第18話エトノス③

「エステラ――!」




 エステラが悲鳴を上げてその場に倒れ伏したのと同時に、糸は千々に千切れて虚空に消える。


 コキコキ、と首を回しながら、イワンは嗜虐的な笑みを浮かべ、のしのしとエステラに歩み寄った。




「ザンネン、発想はよかったが――俺の【エトノス】とは相性が悪すぎたな。雷撃魔法は魔法的に構築されたものなら通電する特性を持つんだぜ?」




 エステラが必死になって上げようとする顔、その顎下を掴み、イワンが薄気味悪く嗤った。




「ほう――ちょっと会わねぇうちにますます美人になったじゃねぇか。この身体とこの顔を将来は俺が好き放題に出来る……たまんねぇぜ」




 ぶるり、と身体を震わせたイワンを苦痛の表情とともに睨みつけたエステラに、イワンがふん、と鼻を鳴らした。


 瞬間――激しく発光した電撃が顎を掴まれたままのエステラの身体に通電し、エステラが鋭く悲鳴を上げた。




「まだだ、まだ折れるな。お楽しみはこれからさ――」



 

 イワンは愉しむかのように宣言し、何度も、何度もエステラの身体を電撃で苛む。


 とても正視に堪えないような状況だったが――小生はそれでも見届け続けた。


 十回、いやそれ以上の電撃による拷問に、エステラの身体が激しく痙攣した。




「おーおー、こりゃ随分と苦しそうじゃねぇか……。いいか、メス犬。わかってねぇようだから教えてやる。強い者には、弱い者は敵わねぇんだ。抵抗するからご主人様に躾けられるんだぜ、こんな風に――!」




 瞬間、エステラの身体を直撃した特大の大電流に、エステラが喉が引き裂けそうな絶叫を発した。


 エステラの新品の学生服が焦げ、凄まじい異臭が風に伝わって小生の耳にも届いた。




「カウナシアはもうこの世にはねぇ。リューリカの一部になって滅んだんだ。お前が如何に国のことを思っていようと、今のお前はただの女、リューリカのお情けでこの学園に来れただけの女なんだよ」




 イワンはエステラの髪を掴み上げ、絶望を刷り込むかのように耳元で囁いた。




「もう抵抗するのはやめな。お前さえ大人しく俺のものになるってんなら、最悪あの猿を叩き殺すのは勘弁してやってもいいんだぞ? これでも俺も心苦しいんだぜ、弱い者イジメは――」




 瞬間、エステラが顔をもたげ、イワンの顔に向かって唾を吐きかけた。


 びちゃ、と頬に着弾した汚物に、イワンの顔が青褪める程に激高する。




「カウナシアをナメんじゃないわよ……! たとえ地図上から消されたって、私の祖国は今もちゃんと、ここにある――!」




 エステラは涙さえ滲ませながら噛み付くかのように怒鳴った。




「クヨウが教えてくれた! 祖国はある……カウナシアはある! 今もちゃんと、私の心の中に、誇りの中に、魂の中に――! アンタなんかに絶対否定させない! アンタみたいなゴミムシ野郎に支配できるほど、カウナシア王家は腰抜けじゃないんだよッ!!」




 空恐ろしい程の覚悟が込められたその啖呵に、イワンが地面に突き立てていた剣を抜き上げ、エステラの右手の甲を足の裏で踏みつけた。


 手が砕けそうな苦痛を唇を噛んで耐えたエステラに、イワンが顔を歪めた。




「このクソ女――! なら今から俺は一本ずつ、テメェの指を落としてやる……! 何本で音を上げるか見届けてやらァ!!」




 かなり本気のその声とともに、イワンが剣を逆手で握り、ゆっくりと、剣の鋒をエステラの手に近づけていく。


 だが、しばらく圧倒的な勝者の愉悦に浸っていたらしいイワンの顔が――ゆっくりと、徐々に弛緩していった。




 エステラの目は――この期に及んでも全く死んでいない。


 これから切り落とされんとする己の指などに目もくれず、しっかりと、澄んだ目でイワンを睨みつけている。




 その視線に――イワンが明らかに、ゾッとした表情を浮かべた。


 一瞬、動揺したように巨体を身動がせたイワンは――数秒後、顔をひん曲げ、気が狂ったかのような怒号を発した。




「こっ、この、この野郎がァ――! なんだその目は!? なんだその顔は!! 俺には出来ねぇって言いてぇのか!! メス犬の分際でナメんじゃねぇっ!!」




 イワンが大剣を振り上げて喚き散らした。




「もういい――! 腕ごと叩き落して終いにしてやる!! こっ、後悔すんじゃねぇぞ! テメェが全部全部悪いんだからな――!!」




 今まさに振り下ろされんとする剣を見て、エステラがきつく目を閉じた、その瞬間――。


 小生は地面を蹴った。




 逆手に握られた剣の鋒がエステラの右腕へと落ちるのへ手を伸ばす。


 ズッ! と、小生の掌の肉を裂く衝撃が左手に伝わり――大剣が止まった。




「はっ――!?」




 その先の挙動を止められ、イワンが目をひん剥いた。


 掌から滴った鮮血がエステラの頬に落ち、目を開けたエステラが――その光景を見て息を呑んだ。




「勝負あり。この勝負、エステラの勝利である」



 

 その言葉に、イワンが動揺した。




「な、何を――!?」

「貴公、今、恐れたであろう? エステラの覚悟を、その魂の強固なることを。それが証拠に、何度攻撃を喰らってもエステラの誇りは折れなかった――」

「な、なんだとォ……!」

「これ以上は無駄なること。何度拷問しようと、如何に支配しようと、エステラの誇りを折ることは、貴公には決して出来ぬ。――エステラの勝利で相違あるまい?」




 その言葉と共に刃から手を離すと、イワンがよたよたと後ずさった。


 小生は刀の柄に手をかけた。




「安心せよ、今しがたの貴公がやったことのせいで、今の小生は少々機嫌も、胸糞も悪い。貴公のその穢れ切った魂は、エステラに代わって小生が斬る。二度と突き立てられぬ程に寸寸ずたずたにしてくれようぞ――」




 小生は右手で刀の鯉口を切り、世界中に宣言するかのように、言った。




「不肖、蜂須賀九曜――推して参る」







次は午後五時に更新します。


「面白かった」

「続きが気になる」

「いや面白いと思うよコレ」


そう思っていただけましたら、

何卒下の方の『★』でご供養ください。


よろしくお願いいたします。



【VS】

もしよければこちらの連載作品もよろしく。ラブコメです。


『魔族に優しいギャル聖女 ~聖女として異世界召喚された白ギャルJK、ちょっと魔王である俺にも優しすぎると思うんです~』

https://kakuyomu.jp/works/16818093073583844433

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