第14話「ない」とは何か①
エステラは小生の手を掴んだまま男子寮を出て、ずんずんと広い学園の裏庭を歩いていく。
その辺りで、小生も流石にエステラに声をかけた。
「えっ、エステラ! どういうことなのだ!? そろそろ説明せよ、小生をどこに連れてゆくつもりか!?」
「クヨウ、悪いことは言わない。今からこの学園を出て。そして今夜は街に潜伏して、朝一番の船で大八洲へ帰って」
信じられない内容の言葉に、小生は目を見開いた。
エステラはこちらを振り返らないまま歩いていく。
「昼間のあなたはやりすぎた……私の屈辱を雪ぐためにあなたは戦ってくれた、それは感謝してる。けれど、それのせいであなたを危険に晒すことになってしまった。だから――わかって。あなたはこのまま祖国へ帰るの」
「こっ、断る! 手を離してくれ!!」
大声で叫び、小生は手を振り払った。
「今の言葉は正気か、エステラ!? 小生は小生だけの力でここにおるのではない! 大八洲の、周囲の人間の期待を一身に背負ってこの学園に来たのだ! その期待を裏切って帰れだと!? 武士の、否、剣士の言うこととは到底思えぬ! どういう理由でそんな言葉を言う!?」
小生の詰問に、くっ、と唇を噛み締めたエステラが、震える声で言った。
「――クヨウ、辺境国出身のあなたにはわからないでしょうけど、リューリカの人間は想像以上に残虐で執念深いの。新入生全員の前で恥をかかされたイワンは絶対にあなたのことを許さない。今後も繰り返し付け狙ってくるはず。あなたの身が危ういのよ、だからわかって……!」
「ならば何度でも返り討ちにするだけのこと! 小生、この学園に進むと決めたときからあらゆる覚悟は決めて来ておる! あちらが矢でも鉄砲でも持ち出すならば望むところ――!」
「だって――! あなたは魔力が一滴もないじゃない! つまり魔法が使えないってことでしょ!? そんな人がどうやって魔剣士とまともに戦うって言うのよ!!」
悲鳴のようなエステラの声に、小生は言葉を飲み込んだ。
「今日一日見てたけど、あなたには魔剣士としての最低限必要な資質がほとんどない! 魔力もゼロだし、【エトノス】なんて存在自体知らなかった! 多少剣術が出来るようだけど、そんなもの魔剣士の魔剣技相手にはなんの意味もないのよ!!」
この、深く深く、魂にまで刻み込まれたかのような無力感――。
この無力感は、そして絶望は、何がそうさせるのだ?
エステラの言葉を聞いた小生は顔をしかめた。
「私の国だってそうだった、私の祖国であるカウナシアだって、リューリカが侵攻してきた時、必死になってみんな戦った……! けれどリューリカの魔剣士たちによって全員殺された! 口ではどんなに強がりを言ってても、弱い者は強い者には逆らえないのよ――!」
エステラが隠さず泣き始め、唇を噛んで顔を俯ける。
カウナシア、リューリカの侵攻……なるほど、それでか。
小生は少しだけ、エステラが抱える莫大な無力感の正体を知った。
「私にだって、私にだってあなたを守れる力があるならそうしたい! でも無理なのよ、どんなに努力したって私の魔剣士としての才能には限界がある! 私、こうすることでしか、私を友達だって言ってくれたあなたを助ける方法がないから、こうするしか……!」
そのまま激しくしゃくり上げ始めたエステラに、うっ、と小生は唸った。
なんとも――女性に泣かれると、これがどうにも困る。
こういうときの上手い慰め方など、軍でも教えてくれなかったし、師も教えてくれはしないだろう。
しばらく、何と言うか迷って……拙者は結局、言いたいことを言うことにした。
「では問おう、エステラ。あなたが先程から言う『ない』とは何だ?」
◆
なんかめっちゃPVが多くて震えています……。
どういうことだよこれ……。
「面白かった」
「続きが気になる」
「いや面白いと思うよコレ」
そう思っていただけましたら、
何卒下の方の『★』でご供養ください。
よろしくお願いいたします。
【VS】
もしよければこちらの連載作品もよろしく。ラブコメです。
↓
『魔族に優しいギャル聖女 ~聖女として異世界召喚された白ギャルJK、ちょっと魔王である俺にも優しすぎると思うんです~』
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