!!」
エステラが大声で宣言した。
なるほど、予め術者の動きに併せて展張しておき、魔力を流し込んだ時点で初めて顕現する「糸」――か。
これも小生が生きていた三百年前には、その発想すらなかった技術だった。
どくん、どくん――と、小生の心臓が高鳴った。
これは――面白い、なんと面白き事か。
民族独自の魔法理論、物理法則を無視して翔ける紫電、そして糸の魔術。
どれもこれも、小生の頭の中にすらなかった理論の数々。
どうやら、小生が、我らが蒔いた種は――異国の風土に揉まれ、小生ですら予想外の進化を遂げているらしい。
激しく感動している小生の前で――ぐっ、とイワンが奥歯を噛み締めた。
「ちっ、小賢しい真似を――これだから女魔剣士は嫌いなんだ。技巧に頼るしかねぇ女の魔術は性に合わねぇんだよ」
「負け犬の遠吠え、ね。そのままただ突っ立ってればいいわ、後は私のこの剣――グルンヴァルトがアンタの首をすっ飛ばす。命乞いをするなら今のうちよ」
剣を構え、最後通牒を手渡したエステラにも、イワンは動じた様子はない。
この余裕、そして何かを思いついた陰湿な笑みに――はっ、と小生は目論見に気づいた。
「エステラ、糸を切れ!」
「えっ?」
「その男の魔法は雷撃属性だ! 通電するぞ――!」
小生が言い終わらぬうちに、イワンの巨体が紫色に発光し――エステラがはっとした表情になる。
瞬間、糸を伝って虚空を疾駆した紫電が、糸を握ったままのエステラにも伝導し、エステラの身体が痙攣した。
◆
次は正午に更新します。
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「続きが気になる」
「いや面白いと思うよコレ」
そう思っていただけましたら、
何卒下の方の『★』でご供養ください。
よろしくお願いいたします。
【VS】
もしよければこちらの連載作品もよろしく。ラブコメです。
↓
『魔族に優しいギャル聖女 ~聖女として異世界召喚された白ギャルJK、ちょっと魔王である俺にも優しすぎると思うんです~』
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