第15話「ない」とは何か②
エステラが真っ赤になった目を上げた。
小生は一言一言、噛んで含めるように言った。
「さっきから聞いておれば、あなたは常に『ない』という。魔力がない、力がない、才能がない……では、あなたの言う『ない』とは何だ? どういう状態のことをあなたは『ない』と定義する?」
「そっ、そんなの……!」
エステラが口を開きかけて、困ったように沈黙してしまった。
「そうだ、エステラ。あなたは『ない』という概念を何も理解しておらぬ。初めから説明さえできぬものに
小生が畳み掛けると、エステラの困惑がますます強まった。
瞬間、小生たちの間を夜風が吹き抜け、エステラの美しい白金の髪を揺らした。
「だが風は吹くぞ。見えずとも聞こえずとも触れずとも、今この瞬間にも小生たちの周りを吹き渡っておる。見えぬからなんだ? 聞こえぬからなんだ? 触れぬからなんだ? 風はある、存在するのである。そうではないか?」
「そっ、そんなのは――!」
「屁理屈だ、と言うか? ならば更に問おう。魔力がゼロの小生は今何故こうして生きておる? 何故今もあなたと会話ができている。それを考えて尚わからぬか。魔力なるもの、魔術――力というものの根本が」
小生が言うと、エステラが露骨に戸惑った。
小生はゆっくりと言った。
「エステラ、あなたの中にも『ある』、あるのだ。あなたがあるものを『ない』と思えば、そこで力は死ぬ。あなたはあなたの中に確実に存在するものを、必死に『ない』と思い込んで、それに囚われておるだけだ。魔力も同じだ。力とは、頭の、そして心の中で生まれるものだ」
「意味が――意味がわからない! クヨウ、あなたは何を言ってるの……!?」
「全てを今ここで理解せよとは言わぬ。だが、ほんの少し、ほんの少しでもこれが真実の言葉だとは思えぬか? あるものをないと思えば、それは本当になくなってしまう――あなたの祖国も同じだ」
祖国。その言葉に、エステラの目が揺れた。
小生は言った。
「今の言葉を聞く限り、あなたの祖国は地図上にはもうないのかもしれない。だが、ある。決して消えてはおらぬ。あなたが、あなたの祖国そのものなのだ。国とは人のこと――その亡き祖国を想い続けるあなたがいる限り、祖国はある。あなたの中に、たった一人でも――」
「おいおい、静かな夜に騒いじゃいけねぇよ。猿は本当にやかましい生き物だな」
その陰険な声、そして何よりも、むんと濃くなった殺気に、小生は振り返るより先に刀の柄に手を伸ばしていた。
しかし刀を抜くその直前、仰天した表情のエステラが咄嗟に地面を蹴り、小生を力任せに押し倒したと思った途端――。
ゴ、という何かの音がして、小生の視界が闇に包まれた
◆
「面白かった」
「続きが気になる」
「いや面白いと思うよコレ」
そう思っていただけましたら、
何卒下の方の『★』でご供養ください。
よろしくお願いいたします。
【VS】
もしよければこちらの連載作品もよろしく。ラブコメです。
↓
『魔族に優しいギャル聖女 ~聖女として異世界召喚された白ギャルJK、ちょっと魔王である俺にも優しすぎると思うんです~』
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